コラム

【キュレーションストーリー Vol.1】アドベンチャーワールド

紀南アートウィーク キュレーションストーリー

紀南アートウィークにおけるキュレーションのバックヤードをご紹介するシリーズ「キュレーションストーリー Vo.1」をお届けします。
第一回目は、日本が誇る動物園、テーマパークである和歌山アドベンチャーワールド様をご紹介致します。今回、紀南アートウィークの展示場所となりますので、その成り立ち、歴史、思想等を深堀りしていきます。

和歌山アドベンチャーワールド
https://www.aws-s.com/



株式会社アワーズ
https://www.ms-aws.com/

写真:南紀白浜アドベンチャーワールド 40周年誌から引用

写真:株式会社アワーズ これまでの歩み/History https://aws-40th.com/history.html

和歌山アドベンチャーワールド40年誌「Smile -人間と動物の接点から世界を見る-」

写真:和歌山アドベンチャーワールド40週年誌より https://ntj1993.com/works/478/

<今回のゲスト>

株式会社アワーズ(AWS Co., Ltd.)
代表取締役社長 山本 雅史さん
明文化された「理念」を構築し、社員1人1人の幸せの先にある「笑顔溢れる明るい豊かな社会の実現」を目指す、理念経営を実践しています。
山本代表メッセージ
https://www.ms-aws.com/about/message/

<聴き手>

紀南アートウィーク実行委員長
 藪本 雄登

紀南アートウィーク事務局長
 下田 学

<編集>
紀南編集部 by TETAU
https://good.tetau.jp/

.

<目次>

1.アドベンチャーワールドのなりたち
2.人間と動物の関わり
3.大切にする軸
4.山本さんのストーリー
5.アドベンチャーワールドのこれから
6.アドベンチャーワールドはアートか

1.アドベンチャーワールドのなりたち

藪本:
母親がアドベンチャーワールドのオルカの調教師であったこともあり、幼少期から接点があり、今回、ご縁をいただきありがたく思っています。
さっそくですが、アドベンチャーワールドの創業史、物語について教えて頂けないでしょうか?

https://lh3.googleusercontent.com/3O_2r-87WDY7Y9pJe8lwXrrCF8YHUX9UCqETcTIzFKINW-OeS0qpiWroj92Q0fO1VU2xDceSFLAOgEGvTOTjTyotecbs5Bvlyc9hcG1nlt6dqYe1TpHibhdyg4LAs2FV9Aqy-Hbm
写真:アワーズ/これまでの歩み/1979年
https://aws-40th.com/history.html

山本さん:
アワーズは1976年設立されました。私が生まれたのが77年ですから、私はほぼアワーズの成長とともに育ったと言えます。
私の祖父、山本末男は、大工の丁稚奉公から建設会社を創業し、アドベンチャーワールドの建設を請け負ったと聞いています。もとはゴルフ場の予定だったそうなのですが、当時、全国的にサファリ型動物園ができ始めた頃で、当時のオーナーが「ワールドサファリ」という名でスタートされました。オープン人気もあり、大阪から車で5,6時間かかっていたにもかかわらず、初年度は130万人もの来場者がありました。オープン当時はとても人気があったそうですが、受け入れ態勢や施設設備が十分でなく、来場者は徐々に減っていきました。建設費用も当初予定の倍に膨れ上がったこともあり、資金的に厳しい状況となり、結局、オープンして1年半ほどで我々が経営を引き継ぐことになったと聞いています。

藪本:
バブル、オイルショック(※第一次オイルショックは1973年)の前ですよね。もとは請負会社だった会社が、経営を引き継いだということですよね。経験のない分野で、よく引き受けられましたね。

山本さん:
オープン人気がなくなった為、その後の経営は大変だったようです。

藪本:
引き受けたのは、ひとを大切にするということと関係あるのでしょうか?

