コラム

廣瀬智央「コモンズ農園」プロジェクトが問いかけるもの ー秋津野のテリトーリオがもたらす拡張されたアルテ・ポーヴェラの可能性ー

石倉敏明

石倉敏明氏による寄稿文は、みかんという身近な果実を手がかりに、農業、風土、芸術、思想が交わる〈コモンズ農園〉の可能性を多角的に読み解く論考です。

石倉氏はまず、一つのみかんが、土、水、光、植物、動物、人の労働、長い時間、地域経済、そして世代を超えた継承によって育まれていることに注目します。果樹栽培は、短期間で成果を求める現代社会の価値観とは異なり、遠い未来を見据えながら土地や環境を次の世代へ引き継ぐ営みです。そこには、未来の人びとに対する「良い祖先」としての責任を考える契機があると石倉氏は指摘します。

さらに、イタリアの「テリトーリオ」という概念や、自然環境と人間の暮らしを一つの地域的なまとまりとして捉えるバイオリージョナリズムの視点から、秋津野の水系、地形、柑橘栽培、生活文化を読み直します。それらは個別に存在する資源ではなく、地域の人びとや人間以外の生命によって長い時間をかけて育まれてきた、潜在的なコモンズとして捉えられています。

本稿では、熊野の自然信仰や南方熊楠の思想にも光が当てられます。神社合祀に反対し、鎮守の森や生物多様性を守ろうとした熊楠の実践は、自然と地域に蓄積された知恵を共有し、人間以外の存在とともに生きるための「コモニングの方法」として再評価されます。〈コモンズ農園〉は、こうした精神を現代芸術の実践として受け継ぎ、地域に根差した農的な暮らしと、外部からもたらされる現代美術の方法を対立させることなく、結び直そうとする試みとして位置づけられています。

後半では、廣瀬智央の作品とアルテ・ポーヴェラとの関係が論じられます。日常的な素材や自然物、果実、土地に生じる変化を扱ってきた廣瀬の実践は、作品を制作し展示することにとどまりません。みかんの苗木を分かち合い、多くの人びとが時間をかけて育てる〈コモンズ農園〉へと広がることで、「拡張されたアルテ・ポーヴェラ」の可能性を示しています。

石倉氏は〈コモンズ農園〉を通して、21世紀における豊かさと貧しさ、身体と精神、農と芸術、人間と人間以外の生命の関係を改めて問い直しています。

寄稿文の全文は、〈コモンズ農園〉のウェブサイトでお読みいただけます。

 廣瀬智央《熊野ラディーチ_05》2022年 写真:Tartaruga

廣瀬智央《ビーンズコスモス》(部分)2017年 写真:Tartaruga