コラム

紀南の「港」とは?-古座文化とロケット-

紀南アートウィーク対談企画 #31

<ゲスト>

株式会社古座MORI
代表取締役/公認会計士
坂本直弥さん
神奈川県小田原市出身。日系企業によるフィリピン進出をサポートする「アイキューブ・グループ」で統括代表を務めながら、2020年から拠点を串本町古座に移し、空き家を改修してサテライトオフィス古座を開設。また、南紀串本観光協会ガイド等として、ロケット事業にも深く関わっている。
https://www.icube.ph/

<聞き手>
藪本 雄登/ 紀南アートウィーク実行委員長

紀南の「港」とは?-古座文化とロケット-

目次

1.坂本さんのご紹介
2.古座エリアを選んだ理由とは
3.独特な街並みと歴史的背景
4.港の文化と機能
5.宇宙への「港」
6.ロケットとアート
7.今後の課題と展望

1.坂本さんのご紹介

藪本:
今日はお時間を頂きまして、ありがとうございます。せっかく坂本さんとお話ができるので古座川について調べてみましたが、とても面白い場所ですね。土地がもつ歴史的背景も含めて、お話をお伺いしたいのですが、まずは自己紹介や坂本さんの活動についてもお聞かせください。

坂本:
現在、串本町古座の中湊という場所で古座MORIという会社を経営して、1年が経ちました。元々は東京に住んでおり、長年に渡って日本の会社がフィリピンへ進出する際の支援事業を行っていました。企業の進出はもちろん、マニラ首都圏で地下鉄を作るインフラ構築に携わったり、海外での経験を活用して、スリランカやエジプト政府の産業振興プロジェクト等にも関わらせて頂いたりしました。

現在はそのような仕事をテレワークで行いながら、本州最南端のシェアオフィス「サテライト古座」を運営しています。サテライト古座には、デザイン会社が入居されていますし、地域の本を集めた図書室をもつパブリックスペースもあります。そこを拠点にリアルでは南紀に、テレワークではフィリピンの業務を中心に行っています。なお、公認会計士資格を保有していますが、会計の仕事はあまりしていません。

藪本:
そうなのですか?そのあたり、もう少し深く聞かせてください。

坂本:
アイキューブでは、地域を良くするお仕事をさせて頂いていると思っています。いろいろな民間企業の投資を通じて、地域で新しいことをしようという人たちを応援する。逆に、地域の人たちと協力して民間企業を誘致し、一緒に仕事をすることが私たちの出来ることだと思っています。もちろん会計や税務の支援も行いますが、情報提供やレンタルオフィス運営など、本格的にフィリピンへ進出する前段階のサポートに力を入れています。

藪本:
なるほど。そういう意味では関わる事業も幅広く、会計業界を飛び越えていますね。その飛び越えた先が、なぜ「古座」だったのでしょうか。

坂本:
多くの方が想像している古座のイメージと、私が感じている古座の魅力とは良い意味でギャップがあります。そのギャップの大きさが、今まで仕事をしてきたフィリピンや、旧ユーゴスラビア諸国とも似ています。そこで、対外的な(悪い)イメージと、実際に現地にいらした時の印象のギャップを埋めることで投資を促進するという私の海外での実務経験を、古座に還元していけるのではないかと感じています。

藪本:
そういう意味では、プレイヤーというよりプロデューサーのような役割ですね。

坂本:
そうですね。南紀串本や古座川を始め、本州最南端のエリアはすでに面白いことをされている方がたくさんいます。その方々の活動を紹介したり、場所としての背景や将来性をお伝えしたり、ロジカルに言語化できるプロデューサーとなれればいいですね。

2.古座エリアを選んだ理由とは

出展:写真AC

藪本:
次に、移住された理由や南紀串本、古座エリアの魅力をお伺いできればと思います。

坂本:
はい、今現在の拠点に住民票を移したのは2020年8月ですが、地域に関わり始めたのは13年前です。実は、当時フィリピンからインターネットを見ていた時に、ヤフーオークションに古座川流域の山が出品されていたんです。その時は最低入札額が2000円からで、原野商法詐欺かなと思いました(笑)。