山本さん:
祖父の末男は、もともとは動物が苦手だったと聞いています(笑)
しかし、いつも「ひとを大切にする事業をしよう」とする信念は、建設業でもエンターテイメント業でも変わりはなかったのだと思います。創業カリスマ経営者の典型です。

藪本:
母も、「女の子をオルカに乗せてみたらおもしろいんちゃうか」という発想で、オルカの調教師になりました。感謝しております。
建設会社の経営方針がアワーズに引き継がれ、企業理念が明文化され、広がったということですね。

山本さん:
もともとの会社は、思いをもった動物好きが集まったような会社であり、組織としてはまだまだ未熟であったのかもしれません。それで、建設業の組織運営仕組みを導入したと聞いています。創業者というのは、その存在自体が理念だと思うんですよね。2代目、3代目は、創業者の思いを、何らかの形で明文化しないといけない。

藪本:
私の本業は、インフラ関係、PPPが中心です。日本の企業が請負だけではやっていけなくなっているのを見てきたことが、今回のアートウィークの発端となっています。

2.人間と動物の関わり

https://lh6.googleusercontent.com/fHK0QcQRTx_aBDLtBuSi_AgQKg-6WelZGNeqx8OlL008YDuQBPU3AX1wimJiAX6nKoNy8-u6U9d3SkGPyEr8KTVcWOmA_qKWVrEt0k1ABsYC0IH3dPMjV_HLN9fU1wo4rumhEK7D
写真:ツアーアトラクション/ケニア号
https://www.aws-s.com/attractions/detail?id=att013

藪本:
パークづくりの軸となるものはどのようなものだったのでしょうか?

山本さん:
「ひとと動物と自然のふれあい」をテーマとしてパーク運営を行ってきました。

藪本:
テーマがすごいですね。

山本さん:
20年前、動物園とは観るだけの場所で、動物にふれあう、という感覚はなかったんです。このテーマを軸に、他にない価値として「ふれあい路線」をパークに取り入れたんです。
大型動物のキリンやゾウは、ゲストの安全を確保しながら、スタッフがゲストと動物の架け橋となっています。

写真:ツアー・アトラクション/マリンライブ「Smiles」
https://www.aws-s.com/attractions/detail?id=att001

山本さん:
普通のサファリは車で見るだけでした。これを「自転車で入ろうよ、ゴルフのカートで入ろうよ」と。草食動物のところ限定ではあるけれど、歩いて回れる動物園は他にはありません。

藪本:
民間だからこそ、できたんですね!

写真:ツアー・アトラクション/サイクリングサファリ
https://www.aws-s.com/attractions/detail?id=eve018

藪本:
「ひとと動物の関係」をもう少し深掘りしてみたいのですが。HPによく出てくる「Smile」にも関係していますか?

写真:ANIMAL動物の紹介/肉食動物
https://www.aws-s.com/animals/

山本さん:
ひとと動物の関係性を認識ができるのは、人間だけですよね。自分を認識するためには、他者の存在が必要です。以下は、持論ですが、「ひとが動物園に行く理由のひとつは、自己を認識するためではないか」と考えています。
普段の生活は情報量が多すぎるので、非日常である動物がいて、動物とかかわる、観ることにより、シンプルに、自己の存在を確認できるんじゃないかと。最終的に、動物とひとは、分けることはできないと思うのです。

写真:ANIMAL動物の紹介/海に暮らす動物
https://www.aws-s.com/animals/

藪本:
「人、動物、自然に境界はない」という、例えばですが、仏陀の世界観が、アドベンチャーワールドにも通じているのだと思います。ジャイアントパンダの飼育や繁殖の成功も、これに関係するのではないでしょうか?

山本さん:
飼育スタッフの仕事を見ていると、彼らは実によく動物を観察していて、動物が自分ではできないことをちゃんとサポートしているんです。彼らが動物と関わっているのを見ると、動物たちの言いたいことを同時通訳していておもしろいですよ。

写真:ANIMAL動物の紹介/ジャイアントパンダ
https://www.aws-s.com/animals/

藪本:
「言葉がなくても、ここまでコミュニケーションができるのか!」と、イルカショーを見ると感動します。涙する人もたくさんいるんじゃないですか。

山本さん:
そう言っていただけると嬉しいですね。イルカショーを見ることで、今まで気づかなかったことに気付けるか、自分に投影したときに、「もっとチャレンジしていきたい」とか、「どんな風に生きていこうか」とか、考えていただけることが重要だと思っています。単に「ジャンプができます」ということではなく、問いかける要素も入れるようにしています。

藪本:
イルカショーは、その背景にある圧倒的な努力、思想性や物語性を含めて感動させられるので、まさにアートだと思います。どのようにしたら、ここまでのものを伝えられるのか、とても興味があります。

山本さん:
飼育スタッフの動物へのアプローチはそれぞれ違いますが、「動物のために」を一番に考えているのは確かです。私からは、「なんのためにイルカショーをやっているのか」「どうして飼育員をやっているのか」ということを、考えて欲しいとお願いしています。そこを意識することで、表現の仕方が変わってくると思っています。

写真:ツアー・アトラクション/マリンライブ「Smiles」
https://www.aws-s.com/attractions/detail?id=att001

3.大切にする軸

藪本:
まさにそこだと思います。HPを見ても、世界観がすごい。「経営理念」をどのように作られているのですか?

