コラム

対談企画#16『一枚岩に映す未来』

アートウィーク対談企画#16

<今回のゲスト>

道の駅「一枚岩monolith(モノリス)」運営
HYGGE 代表
田堀 穣也(たぼり じょうや)さん
和歌山県東牟婁郡古座川町の道の駅「一枚岩monolith」を運営。一枚岩に映像を投影するジオスクリーンイベント「大地を見上げる映画祭」を開催するなど、古座川町の魅力を世界に広めるため活動中。
https://www.monolith-web.com

<聞き手>

藪本 雄登
紀南アートウィーク実行委員長

<編集>
紀南編集部 by TETAU
https://good.tetau.jp/

一枚岩に映す未来

< 目次 >

1.田堀さんの紹介
2.道の駅「一枚岩monolith」のこれから
3.古座川町における一枚岩の存在
4.一枚岩とアート

1.田堀さんの紹介

出典:古座川観光協会HP https://kozagawakanko.jp/tourism/207/

藪本:
本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。
まずは田堀さんの自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか?

田堀さん:
和歌山県の古座川町で育ちました。この町が好きだったんでしょうね、帰ってくることを前提に大阪の大学に進学しました。大阪に出たら気持ちが変わるかと思いましたが、さらに「古座川の方がええやん!」ってなりました。生きていくうえで、いろいろなものをもらったという気持ちが強いです。子育てするにもいい環境ですしね。
地元での仕事を考えて、教師という職業を選択しました。結果として5年間やりましたが、想像より大変で、なりたい大人になれていないという気持ちを抱えていました。

藪本:
どういうことでしょうか?

田堀さん:
自分が描いていた学校の先生は、なんでも出来て、なんでも知っている人。自分もそんな教師になれるのかなと思ってましたが、全然違いました。社会のことを何も知らないし、自分がとても小さなものに思いました。

藪本:
それでも「先生」と呼ばれますよね。

田堀さん:
それがすごく嫌で、もう少し世の中を見てみたいと思い始めたんです。僕は父親がいないので、男同士の会話とか、男社会のようなものにも憧れていたと思います。消防士になりたいという気持ちを持ち始めたのが、教師になって3年目の時です。学校の先生を辞めると言うと、田舎では「もったいない」と言われるんですけど、全然そんなことはなくて。それから2年後、晴れて消防士になりました。

藪本:
消防士になってどうでしたか?

田堀さん:
とても勉強になりました。急いだ時にパニックにならない方法や、集団生活の中での、チームワークの大切さや段取りなど、今まで経験してこなかったことが身に付いたので。空手をやっていたのですが、体力面では厳しいところもありましたね。

藪本:
消防士として何年ぐらい働かれたのでしょうか?

田堀さん:
6年です。消防士の仕事は楽しかったのですが、川の魚が海で泳いでいる感じですかね。「俺、ここじゃないな」と心のどこかで違和感を感じながらも、「めっちゃ面白い」って泳いでました。笑
消防士は、休日を利用して地域を回り、どういう戦術で火を消すかとか、どこに消火栓があるかとかを覚える必要があります。休みのたびに古座川町を回るので、どんどん古座川町を知っていくわけです。顔見知りも増えました。町を盛り上げるようなイベントを手伝ううちに、もっと本気でイベントをしないと、この町は変わらないという気持ちも強くなっていましたね。
そんな時、「あがらと ※1」の方の話を聞く機会がありました。なんか面白いことができそう!という直感が働き、経営に興味を持ち始めたんです。


いろんな刺激を受けていたタイミングで、道の駅の委託運営者の募集。プレゼンしたら採用されました。笑 町の人は「え、お前がするんか?消防やっとったらええのに」って感じでしたけど、ここは「俺がやるよ」って気持ちでしたね。

※1  株式会社あがらと https://agarato.jp/

藪本:
すごいですね。先生、消防士、今はビジネスマン。オールラウンダーじゃないですか。

田堀さん:
いえいえ、何もできないからこうなったんですよ。笑
僕は、小学校って母性が求められる女性社会で、消防士は完全に男性社会だと思っていて、どちらも経験できたことが良かったですね。さらに、公務員を辞めて、一般の人のお金の回り方や生き方を知ることができました。今は、自分のやりたいこととやっていることに違和感なく、しっくりきています。

2.道の駅「一枚岩monolith」のこれから

出典:道の駅「一枚岩monolith」HP  https://www.monolith-web.com/

藪本:
すでにカタチになっていると思いますが、1つの成功事例にすることが次のミッションでしょうか?

田堀さん:
そうですね。成功事例としてモデルケースになれたら、他の地域でもやってみたいと思える人が出てくると思うんです。

藪本:
「一枚岩monolith」は、道の駅として行政から受託しているんですよね。カフェや物販、なんでもできるイメージなのですが、何か縛りはあるんですか?

田堀さん:
道の駅は、認められたら「道の駅」なんですよ。観光のこととか、特産物を扱うとか、そこがきちんとできていれば、それ以上の括りはありません。逆に、行政からお金の支援などもありません。

藪本:
どのようなことが今後の課題だと思われますか?