藪本:
最近、確かにメディアでも山を買うという特集を見たことがありますが、実際にあることなんですね(笑)。

坂本:
古座川発祥の山林バンクさんがその山を売りに出していて、見に行ってみようと思ったことが始まりです。実際に行ってみたら、真剣に山の売買の仲介に取り組まれていて、川が非常にきれいなところにも魅力を感じ、その山を購入しました。日本に帰国する度に家族を連れて、自分の山に遊びに来てました。

出展:写真AC

藪本:
奥さんも特に反対はされなかったのでしょうか?

坂本:
彼女も自然が好きなので「それは面白いね」と言ってくれましたよ。もっと多くの友人達にも訪れてほしいと、いつかは駅から近い場所に基地を置きたいと思っていたところ、2年ほど前に元建具屋さんの工房、倉庫、母屋の3棟を廉価で譲っていただけました。その後タイミングよく和歌山県の地域課題解決型起業の補助金制度に採択頂き、サテライトオフィスを運営し始めたという経緯です。

また、話は少し変わりますが、古座エリアには地質学や歴史、文化に精通している方や昔から本をよく読む博学な方が多いと言われていたそうです。

藪本:
なるほど。美しい場所は日本全国にありますが、知的好奇心のある方が古座川に集まってくる言葉にならない理由や魅力が何かあるのかもしれませんね。

坂本:
この地域は戦国時代に鉄砲稼業をしていた雑賀衆や熊野水軍から流入してきた人々、熊野三山の熊野比丘尼※によって移り住んできた人々の流れがあるので、昔から「グローバル」な場所だったのだと思います。秦の始皇帝が不老不死の薬を求めて送り出した船団が、新宮にたどり着いたという徐福伝説もあります。

※熊野三山の運営資金を集めるために、諸国を巡って熊野信仰を説いた女性宗教者。
熊野比丘尼とは(コトバンク)

藪本:
ある意味、「港」としての機能を果たしていたということですね。恐らく中国大陸から見ると日本海が内側で、古座周辺は開拓地である太平洋側の入り口あたりですもんね。

坂本:
もしかしたら、出先の拠点だったのかもしれないですね。お醤油やかつお節、梅干しなどの日本食文化が、紀伊半島から高知や千葉へ伝わっていったのも、ここから外に出ていく「人の流れ」があったということですから。

一方で、和歌山は「水の国」としてキャンペーンをされていますが、その話を富山の方にしたら「富山も水の王国なんです。」と言われました(笑)。ただ、富山の方からは、和歌山の水の捉え方が神秘的で、信仰に近いものを感じると言われたんです。禊祓いのための水だったり、山伏の修行の場であったり。そういう意味で、古座という場所は神秘性とグローバルなものとの交差点だったのかもしれませんね。

藪本:
まさに、古座川も「秡川」と呼ばれ、山岳信仰と海洋信仰を繋ぐ道のようなところがあったのかもしれないですね。日本各地で、水や土、山などの自然美に関することはよく耳にしますが、神秘性や信仰から水を見ると、より思想的に深まる気がします。

3.独特な街並みと歴史的背景

紀南編集部による撮影画像

坂本:
和歌山県において、文化面では熊野古道が注目されていますが、忘れてはいけないのが経済面です。江戸から明治期にかけて行われていた捕鯨の文化も、1頭の鯨を取れば多くの人が経済的に潤ったと言われています。さらに、古座港周辺の川沿いの家々の中には、足場があって川に浮いているように見える家があります。

藪本:
確かに。東南アジアでも、そのような風景を見たことがあるような。。。!

