廣瀬 智央
  • アーティスト

廣瀬 智央

廣瀬智央(1963-)はミラノを拠点とし、90年代の活動初期より精力的に制作活動。日本、アジア、イタリアなど世界各地の美術館、ギャラリーでの展覧会に数多く参加してきました。また、最近では、母子生活支援施設の母子と空の写真を交換し合う「空のプロジェクト」(前橋、2016年から2035年まで継続)など、社会との接点を意識し既存のアート活動を超えた長期的なプロジェクトも手がけています。

廣瀬作品のコンセプトの幅は、マクロな視点で地球全体、国や季節を越えて果ては宇宙へも広がります。それと同時に、廣瀬は日々のイタリアの食生活から豊かさや多様性を発見し、異文化間の旅での出会いや対話から共通するささやかな幸せの感覚、生きることのへの意味を見出します。そんな日常性を芸術的レベルに移転させ、鑑賞者の五感に強く働きかけるのが廣瀬作品の大きな特徴といえます。

レモンやスパイスを床一面に敷き詰め、視覚や嗅覚、味覚を刺激するインスタレーション、空の写真、細胞が無限に増えていくような「ブルードローイング」、「ビーンズ コスモス」シリーズでは、豆、パスタなどの食材と、丸めた地図やビー玉、金などをアクリル樹脂のなかに浮かべています。

廣瀬は、人工と自然、昼と夜のような、事物の間の領域や小さなもの、周縁にこそ見過ごされがちな豊かな世界があることを見出し、その表面に現われない、奥にある矛盾や不確定なものを捉えてきました。鑑賞者は、展示空間を回遊しながら、様々な視点や角度から廣瀬が構成した作品世界を体感することができます。視点を変えることで見え方が大きく変わるこの異質なものの共存は、私たちの社会そのもののようです。

美術評論家の椹木野衣は、廣瀬作品に対して次のように評しました。「旅」は、身体の移動というだけでなく、五感をめぐる身体図式の組み替え、という意味でも『旅』なのだ。廣瀬智央の過去のプロジェクトにおいても、様々な「におい」が使われていたが、それはいずれも、このような五感をめぐる旅、という側面を持つ。」