山本さん:
祖父は、カリスマ経営者だと思います。父は、数字に強く、着実に少しずつ成長することを大切にして、絶対に会社をつぶさないタイプ、まさにウォームハート、クールヘッドの経営者です。私は、父と比較すると、「地頭は足りていないし、父と同じやり方はできない」と思ってました。社員の皆さんの力を最大限に活かすことを考えた結果、「理念経営」に辿り着きました。松下幸之助さんも「理念経営」をつくりあげましたよね。そんな時、元スターバックスCEO岩田さんの「ミッション」という本を読み、さらに講演を聴きました。スタバでも、理念経営をした結果、社員が幸せになったという実績を教えてもらった。
理念とは、「大切にする軸」。これを明文化してわかるようにして、徹底的に大事にする、そのことだけですね、私はやっているのは。

藪本:
まさに、社長の仕事ですね。

山本さん:
理念に基づいて自分も社員も考えていれば、同じ方向にいくはず、社長を見る必要なんてないんですよ。
「理念に基づいて私も考えます。みなさんも考えてください。理念に基づいて考えてくれたら、なんでもOK」と、柔らかい方向性を示すことができます。

藪本:
統合学の中では、理念とかコンセプトが求心力になると言われています。主体的かつ関係性が太く、厚い組織が作れるということですね。

山本さん:
理念が明文化されている企業は多いですが、なんとなく言葉だけがあったり、言葉とアクションが繋がっていなかったり。
誰でもわかる言葉にしてブレない、徹底する、それだけだと思います。

藪本:
少し話は変わりますが、よく登場する「Smile」の本質とは、なんでしょう?

写真:代表メッセージ/プロローグ
https://www.ms-aws.com/about/message/

山本さん:
「Smileカンパニー」という言葉がもともと社内にありました。しかし、人によって解釈が違う。それではブレてしまうので、共通の解釈ができるように、「Smile=幸せ」と定義しました。その幸せもひとによって違うので、3つの順番(優先順位でなく創っていく順番)として定義しました。まず自分を幸せにする、そして、ゲストを幸せにする、最終的に社会の幸せに繋げるということにしました。自分たちが幸せでないのに、お客様を幸せにはできないですからね。まずは、「自分の幸せって何?」を考えてもらうようにしています。考えないと表面的になります。
ひとの強みは、「深く考える能力」だと思っています。考えないで、表面的な幸せを満たしても、ほんとに幸せになっていないことが多いように思います。まずは、自分の幸せって何?を突き詰めないと。「なりたい姿」を置かないと、アクションに繋がりません。突き詰めて出した答えに対してアクションをしていかないと、やってることと思いがかけ離れてしまいます。そうなると、ストレスになったり、人間関係の悪化に繋がると思うのです。
「深く考える」ことからスタートするのが大切だと思っています。

<企業理念>

写真:代表メッセージ/プロローグ
https://www.ms-aws.com/about/message/

<3つのこころ>

写真:Smile循環(価値創造)モデル
https://www.ms-aws.com/vision/smile/


藪本:
また、「こころ」という言葉もよく出てきますが、3つのこころとは、どういうものですか?

山本さん:
「こころ」ってなんだ?と問いかけると、アワーズの社員がもっている特性のことかと考えました。こころって、どんなこころが多いかな?と社員と対話してみたところ、「素直なこころ」等、3つのこころの「要素」をもった社員が多いことがわかりました。
この3つのこころの要素をもった社員を採用していきたいと考えています。

<こころ、とき、Smile の関係性>

写真: 代表メッセージ/MESSAGE03
https://www.ms-aws.com/about/message/

藪本:
社名のアワーズは、「ours(私たち)」と「hours(時間)」に掛けられているのですね。

山本さん:
いろいろな方に意見を聞いて、たくさんある言葉をそぎ落とし、シンプルにしました。社員が迷わないように。

藪本:
まさに社長の仕事ですね。ほんとに素晴らしいです!