坂本:
もう少し上流には材木の貯留所がありました。元々、この周辺は製材所、木工所があり、多くの船大工さんや建具屋さんがいらっしゃる工業拠点でした。しかも、その船大工さんは川の中州にあった造船所で昔、第五福竜丸※を作られたそうです。ビキニ湾で原爆の被害を受けた第五福竜丸は元々、この中州で作られたカツオ漁船が転用されて、マグロ漁船になったものです。

※参考 都立第五福竜丸記念館

藪本:
そうなんですね!それは知りませんでした!だから、その街並みや家並みは、上流から運ばれてきた材木を受け取りやすい便宜的な形というわけですね。

坂本:
なので、この景色は当時の歴史や産業と有機的につながる「文化的な景観」なんです。また、この周辺で行われる河内祭りをされているのが、古座の河口の集落の方々です。

藪本:
模様がついている、鯨船が使われているお祭りですね!

紀南編集部による撮影画像

坂本:
そうです。まさに、河口の赤い橋の向こうに九龍島という無人島がありまして、そこの潮を取って川を登り、川の中流にある河内様に届けるという、「海と川を結ぶ」お祭りです。

藪本:
そこに地元の青年会が関わって、南方系文化において重要な若者衆や若者組の文化が現存しているということですか?

坂本:
そうそう。有名なところだと、高池地区にある互盟社他の若衆宿が、今でも獅子舞の文化を継承しています。もう卒業されましたが、青年会でずっと頑張って活動されてきた方がいて、その方は商工会議所の青年部の主張コンテストで全国トップを取られたこともあるそうです。

藪本:
次に受け継ぐ人がいるわけですね!今回の紀南アートウィークでの活動も、DNAのように引き継がれていく、次世代への教育や継承の場にもしたいと思っています。

4.港としての文化や機能

出展:O‐DAN

藪本:
以前の対談で南紀白浜空港の森重さんと、紀南の港をどう捉え直すかについて、議論をさせて頂いたのですが、坂本さんは港の文化や機能をどのようにお考えですか?抽象的な問いで恐縮ですが、それを深めながら未来の議論につなげていきたいと思っています。

坂本:
普段、空港くらいしか港と呼ばれるものは使わないので、分からないことも多いですが、港という場所は海へ送る側の立場でいえば、出港すれば何カ月も帰ってこない所ですよね。

藪本:
確かに、その中でも宇宙は最たるものですね。

坂本:
何カ月か経過して戻ってくる連絡が入っても、必ずしも母港に戻ってくるとは限りません。私の母方の曾祖父は外航船の機関士だったそうですが、実家は能登でも、神戸港に戻ってくる時は一族郎党みんなで迎えに行くということもあったそうです。リスクを冒してでも外に行く側と送り出す側の、別れの瞬間は何度も繰り返されてきたんだろうと思いますね。

藪本:
お祭りとの関連はいかがですか?

坂本:
直接的ではないですが、関連があるかもしれません。海へ出て遭難しないように、漁に出た時に大漁を祈るようにとの願いが届くよう、山の中腹などの海から見えやすい所が神聖な場所になっていますし。那智の滝も、海から見た時の目印となるため、信仰を集めた神様だそうですね。

藪本:
まさに。例えば、有名なだんじり祭りの「だんじり」も確か船ですもんね。海からの力を町中に循環させるために、だんじり祭りが存在している?のかと思いましたので、機能としては一緒かもしれません。

坂本:
あとは、山からの力もすごく意識していますよね。古座周辺は山からすぐ海という地形が多いので。私の故郷の小田原も山から海が近く、特に相模湾は深くて断崖絶壁に住んでいるような感じでした。それは南紀の先端も同じです。南海トラフとの地質的な関係で山が発達し、その中に港がいくつかあって、そこにへばりつくように人が住んできたのだと思います。

藪本:
なるほど。他方、送り出す側の視点は先ほどお話がありましたが、送り出される側の思想や思考はいかがですか?オーストラリアへの移民文化など、その方々のストーリーに紀南の方々が学ぶべきエッセンスが多い気がします。

