コラム いごくたまる、またいごく
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そして、またいごく―紀南アートウィーク2024を終えて―(前半)
紀南アートウィーク実行委員会藪本雄登1はじめに―粘菌的な展覧会とは―紀南アートウィーク2024「いごくたまる、またいごく」は、無事終了したが、筆者たちの実践はこれで終わるわけではなく、今後も粘菌のように引き続き動き続ける。今回、図1のキーヴィジュアルのように、筆者たちは、粘菌のような融通無碍なネットワークから成り立つ展覧会/アート・プロジェクトを志向した。これまで紀南アートウィークのキーヴィジュアルの多くを担当してきたデザイナーの竹林陽子(colographical)に依頼し
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そして、またいごく―紀南アートウィーク2024を終えて―(後半)
紀南アートウィーク実行委員会藪本雄登「そして、またいごく―紀南アートウィーク2024を終えて―(前半)」に続いて、後半の記事を公開しました。4.2留まるという抗いカンボジア出身のティス・カニータ(Tith Kanitha, 1987−)は、顕彰館から徒歩5分のSOUZOUにおいて《無題》(Untiled, 2019)を展示した。カニータは、カンボジアでは日常的に利用される一般産業用のスチールワイヤー(鋼線)を用いて、直観的な手の動きから作品のかたちを生み出している。2023年
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「粘菌性」再考
唐澤太輔(秋田公立美術大学准教授)1, はじめに―「粘菌性」とは―「粘菌性」とは何か。それは、一般的に考えられる生と死、動物と植物、雄と雌といった二項対立を超越するあり方と言える。いや一般的にと言うには少し語弊がある。そもそもこのような対立的分類は、あくまでロゴス的思考のみに囚われた考え方だからだ。簡単に言えば、それは、同一律(同じものは同じ:A=A)、矛盾律(肯定と否定は両立しない:A≠B)、排中律(事物は分離できる:A/B)といういわゆるフォーマルロジックを基にした思考で
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紀南アートウィーク2024「いごくたまる、またいごく」をめぐって
四方幸子初めて訪れた「紀南アートウィーク」(以下:KAW)は、結論から言えば規模、場所や会場、作品などあらゆる面から非常にバランスが良く、楽しめ、そしていいシナジーに溢れたものだった(実行委員長の薮本雄登さんから「厳しめに書いてください」と言われていたものの、私の思う限りではこれといって思いつかない)。想像するに、過去3回において出た課題に対してしっかり向き合い対応をしてきたこと、地域出身・在住のスタッフが多く、フェスの時期以外でも継続的に地元の人々、組織、企業とコミュニケー
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「粘菌性」をテーマにした「いごくたまる、またいごく」展を9/20~9/29 和歌山県田辺市・白浜町にて開催!
紀南アートウィーク実行委員会では、2024年9月20日 (金)〜9月29日 (日)の10日間にわたり和歌山県田辺市・白浜町の複数箇所にて「いごくたまる、またいごく」展の作品展示および関連イベントを開催いたします。また本展のガイドブックは、こちらからダウンロード可能です。▶ 「粘菌性」を切り口に、国内外のアーティストが多数参加。地域のリサーチを元に制作される新作も登場。▶ 徒歩での周遊も可能なコンパクトな範囲で、複数の展示を展開する田辺市の『メイン展
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「いごくたまる、またいごく」展ガイドブック公開!
2024年9月20日 (金)〜9月29日 (日)の10日間にわたり和歌山県田辺市・白浜町の複数箇所にて「いごくたまる、またいごく」展の作品展示および関連イベントを開催いたします。詳細につきましては、ガイドブックをご覧ください。ガイドブックをダウンロードいただくことも可能です。なお、田辺市内、白浜町内の協力配布先に設置しておりますので、ぜひ手に取っていただけると嬉しいです。2024紀南アートウィークガイドブックダウンロード
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「種を蒔く」展
和歌山県JR白浜駅前、真珠ビル1階nongkrongでは9月20日~10月20日まで、アート作品を通して、鑑賞された人々と共に完成へと育む展覧会【種を蒔く】展を開催します。同展では、真珠ビルオーナー尾崎寿貴がキュレーションを担当します。本展では、以下の2作品を展示します。・《包まれた未来 2 / WRAPPED FUTURE II》 リム ソクチャンリナ / Lim Sokchanlina(プノンペン在住)・《無題 / Untitled》廣瀬 智央 / Satoshi Hir
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水の越境者(ゾーミ)たち
川久ミュージアムでは、2024年9月6日(金)から10月14日(月)まで、紀南出身の博学者・南方熊楠が保全した神島を眼の前に、いにしえの時代からの黒潮海流を通じたアジアと日本列島の「水」を巡る交流を示す物語として「水の越境者たち」展を開催致します。同展は、紀南アートウィークが、ディレクション、キュレーションを担当します。本展では、クヴァイ・サムナン(プノンペン在住)やティタ・サリナ(ジャカルタ在住)の東南アジアを代表するアーティストの海や河川を巡る多義的な作品とともに、主に黒
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「境界をまたぐ」展示紹介
今年の紀南アートウィークは、まちなかへと広がっていきます。移動とは領域を超え続けること。誰かの土地に侵入し、出ていくことの連続であり、歩くことのできる場所のほとんどは、個人や国などに属します。しかし、例えば普段人が足を踏み入れない森のような場所に立った時、いろいろな属性から解き放たれて、その場所と対峙したような経験はないでしょうか。表現に出会い、感性を開くことは、今いる場所の固定化された意味からも解放してくれるかもしれません。出展作家:久保 寛子(千葉)、杵村 直子(田辺市)
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「粘菌:うごく、とどまる」会場紹介
和歌山県が生んだ日本を代表する知の巨人、南方熊楠。その熊楠が残した蔵書・資料を恒久的に保存し、熊楠に関する研究する顕彰館では、熊楠が生涯を通じて研究した粘菌の世界に共鳴する作品を展示します。ヘアート・ムルの自然物らしきものがゆっくりと変化し続ける映像作品は、(作家本人は意図していないにも関わらず)まるで粘菌の動きを想起させるようにもみえます。2022年から紀南アートウィークでも作品を発表し、〈コモンズ農園〉プロジェクトを行っている廣瀬は、これまでの田辺での滞在から熊楠の思想「
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「留まるという抗い」会場紹介
SOUZOU/旧岩橋邸では、現在急速な発展を遂げるメコン経済圏のアーティストたちの作品を展示します。タイキ・サクピシットは、幻想的でありながらも不穏さが漂う映像表現で現代タイの緊張感を、チュオン・コン・トゥンは、ただ美しくノスタルジックではない混沌とした現実的な夢を、それぞれ映像作品で表現しています。カニータ・ティスは、カンボジアでは日常的に見ることができる鋼線を用いて、直感的な手の動きから作品のかたちを生み出しています。彼らのまなざしは、かつての日本の高度経済成長期に誰もが
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「変わり続けるかたち」会場紹介
変わらないと思い込んでいるほとんどの事象も、人間の時間軸や観念から引き離すことで変化の中にあることに気づかされます。コン・ダラーの作品に現れる有機的な形態は、生における変化や成長をイメージさせつつも、同時に既存の枠組みにとどまらない未分化な状態、または第三の選択肢を示すような状態とも見て取れます。黒木由美は田辺市の柑橘農家などに協力を仰ぎ、ミカンの木や廃棄物を灰にして釉薬を作り、陶の作品を作り出します。この地域で育ち現在も田辺を拠点に活動を続ける杵村直子は、粘菌の増殖性に着想