4.山本さんのストーリー

https://lh6.googleusercontent.com/uONtbnEK2SaJrZpPIV69RWNtNHsSM80rgvvbDAtaJcCUZ4zsmk0Ax5ZdTE8GOtbrGf8OHEZ3sSXiuGU-i1Bm7F3hBbS5JZALcwEunTFE4wqnECHb25oSDe1wvnr658cQGj6o2BVi
写真:代表メッセージ/MESSAGE01
https://www.ms-aws.com/about/message/

藪本:
どんな風に育たれたのか、山本さんご自身の物語を聞かせていただきたいです!

山本さん:
ずっと大阪の近郊(松原市)で育ちました。小中高は温室のような学校でした。大学ではモラトリアムな時代で何もしていません。アルバイトとゴルフ(笑)。 その当時は、無駄な時間だなと思っていました。

藪本:
私自身は弁護士ではないことがコンプレックスで、それを逆に強みとして、突き抜けようと東洋思想を学びました。

山本さん:
私はパソコンが好きだったので、SE(システムエンジニア)になろうと思っていました。結果としてあまりうまくいかなくて、父の会社に入れていただいた、という感じです。
ずっと敷かれたレールを歩いていた感じですが、35,6才からは、ようやく自分の足で歩きだしている感覚です。

藪本:
私の本業のほうでお付き合いのある会社の中で、2代目、3代目と、創業社長との軋轢を感じることがよくあります。海外事業展開について、創業者から「(3代目と)同年代でしょ?藪本さん、ひとつよろしく」と言われるが、うまくいったことがないです。

山本さん:
最初は昔を踏襲せず、ゼロから理念作ろうと思ってました。でも、先代、祖父、父の思いは引き継ぐことが必要だ、と思えたポイントがあったんです。
それまでは、承認されたい、人に勝ちたいという思いが強くて、商売なのだからゲストを一番に考えることが当たり前だと思い、社員の皆さんを大事にできていなかったと思います。ゲストにとって、良い商品・サービスなのに、なんで?社員の皆さん、わかってくれないの?と思っていました。
そんな時、自分にもう一度、問うてみました。「ひとに勝ちたいの?」・・違う。「承認されたいの?」・・そうじゃない。「何をしたいの?」・・・
「自分、家族、社員が幸せであってほしい」と考えた末に、理念にいきつきました。ならば、ゼロから理念をつくるのはおかしい。今までアワーズが大事にしていたことを大事にしたい、と。
理念に基づいたしくみを作るだけ。あとはアクションは社員が作ってくれます。

藪本:
私自身は統合学の世界になぜいきついたかというと、従業員との関係が悪くなった時期があって、お寺にいったんです。そこで、お坊さんや思想の価値に気が付きました。誰かとの関係が悪化するとか、壁にぶちあたらないと、転換できなかったかもしれません。

山本さん:
私は10年くらい、もがいている時代がありました。何をやっても、研修いっても、何もかもダメ。
25才で入社して、グループ統括(総務)部署に配属され、自分も新入社員なのに、新入社員研修する部署でした(笑)。
何もわからず、みんなに教えていただきました。
理念経営したくて参加した研修で、「あなたの理念は?」と聞かれて、答えられませんでした。自分のことが好きではなかったですし、自己肯定感が低い状態でした。
「自分が死んだときのお葬式の様子をイメージして、客観的にみて。誰が悲しんでいますか?」というさらなる問いに、自分を大切な存在にしないといけないと思ったのです。人に貢献していることが、自分を大切にしていることに繋がるということがようやく理解できました。そこが、ターニングポイントでしたね。

<5つのメッセージ>

写真:代表メッセージ内  
https://www.ms-aws.com/about/message/

5.アドベンチャーワールドのこれから

https://lh3.googleusercontent.com/VOP5Mpc8RQ5zcvBEuxNJI8EqXEVdi-d6SQhEDTw1IVr0LAY9M3JXbRmWLhLRuAFiHElSp1ITvx8PaBxonD6NcefDG0WApcRFhNir88UfKjw6T_tIAQsxuGOmf8uZVAV6V2GL__P2
写真:社員ギャラリー内
https://www.ms-aws.com/recruit/gallery/

藪本:
未来の話もお聞きしたいのですが、100年、300年という観点で、どういうことを考えられていますか?アワーズやアドベンチャーワールドは、どのような状態、存在でありたいでしょうか?