坂本:
木曜島(オーストラリアの小島)のキングと呼ばれた佐藤虎次郎さんは古座川町出身ですし、串本の田原が紀南のアメリカ村と呼ばれたり、隣の太地町もロサンゼルスと縁が深かったりします。

ただ、恐らく、当時は海外に出稼ぎに行けば、儲かるという理由も大きかったと思います。明治期にブラジルへ農業に行かれた方は、痩せた土地を耕し、作物を育てるまでに大変苦労されたといわれています。一方、海に関わった人々は、アメリカに着いた翌日からロサンゼルスの海に潜って、黒アワビをごっそり取って一気に財を成したそうです。その財を元手にツナを加工する工場を作り、「チキン・オブ・ザ・シー」と呼びました。これが、現在のシーチキンの原型だそうです。

藪本:
紀南の人達は、実は、とてもグローバルな方々だったのですね。

坂本:
そうですね。儲かる仕事が外にあることは、リスクを冒してでも海を渡って行く原動力になっていたのかもしれませんね。

藪本:
そういう意味では、経済とも繋がっていますね。港町の中で潜水に長けている方々が技術を突きつめ、世界の中でも特殊で尖った技能を持つ人材として、全世界に輸出されていた可能性があるということですね。その中でも経済的に成功した方々もいて、それを現在でも復活させようと、現代の「港」である空港やロケットに繋がるかもしれません。

5.宇宙への「港」

出展:O‐DAN

坂本:
串本の田嶋町長がおっしゃるには「串本は海の街だ。」と。その中で、非常に重要なインフラは「港」です。築き上げられてきた大切な港の文化の上に、これからは宇宙の「港」ということで「スペースポート紀伊」が立ち上がります。

藪本:
素晴らしいですね。そのあたりを詳しく聞かせていただきたいです。

坂本:
実はロケットの話は、串本町が宇宙産業へ進出したいと思っていたわけではなく、たまたま先方からの条件が合ったからだったと聞いています。

藪本:
どのような点が、条件に合ったのでしょうか?

坂本:
いくつか理由はありますが、元々東と南に開けている地形で、発射場から1km以内に人が住んでいないこと、かつアクセスが良い所というのが、大きな理由だったそうです。同地は関西電力さんが、原子力発電所を作るために買収を進められていたそうですが、建設に対する非常に大きな反対運動が起こり、計画は廃案になりました。それが後に町に寄贈された土地が、現在の発射場予定地の主要部分というわけです。細かい事情で言えば、予定地周辺はちょうど鉄道が国道42号線の外側を走っていて、海側の半島に鉄道をまたがないで行けるという、アクセスの良さも関係しているそうです。

さらに、役場や関係者のご尽力があり、個人の地権者や漁業関係者の方々と1人1人丁寧にお話をし、全員のご了承と地元の方々の歓迎を得られたことが決定打となって、審査を通ったと聞いています。

藪本:
発射されるのは、これからですか?

坂本さん:
総合司令塔は完成し、通電済みだそうで、現在は谷の中にロケット発射点と組み立て棟を建設中だと聞いています。コロナ禍ではありますが、工期はほぼ予定通りに進んでいて、今年度中に1号機を飛ばすそうですよ。

藪本:
素人質問で恐縮ですが、そもそもなぜロケットを飛ばすのでしょうか?

坂本:
内之浦や種子島で飛ばしている国のプロジェクトでは衛星を飛ばしつつ、より遠い宇宙を調査しに行く基礎研究もしていますが、今後重要なのは、気象衛星ひまわりや通信衛星などの地球の上から国土全体を見ること、国土全体に通じる通信網を作ることだと思います。フィリピンでも国土全土を保全するために、2年前に宇宙庁を立ち上げました。自国の衛星があれば、全土の状況がはっきりわかる完全な地図を作ることもできます。

