「土と根 / 見えない根を探る」会場紹介

かつて田内栄一が1957年に市の文化発展のため田辺市古尾に建てた旅館「愛和荘」は、国内外の著名人が訪れるなど、地域の文化交流の拠点でした。現在はその屋号を引き継ぎ、上野山城跡の古民家を利用した旅館として運営されています。田辺市街と田辺湾を見渡せる場所から、地中にある根とその土を知覚することで、豊かさを生み出す土壌に注目します。 本会場では、廣瀬智央、ジェームズ・ジャック/南条嘉毅/吉野祥太郎によるBacilli(バシライ)、クワァイ・サムナンによる3作家の展示を行います。 廣瀬は、これまでイタリアを拠点に国内外で活動を行い、美術史の中で強く注目されなかった嗅覚など、視覚以外の五感に訴える作品を多く制作してきました。本会場では、廣瀬が熊野古道を歩き感じた、自然や樹々の根をモチーフとした写真作品などの新作を展示します。 Bacilliは、田辺市の農家を訪れ、私たちが日々食べている柑橘や梅などの果樹が育つ「土」のリサーチを行いました。会期後半には「薫る土壌」の開催とそのリサーチを展開します。

出展作家(予定):廣瀬智央(日本/イタリア)、ジェームズ・ジャック/南条嘉毅/吉野祥太郎によるBacilli(バシライ)、クワァイ・サムナン(カンボジア)

【展示会場】

愛和荘
住所:和歌山県田辺市古尾28−24
https://www.aiwaso.jp/
開館時間 10:00 〜 17:00
(※10月8日、9日は、会場メンテナンスのため、開場時間が変更になっておりますので、ご留意ください。10月8日10:00〜15:00まで 10月日11:00〜17:00時まで。)

【出展作家のご紹介】

廣瀬智央
廣瀬智央(1963-)はミラノを拠点とし、90年代の活動初期より精力的に制作活動。日本、アジア、イタリアなど世界各地の美術館、ギャラリーでの展覧会に数多く参加してきました。また、最近では、母子生活支援施設の母子と空の写真を交換し合う「空のプロジェクト」(前橋、2016年から2035年まで継続)など、社会との接点を意識し既存のアート活動を超えた長期的なプロジェクトも手がけています。 廣瀬作品のコンセプトの幅は、マクロな視点で地球全体、国や季節を越えて果ては宇宙へも広がります。それと同時に、廣瀬は日々のイタリアの食生活から豊かさや多様性を発見し、異文化間の旅での出会いや対話から共通するささやかな幸せの感覚、生きることのへの意味を見出します。そんな日常性を芸術的レベルに移転させ、鑑賞者の五感に強く働きかけるのが廣瀬作品の大きな特徴といえます。 レモンやスパイスを床一面に敷き詰め、視覚や嗅覚、味覚を刺激するインスタレーション、空の写真、細胞が無限に増えていくような「ブルードローイング」、「ビーンズ コスモス」シリーズでは、豆、パスタなどの食材と、丸めた地図やビー玉、金などをアクリル樹脂のなかに浮かべています。 廣瀬は、人工と自然、昼と夜のような、事物の間の領域や小さなもの、周縁にこそ見過ごされがちな豊かな世界があることを見出し、その表面に現われない、奥にある矛盾や不確定なものを捉えてきました。鑑賞者は、展示空間を回遊しながら、様々な視点や角度から廣瀬が構成した作品世界を体感することができます。視点を変えることで見え方が大きく変わるこの異質なものの共存は、私たちの社会そのもののようです。

bacilli
土・人々・食にフォーカスし、我々とそれらを繋ぐ役割として空間・環境を創造する。2014年より、南条 嘉毅・James Jack・吉野 祥太郎で「世界土協会」として活動してきたアーティストコレクティブが、2022 年より“bacilli” として改名。bacilli(バシライ)とは土に繁殖する生物の分類の一つ。菌や藍藻などの一般的な細菌、バクテリアを指す。


主な展覧会
「水と土の芸術祭 2015」(新潟)
「S.Y.P. Art Space」2016 年(東京)
「いちはらアート×ミックス 2017」(千葉)
「Yame Remix」2018 年(福岡)
「土(irl x url)= ?」ART FOR THOUGHT 2020 年(東京)
「奥能登国際芸術祭2020+」(石川)
「瀬戸内国際芸術祭2022」(香川)

紀南でのフィールドワークの様子

クヴァイ サムナン / Khvay Samnang
1982年カンボジア・スバイリエン生まれ。プノンペン在住。王立芸術大学絵画科を卒業。ユーモラスで象徴的なジェスチャーを使い、伝統的文化儀式、そしてまた歴史や現在の出来事について、新しい視点を提示する。Sa Sa Art Projects(2010年〜)の創立メンバーとして運営に携わる。近年の主な展示に、「バンコク・アート・ビエンナーレ」(2020年、バンコク、タイ)、個展「Capsule10: Khvay Samnang」(2019年、ハウス・デア・クンスト、ドイツ)、「ドクメンタ14」(2017年、EMST、アテネ & Ottoneum、ドイツ)等がある。