写真:Smile循環(価値創造)モデル
https://www.ms-aws.com/vision/smile/

山本さん:
変化の激しい時代なので、企業の100年先を語るのは難しいところですが、社会がどうなっていくかということは、考えなければならないと思っています。
持続可能でなければならないし、それができなければ私たちの理念も実現できないですから。コロナ禍で飛行機は止まっても、グローバル化は止まらない。良くも悪くも、世界の壁はどんどん無くなっている状況です。悪い面もあれば、いい面もある。今日もタイにいる藪本さんとミーティングできている(笑)。 これから世界が1つになっていくのであれば、個人も、企業も、白浜や紀南地域も、世界の課題を解決するためにアクションを起こさなければなりません。ビジネスの根幹としてSDGsに取り組むのはそのためです。
ビジネスの根幹は、身近なひとを幸せにする。何らかの地域課題を解決すること、だったはずです。これからは、世界の課題のためにアクションを起こせる地域でないと、意味がないと思っています。

写真:Smile循環(価値創造)モデル
https://www.ms-aws.com/vision/smile/

藪本:
紀南アートウィークの意図は「輸出」です。アワーズの理念は、とても普遍的で、すぐにでも海外へ輸出できると思っています。
また、紀南である必然性については、どうでしょうか?

山本さん:
地方創生は、「こうすればうまくいく」というパターンはないと思っています。標準化でなりたつとは思えない。遠いところに、同じような地域ができるだけ。

藪本:
同感です。田舎はそのままでいい。ブラッシュアップして輸出できればいいと考えています。

山本さん:
独自性を大事にしたい。「誰もがキラボシ」という言葉が社内であるのですが、「社員も、お客様も、動物も、輝く存在である」ということなんです。それは地域も同じだと思うんです。社会にとって輝く地域であること、その地域が何を提供できるかを考えること、そうすると未来が見えてくると思いますね。アワーズは、本当に1人1人の社員の人間性で、もっています。そこが輸出できると一番良いんですよね。ビジネスモデル、プラットフォームを生み出せるかですね。

藪本:
紀南地域だからこそ、できることはありますか?

山本さん:
いま、紀南、和歌山ではいろいろなアクションが起きてますね、ワーケーション、ロケット、観光・・・これをどのようにしていくのかは、・・・・難しい。考え中です。

藪本:
紀南地域との接点、重要ですね。5000年さかのぼった紀南とアワーズの理念が合わさると、突き抜けるのではないでしょうか。

山本さん:
「LOVES」という夜のイルカショーを実施しているのですが、和歌山の歴史を表現したい、と提案したことがあります。表現手法として、地域の強みを活かし、歴史文化を感じられるようなものを取り入れられないかと考えているところです。

藪本:
紀南アートウィークのコンセプトとして『港の文化、籠りの文化』を掲げている中で、「Smile」が普遍的かつ強いメッセージだと感じています。紀南にはかつて縄文人が住んでいたらしいのですが、貝塚のまわりに住んでいた人たにちも「Smile」というキーワードはあったんでしょうか(笑)。 そういったコンテキストを合わせてみるのもおもしろそうですね。

山本さん:
または、熊野詣での参拝者が、どんな思いで、詣でていたのか。
例えば、参拝者のために、伊勢には能の舞台があったそうです。能の本質は、瞬間に新しいものを生み出す、すなわちエンターテイメントであり、人生の在り方を考えてもらうというところです。私たちも、現代社会、現代アートに通じるものが表現できたらと思います。

藪本:
能の演目である『翁』は、折口信夫によれば「まれびと」の一種であり、時を定めて他界から来訪する霊的もしくは神の本質的存在といわれています。現代における新しい体験や知覚を与える存在として、アドベンチャーワールドがその役割を果たすのかもしれません。
ぜひ、紀南地域との化学反応を起こして、コンセプトを輸出する企業になっていただきたいと思います。

山本さん:
考えます!