また、4Gから5Gへと新しくなった通信インフラも、通信アンテナを全土に作るより、低空から衛星でカバーする方が少ない投資で済みます。

現代の人類社会のためのハブとして衛星事業をされている方々の感覚では、「第2の地表を作る」というイメージだそうです。地球表面の上、100~500kmの範囲で衛星を飛ばすことで、今の持続社会を作りつつ、通信インフラもカバーすると。さらに、新宇宙の基地としても地表から行くよりも、もっといろいろなものが観察できる等、さまざまなビジネスチャンスがあると思います。もちろん、人類未開拓の土地が大半なので、衛星事業に関わる方々はこの「第2の地表」をフロンティアだと思っているそうですよ。

藪本:
その場所を開発しに行く手段として、ロケットが必要という発想ですね。ちなみに、串本のロケット事業の運営は、誰がされているんですか?

坂本:
スペースポート紀伊は、日本で初めての民間宇宙港です。キヤノン電子さんや清水建設さん他、日本を代表する企業が共同出資して設立した、スペースワンという会社が運営されています。

キヤノン電子では以前から人工衛星ビジネスをされていて、今は低空での小型人工衛星も作られています。高度36,000kmを飛ぶ静止衛星だったら60~70mほどの重い大型ロケットが必要ですが、スペースボート紀伊から飛ぶロケットは地上100kmからの低空で運用する小型人工衛星を運ぶため、高さ18mと杉の木1本分の高さしかありません。ちなみに、大型ロケットを飛ばすのは、どのくらいの費用がかかると思いますか?

藪本:
全く想像もつかないです。類似の空港ビジネスだと、一定程度の空港使用料は決まってますが、同じような仕組みでしょうか。

坂本:
いえ、発射毎の費用です。実は、大型ロケットを1回飛ばすのに100億円かかるそうです。だから、国家プロジェクトになるんです。今の小型衛星は性能が良く、ロケットも小型で打ち上げも容易になりました。そういう意味では、巨大ロケットで数トンもの重さの衛星を多額の費用をかけて打ち上げるより、小さく軽いものをたくさん打ち上げ、いろいろなことをカバーしようという発想になってきています。

最近、海外では小型衛星を一気にたくさん打ち上げていますが、その中には何%か不良が出るでしょうから、取り換えニーズも出てくるはずです。今後もそういうニーズは増えていくと思うので、早く1発だけ打ちたいというニッチマーケットをスペースポート紀伊が担っていくわけです。最短注文を受けてから1年以内、費用も数億ほどで、年間20回打ち上げる事業計画で、毎月ここからロケットが打ち上がるビジネスの形を目指していらっしゃいます。

6.ロケットとアート

出展:O‐DAN

藪本:
コロナ後の世界では、外出する大きな理由が「アート&エンターテインメント」に収斂されると思っています。先日行ったプーケットの飛行場でも飛行機の離着陸を見に、たくさんの人が集まっていました。なので、ノウハウ化すれば小型宇宙船を飛ばしながら、その場がエンターテイメント施設にもなることを、世界に輸出できるのではないですか?

坂本:
そうですね。是非、ロケットの発射を見物に、古座に来て頂きたいと思っています。また、古座に来て頂くためにも、アートの視点はすごく重要だと思います。

ロケット打ち上げの費用や正確さ、成功率の高さ等はもちろん大切なのですが、もう1つ重要なのは「人の流れ」です。打ち上げ3週間~1カ月くらい前に最終調整として、人工衛星関係の業者の方々が串本に前乗りされるんです。他のロケット射場は人里離れた所が多かったそうなのですが、スペースポート紀伊のある南紀は食べ物も美味しく、観光地も温泉もいろいろある。シンポジウム参加のために串本に来られた宇宙産業の関係者も、ここから自分達の衛星が飛ばせたら非常にハッピーですと言われていました。限られた人員での最終調整のため、残念ながら船に乗るような野外活動全般は禁止だそうですが、そうした中で楽しめるものとして「アート」があると。

藪本:
美術館や博物館。送る人と送られる側の心の動きなど、古座川の歴史文化や文化人類学の観点から読み解く…。それを表現する作品って世界のどこかにある気がするので、それを集め、展示できるようにしていく…。何となく、できそうな気がします!

