コラム

ワークショップ「インドのスパイス、ベトナムのハーブ、和歌山のみかんでチャイをつくろう!」を振り返って

企画・インストラクター:ラワンチャイクン 茉莉 (大阪大学文学部4年)

昨年夏より、インドのスパイスと日本各地の茶葉・素材を掛け合わせたチャイ製品と、その製造過程、生産者へのインタビュー、さらに土地の歴史や風土などをおさめた映像作品を制作するアート・ビジネス複合型プロジェクトを始動させました。それは、私のルーツである日本とインドそれぞれに眼差しを向ける初の個人的な試みであり、また同時に、芸術文化を通して両国の橋渡し的な存在になるという壮大な夢を実現させていく手段でもあります。

現在、他県での製品化とリサーチが始まっていますが、ここ紀南でも、ベトナムの作家トゥアン・マミとのワークショップ「インドのスパイス、ベトナムのハーブ、和歌山のみかんでチャイをつくろう!」を出発点として、「和歌山チャイ・プロジェクト」という新たな挑戦が始まりました。

ワークショップでの「みかんかく」

2023年の紀南アートウィークのタイトルは、「みかんかく」でした。みかん(未完、蜜柑、未感)に、かんかく(感覚、間隔)…。どのように漢字変換するかは三者三様ですが、私は、「蜜柑」をはじめとしたあらゆるものに対して「感覚」を研ぎ澄ますことで、普段素通りしてしまう何かを知覚する/し直すことが緩やかに促されているように感じました。それにより、物質・非物質に関わらず「未感」であるものや「間隔」へ意識が向くようになるようになるのではないでしょうか。

例えばワークショップでは、まず視覚以外の「感覚」(味覚・嗅覚・触覚)でもってスパイスやハーブ、みかんを試してもらいました。見知ったスパイスやハーブの強烈な香りに顔をしかめる方、市販では中々見かけないホール・スパイス(そのままの状態のスパイス)の形状と触り心地に驚く方、さまざまでした。しかし共通して、「感覚」を呼び覚ますことでそれまで「未感」だったものを知覚する/し直す時間になったのではないでしょうか。

ワークショップ後半では、与えられたテーマに沿って実際にスパイス、ハーブ、みかんをグループごとに調合し、チャイを一から作ってもらいました。ここにおいて繰り返し呼びかけたのは、直感を大切に自由に作ってほしい、ということです。なんとも捉え所の無い「感覚」、直感。直感、すなわちインスピレーションやひらめきが、オリジナルなアートを生み出す重要な要素の一つではないでしょうか。


参加者それぞれが自分の直感を研ぎ澄まして作ったオリジナルなチャイは、人と人を繋いできたインドのソウル・ドリンクを超えて、協働による一つのアート作品に成ったと思います。

今回のワークショップは、紀南アートウィークのアーティスト・イン・レジデンス事業に参加中であったベトナムの作家トゥアン・マミとのコラボレーションとして実現しました。かつて旧東ドイツ地域に植えられたベトナム植物が、マミの手によって旧西ドイツ地域へと越境する映像作品、そこでマミが出逢った「毎年ベトナムの植物が野生しているのを見に行って、自分も強く生きねばと思う」と話したドイツ在住ベトナム人男性の話を通して、ハーブがいかにベトナム人にとって欠かせないものであってきたのか、実感することとなりました。

改めて、今回田辺のみかんが、私の持参したインドのスパイス、マミの友人である技能実習生らが持参したベトナムのハーブと出逢い、それらが一つのチャイとなったことは、マミの作家活動にも通じる、ローカルな場を越境した遥かなる繋がりを生み出す行為であったように思います。

しかし、ここでタイトルの「みかんかく」に戻って気がつくのが、ワークショップでは「間隔」を取りこぼしてしまったことです。前半ではスパイスの特徴や効能についてお話しましたが、対する反応はそれぞれで、参加者へさらに直感的なチャイづくりを促すよう心の「間隔」、すなわち余白を意識する必要があったと学びました。それにより、新たな心地よい「間隔」を生み出したり、既存の「間隔」を認識したりするきっかけとなったかもしれません。

おわりに

視覚は、人の五感による知覚の約8割を占めると言われています。その視覚ではなく、約2割の聴覚・嗅覚・触覚・味覚、そして直感でもって感じ取ることを可能にする私自身のアートとは、一体どのようなものなのでしょうか。今回のワークショップでは、企画から実行までの思考、マミや参加者との交流を経て、それに対する答えの片鱗が見えてきたように感じています。

写真:下田学(coamu creative)