田堀さん:
課題というか目標は、古座川町を盛り上げること、雇用を生むことですね。僕自身、子どもの頃から、地元で働くとなれば片手で数えるくらいしか職種がないという認識でした。子ども達にもっと選択肢を広げてあげたいんです。
「一枚岩monolith」は、飲食をメインとしつつキャンプ場もやっています。釣りのワークショップだったり、ハンドメイドのワークショップだったり、キャンプ場には多様性と何でもやれる可能性があります。そこを一枚岩と共に、もっとアピールしていきたいと思っています。

出典:道の駅「一枚岩monolith」HP  https://www.monolith-web.com/

藪本:
一枚岩は日本最大級と言ってもいいですもんね。

田堀さん:
たとえ大きなものがあったとしても、これだけ真っ直ぐ直角にそり立ってる岩は、古座川にしかありません。
この一枚岩に映像を映したら、ここでしかできないイベントになるんじゃないかと思ったんです。そこで、高性能のプロジェクターを購入するために、クラウドファンディングで資金を集めました。その結果、プロジェクターを買うことができて、イベントも成功。毎年開催できればいいなと思っています。

参考:古座川町の道の駅「一枚岩」が挑戦!日本一でっかい岩でジオスクリーン映画祭を!
https://motion-gallery.net/projects/hygge-monolith

藪本:
今後、一枚岩を活用し、どのようにビジネスに繋げていかれますか?

田堀さん:
この映像イベントがビジネスに繋がっていくかどうか、まだわかりません。でも、一枚岩を「表現ができる場所」にしていきたいなと思っています。実際のところ、白い布のスクリーンが見やすいんですよ。でも、自然のものに投影することはここでしかできないので、そこを強みに、思いを共有できる場所にしていきたいです。ゆくゆく、雇用を生み出すということにも繋げて、未来を作っていきたいと思っています。

藪本:
もともと携われていた教育にも関わってきますね。

田堀さん:
最終的には教育的な機能も、と思っています。地球規模のことも教えたいし、自分で働く場所を作るという姿も見せたいです。

藪本:
元消防士としての視点で、防災に関わっていくところもあるのでしょうか?

田堀さん:
キャンプは防災ですよね。一般的に、「楽しいのがキャンプ」で、「楽しくないのが防災」だと言われてるんじゃないかと僕は思っています。

藪本:
確かに。面白いですね。

田堀さん:
僕が一番最初に書いた企画は、「防災×キャンプ」でした。最初の入口はカジュアルなキャンプでも、AEDの使い方や心肺蘇生法、リバーレスキュー、非常食の作り方など、消防士としての知識も織り交ぜながら広げていけたらいいなと思っています。

藪本:
教育と防災の機能を兼ね備えたビジネス、あとは、どうマネタイズするかですね。
今回の紀南アートウィークのテーマは、まさに輸出というところを見ています。地域で活動されていると、おそらく地域の方々がサポートしてくれると思います。それで続けていけると思うんですけど、余剰がないとやりたいことができないですから、その余剰をどうやって作るかというところですよね。
アートは、言語がなくても全世界に伝わるものなので、輸出をするためのツールとして使いやすいのではと思います。古座川町から世界に輸出できるものを作っていくことが、時間はかかっても、長期的には正しいのではないかと考えていることろです。

3.古座川町における一枚岩の存在

出典:一枚岩 Camp&Food monolith/Facebookhttps://www.facebook.com/profile.php?id=100063441206991

藪本:
横幅が800mもある一枚岩。これはどこにもないものですよね。地域の人は、一枚岩をどのように捉えているのでしょうか?そこを掘り下げていくと、世界に輸出できる価値を生み出す源泉になるのではと思うんですよね。

田堀さん:
多分、大昔の人は一枚岩を大切にしていたと思いますが、時が経つにつれて、当たり前にありすぎて意識しなくなってきたんでしょうね。いろんな奇岩がある地域なので、その中の、とてつもなく大きな岩、自然の1つという感覚です。実際に僕もそうでした。でも、色々な場所に行くことで、和歌山の中でも大きなジオとして残っている大切な場所だ、これはもっとPRするべきだ、と再認識しました。一枚岩のことを、もっと掘り起こして伝えていきたいです。

藪本:
石に対する信仰って全世界中にありますが、古座川は、特に美しいとか発展しているとかと言われています。

田堀さん:
一枚岩の伝説 ※2 が語られるほど、岩があまりにも多い地域です。

※2  一枚岩の伝説(出典:古座川観光協会 https://kozagawakanko.jp/tourism/114/

その昔、太地には岩が大好物の魔物が住んでいました。魔物は、岩が連なる古座川にやって来て、次々と岩を食べました。巨大な一枚岩に噛みつこうとした時、村の猟犬が襲いかかりました。犬が嫌いな魔物は、一目散に逃げ出し、一枚岩は守られました。一枚岩の中央に凹みが縦に走っているのは、魔物の歯形だと言われています。また、雨が降り続いた時に一枚岩に流れ落ちる「陰陽の滝」は、魔物が流した悔し涙だそうです。4月19日前後と、8月25日前後の夕方5時頃には、犬の形をした影が一枚岩に浮かび上がり、伝説を再現してくれます。町の人々は今もその犬を「一枚岩の守り犬」と呼んでいます。