坂本:
しかも、そういう歴史の中に人工衛星を飛ばす方々も、新たなページを刻んでいけるような参加型の場所があると、彼らに来て頂いた時にインセンティブとなるんじゃないかなという気がしますね。素人ながらにですが。

7.今後の課題と展望

紀南編集部による撮影画像

坂本:
自治体が集まるロケット推進協議会が旧古座役場に置かれています。そこに協議会の本部があり、今は交通の問題や防災について話し合っているところです。

藪本:
万が一、失敗して、ロケットが落ちてきた場合のリスク管理なども重要ですもんね。

坂本:
それも関係ありますが、観光面でもどのくらいの方が来るか分からないので、受け入れ体制も考える必要があります。白浜町の花火大会では多くの人出があり、交通規制もされていますが、ここで同じようなことが起これば、周辺の交通渋滞等どうなるのだろうと。そういう意味では夢のある話だねと言っていただくのですが、やはりリスクも考えないと、単なる迷惑施設にもなりかねません。

藪本:
現場側としては、どうなのでしょうか?

坂本:
スペースワンさんとしても、人工衛星を運営するお客様あってのロケット射場なので、自社でリスクを取ったり、大がかりなイベントをする訳にもいきません。お客さんの守秘問題もありますし、発射を妨害されても困りますよね。国の事業ではなく、民間事業ですから営業上の秘密もあり、それらを踏まえた上で事業者と地元コミュニティがいかにスムーズにやっていくかが、協議会の課題だと思います。

7月末に串本町の役場が高台に移転統合しましたので、現在串本町の分庁舎として使われている旧古座町役場の立派な建物が空くんです。そこで串本町としては、スペースワンさんの出資元の親会社でもあるキヤノンさんにお願いし、ロケット打ち上げの風景を8K相当の動画でいつでも見れるような「ビジターセンター」を作ろうと計画されています。ただ、せっかくなら観光面だけではなく、藪本さんのようなチームでクリエイティブな面に取り組まれている方々や、研究目的でフィールドに来られている先生方等、さまざまな方々が集まれるようなセンターにしたいですね。

藪本:
いいですね!今後、この紀南アートウィークの延長版として、和歌山大学の移民文化を研究されている先生や船歌を研究されている先生にもご寄稿をお願いして、河内祭りを深め、それを踏まえて、船を扱う現代アーティストの方とコラボレーションするようなかたちで、古座川でできたら面白いですね!

坂本:
いいですね!是非!

動画の展示なら設置予定の8Kディスプレイも使って頂けますし、古座川の上流にある一枚岩をスクリーンとして使うための大型プロジェクターも、「大地を見上げる映画祭」を企画している若いチームがクラウドファンディングで頑張って購入しました。

藪本:
そうですね!塩田千春さんやオノヨーコさんの船に関する作品、全世界的に船を作っている作家さんのインスタレーション※や動画作品等を置ければ、面白いかもしれません。

※展示空間を含めた作品手法のひとつ。
インスタレーション(artscape)

坂本:
紀南が広く連携して盛り上がっていけば、2025年の大阪万博や、その前年から始まるいろいろなプレイベント等で、来日されるさまざまな国の方々に、大阪から足を伸ばして、紀南に来て頂く理由が増えますね。

藪本:
今年は実験段階なので展示地域も限られますが、今後、さらに関わる地域を増やしていきたいと思っています。

坂本:
次への広がりもある大変良い話ですね。素材はたくさんあると思いますので、それをアートとして、いかに昇華していくかですね。紀南アートウィークの趣旨は、古座川・串本エリアにも通じますし、ぜひ長期的に見ながら開催して頂き、私も勉強させて頂ければなと思います。

藪本:
長時間、ありがとうございました!

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