6.アドベンチャーワールドはアートか

藪本:
最後に、アドベンチャーワールドはアートなのでしょうか?

山本さん:
アートの定義、「感動」以外にもありますか?

藪本:
定義できないところも、アートのいいところですね。

山本さん:
そうですね…。アートということをどう考えるか?ですが、「なんでこういう表現をしているのか」「これを観て自分はどう感じるのか」という「考えること」だと思います。
それがアートだとしたら、自分たちもそうありたい。
感動する、に加えて、ひとが成長するには学びがあります。考えたり、成長するきっかけとなる場所でありたい。これは、アートと言えるかな。

藪本:
あと、アワーズのHPがとても美しいですよね!こういったところへも行き渡る美意識がすごいと思います!

山本さん:
デザイン経営のなかで、思いをどう伝えるか、アートの手法は必要で大事なことです。海外企業はうまく使っている例が多いですが、日本企業は伝え方の上手な企業は少ないように感じます。

藪本:
アワーズからアートウィークに期待してもらえるところなど、あればお聞きしたいです。

山本さん:
教育の観点でアートは必要です。教育分野において、子供たちはもちろん、社会人にとっても、考える、ひとつのきっかけになればと期待をしています。

藪本:
経営者の方から、第一に「教育」という言葉が出てきたので驚きました。私達も教育と経済のこの2つについて、非常に重要視しておりまして、何かコラボレーションをさせていただけると嬉しいです。
他方、経済についてですが、経営上の新しい施策などはありますか?

山本さん:
今は、あがいている状態ですね。
コロナ前までは、これまでを継承していかに伸ばせるか、ブランディング、広報を「最大限伸ばそう」としていました。コロナ直前には過去最高、オープン以来、過去2番目の業績を達成しました。この利益をもって、次の10年~20年のビジネスモデルを作り上げ、ソフトランディングでやっていこうと思っていたところ、コロナになり、一気に方向転換せざるおえなくなったというのが今の状態です。
あがきながらやっていることですが、やはり、私達の強みは「ひと」「動物」「地域性」ですので、これを軸に、新しい価値や教育に注目していきます。動画やYouTubeにも力を入れていますが、それで儲けようというのではなく、準備のひとつです。

藪本:
私は、ディズニーランドをベンチマークにしています。IPや知財を本社から輸出しているだけで、テーマパーク自体の運営は完全に現地に任せています。こういうモデルができないかな、と。

山本さん:
そうですね。香港やフランスのディズニーランドは全然違うものですもんね。
こういうことをやりたいですが、まだまだ出来ません。知財をもっていません。動物達に肖像権はないんです(笑)。
できるとしたら、理念経営のしくみでしょうか。どこにマッチするか、まだわからないですが。
来場者は、現時点で関西圏が8割です。関西のお客様が何を求めているかはなんとなくわかりますが、マーケティングがまだまだ弱い。

いまは、社員ひとりひとりの人間性に助けてもらっている。それを輸出できたらいいのですが。
やはり、アワーズの圧倒的な価値は「ひと」なんです。「海外でパークつくりませんか?」と、よく言われますが、現地のひとが何を求めているかわからないので、やっていません。
東京ディズニーランドマジックは、東京ディズニーランドにしかない、と思っています。
我々もビジネスモデルやプラットフォームを生み出せるか、ですよね。

藪本:
理念をここまで体系化されている企業は少ないと思います。

下田:
お話を伺う中で、飼育員さん自体が「アート」ではないかと感じました。
先ほど、飼育員の方々はよく観察をされていて、動物との同時通訳をしてくれているというお話がありましたが、ネイチャーガイドの世界で大事にされる資質の中に「センス・オブ・ワンダーを持つ」というのがあるそうで、自然の中に驚きや美しさを感じる感覚のことですが、その感覚ってとてもアートに近いと思うんですね。飼育員の方々はまさにそういった世界を、日々実践されているのではないかと感じました。

藪本:
今後、飼育員さんとの対話もぜひ、実施させてください。

山本さん:
対話することにより、自分のやっていることを見つめ直す、きっかけになるかもしれません。ぜひ、お願いします。

藪本:
今日は貴重なお話を本当にありがとうございました。

写真:代表メッセージ内//MESSAGE04
https://www.ms-aws.com/about/message/

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対談企画 #6 『動物と人間のあるべき関係性とは?』