藪本:
磐座(いわくら)※3 という言葉があるように、一枚岩を深堀りすると、すごく美しいものや素晴らしいものが出てくるような気がするんです。古座川下流で行われてる河内(こうち)祭り ※4 は、まさに川からの禊の文化ですよね。

※3 磐座:神道における石や岩に対する信仰のこと。あるいは、信仰の対象となる石や岩そのもののこと。

※4 河内祭り https://www.town.kushimoto.wakayama.jp/kanko/event/koutimaturi.html

田堀さん:
古座川は、お祭りがすごく少ない地域なんです。唯一祭りらしい祭りが河内祭りです。上流の地域へ行けば行くほど、ひっそりと地味に祭りが行われています。落ち武者系の先祖がいる地域なので、公に祭りをする文化ではないんでしょうね。郷土料理にも「うずみ膳」というのがあります。何もないお粥と思いきや、お椀の底におかずがいっぱい入っているんです。つまり、うずめているから「うずみ膳」。隠れ里って感じですよね。
下流の地域は漁師町なので、奉納の意味も込めて盛大にやってますね。

藪本:
そういう意味でも、串本や古座川という地域は、ひっそりとしている面と、華やかな面、両方を持っているということですね。一枚岩が中間に位置しているということですか?

田堀さん:
昔は一枚岩の上に道があって、そこを行き来して生活していたみたいですよ。上から見下ろすと崖ですよね。笑 僕たちは一枚岩を下から見上げているけど、もともとは上から見下ろしてた。上には集落があったくらいなんです。

藪本:
守ってくれていたということですよね。一枚岩は、自然の城壁。守り神や信仰の対象として、いわゆる縄などは付けないんですね。

田堀さん:
神様として見てなかったんでしょうね。生活の1つという感じでしょうか。

藪本:
なるほど、それがまたいいのかもしれませんね。
子どもたちは一枚岩を、どのように教えられるんですか?

田堀さん:
僕らが小さい時は、それほど注目されてなかったです。当時も観光地ではありましたが、一枚岩をジオとして、付加価値を付ける時代ではありませんでした。

藪本:
そこを深堀する人もいなかったわけですね。

田堀さん:
今は子ども達の方がよく知ってますね。ジオができて、ガイドの人も教えてくれるので。

4.一枚岩とアート

出典:一枚岩 Camp&Food monolith/Facebookhttps://www.facebook.com/profile.php?id=100063441206991

藪本:
モノリスって全世界にある概念なので、実際に、現代アーティストはみんなモノリスを作っています。モノリスって何だと思いますか?

田堀さん:
古座川町は、魅力的な人や技術、自然が点在していて、まだ1つになれていません。そこを1つにするようなエッセンスが必要じゃないかと思っています。僕の目指すところは、町の力を1つにして、本当の意味での「一枚岩=モノリス」を作ることなんです。町の人とコラボして何かしたり、事業者同志も手を組めたりできたらいいなと思っています。「皆でひとつになろうぜ」というメッセージを、「大地を見上げる映画祭」で伝えていきたいです。

藪本:
古座川町の力を1つにする地域のハブですね。おそらく、もともとは信仰の場所だったと思いますので、地域の人からすると元の文化に戻るということかもしれませんね。そこを再整理して、ハブになって、ビジネスにも繋げていく。

田堀さん:
一枚岩をスクリーンにして観ることが面白いと言ってくれる人もいるし、一枚岩が大好きな人もいっぱいいます。その気持ちが1つになれたらいいですよね。古座川町は隠した文化が多かったから、逆に、僕は表現していきたいと思っています。

藪本:
田堀さんは自由に動けることが強みですよね。いろいろと考えていても仕方ないですからね。とりあえずやってみないとわからないですし。

田堀さん:
古座川町に行ったら、こんなこと楽しめるよね、こんなことできるよね、というアクティビティもちゃんと整備してアピールしようと思っています。やれることはいっぱいあるのに、やる人がいないから僕がやろう!って感じです。アイディアだけは豊富にあります。そこをビジネスに繋げられたら、新たな雇用も生まれますからね。

藪本:
そうなれば、まさしく「一枚の岩」になれるわけですね。人が集い、発信する拠点になっていく。経済のみならず教育や防災の機能もあるので、そういう意味ではアートとの相性はいいのではないでしょうか。

田堀さん:
アートについては全然わからないですけど。都会から移住されている人も多いですし、そういう話を古座川町でできるのは楽しいですよね。

藪本:
モノリス自体がアートだと思いますよ。一枚岩も完全にアートですよね。
アートの定義はとても広いので、教育的な要素もありますし、心動かされる人がいればそれがアートだし、すごくシンプルなものという捉え方でいいのだと思いますよ。

最後になりますが、皆さんに伝えたいことをお聞かせ願えますか?

田堀さん:
古座川町の魅力を世界に広めていきたいし、働きたい場所ナンバーワンにしたいと思っています。

藪本:
本日は長時間にわたりありがとうございました。

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