コラム

港の玄関口 – 白浜駅前のこれから –

紀南アートウィーク対談企画 #11

<ゲスト>

尾崎 寿貴
Shinjuオーナー/ 美容師
和歌山県白浜町出身、田辺工業高校卒業後に専門学校進学を機に大阪へ。そのまま大阪の美容室に就職し、現在は店長を務められています。新たな一歩として、2022年3月3日、ご実家がある白浜駅前の店舗を美容室「SHINJU」としてオープンさせるためクラウドファンディングに挑戦されています。
https://readyfor.jp/projects/63273

<聞き手>
薮本 雄登 /紀南アートウィーク実行委員長



港の玄関口 – 白浜駅前のこれから –

<目次>
1.尾崎さんのご紹介
2.新店舗の構想
3.白浜駅前の姿と価値
4.美容師はアーティスト
5.SHINJUが作りたい場とは

1.尾崎さんのご紹介

藪本:
20年近く会ってないから、本当に久しぶり!今回は紀南の未来について考える対談シリーズの中で、とっちゃん(尾崎さんの通称。藪本とは小学校、中学校の同級生)が地元の白浜町で美容室を開業するためにクラウドファンディングに挑戦されていると知って、お話したいなと思い、声をかけさせて頂きました。
まずは、簡単な自己紹介からお願い致します。

尾崎:
尾崎寿貴(おざき としき)です。よろしくお願いします!
小中高と和歌山県で育ち、高校卒業と共に大阪に出てきて15年目です。専門学校では3年間ヘアメイクを学び、卒業後は大阪で複数店舗を展開する美容室に就職し、今もずっと同じ場所で働いています。今は5店舗ある内の一店舗の店長として働き、外部との合同イベントやヘアショー、レクリエーションの企画運営を担当しています。

藪本:
そもそも、なぜ美容師になろうと思われたのですか?

尾崎さん:
元々、田辺工業高校でずっとラグビーをして、監督から大学に進学してラグビーを続けるよう言われていたのですが、他の道に行きたくて。当時、自分や部員の髪の毛を切っていたので、美容師の道に進みたいと宣言して、専門学校に入学しました。

藪本:
白浜町に戻ってこようと思われたきっかけは何ですか?

尾崎:
いつかは地元白浜町で独立したいとは思っていて、物件を探していました。しかし、どれもあまりピンと来なかったんです。幼少期からずっと白浜駅前で育ってきたので、帰省した時にシャッター街になっている駅前に寂しさを感じました。今は営業していませんが、実家が白浜駅前で喫茶店をしていたので、思い入れがある場所で挑戦してみようかなと思い立ったんです。

藪本:
元々のご実家で、私も小学生時代によく遊びに行かせてもらった記憶があります。3階で漫画をひたすら読んでいた記憶があります。家では絶対買ってもらえない地獄甲子園とか(笑)。駅前ですし、立地としては最高ですね。大阪方面から来る人たちの玄関になっているけれども、寂れている印象もあります。

尾崎:
そうなんです。大阪の友人も駅は利用するけれど、白浜駅では何もしないと言っていましたね。せっかくの駅前ですし、盛り上がって欲しいなと思います。

藪本:
チャレンジですね!2022年3月3日にオープンということで、応援しています!

2.新店舗の構想

尾崎:
美容室はいろいろな人と関われる場所なので、地元の人の取り組んでいるものや作っているものが共有できるスペースを作ろうと思っています。
1、2階を合わせると、とても広いので2階の半分はピザ屋さんを開いている母親が作るパンや地元の農家さんの野菜を置こうと考えています。また、許可証が必要ですが、今後は友人が作っているお酒も置ければいいなと。1階は完全なフリースペースで内装整備も特にせず、何かできる場を作っておこうかなという感じです。

藪本:
たしかに、いろいろな人が来て、美容室は相談場所になることもありますもんね。私は、相変わらず、ずっと本を読んでいるタイプですが(笑)。

尾崎:
もちろん、いろいろな人が来て下さるのですが、僕のお店の場合は来てくれた人が地域の取り組みや地元の新たな情報に出会って、新しい人や場と繋がっていくきっかけになればいいなと思います。地元にいても、意外と誰がどんなことをしているかって知らないことが多いので、お互いが知り合える・繋がり合える場にしていきたいというのが1番の想いです。

藪本:
まさしく、小学校時代の「たまり場」のようなイメージですね。そして、新しいロゴも紀南アートウィークでも関わりの深い前田耕平さんが作るとお伺いしました。

尾崎:
たまたま知り合って、ロゴの作成を依頼させてもらいました。こんなに時間も場所も離れてても、ゆうと(藪本の通称)と共通の知り合いがいるというのを知って、僕も驚いています(笑)。

藪本:
世間は狭いですね!彼も現在大阪にいて、白浜に帰ってくるわけですもんね。若い人たちが帰ってきたら、そういう方たちが集う中核拠点にもなりそうですね。

3.白浜駅前の姿と価値

出典:写真AC

藪本:
白浜駅前はどうあるべきか、どういう場なのかについて少しお伺いできればと思います。

尾崎:
昔は栄えていたんですが、今現在は駅の利用者数も年々減少しているそうです。しかし、利用する人が全くいないわけではないので、観光客の方も地元の方も楽しめるように、立ち寄れる店舗がたくさんあればいいなと思っています。栄えていた頃は観光客の方だけをターゲットにしたお店ばかりでしたが、地元の人にも目を向けて、みんなでできるものがあればいいなと感じています。

藪本:
そうですね。そういう意味ではアートプロジェクトと相性がいい気がします。

尾崎:
アート作品の展示場所になるのも、とてもいいですね。

藪本:
今現在、構想しているコレクション展とつなげて白浜で新たな企画展もできるかもしれません。また、白浜駅を再構築する観点から、地元の人たちと一緒に新たな展示を企画してもいいですね。ちなみに、とっちゃんにとって白浜駅はどのような場所なのでしょうか?

尾崎:
たくさんあった店舗も今はレンタカー店のみですから、地元の人はあまり立ち寄る機会は少ないですね。ただ、帰省した時に新たにカーシェアのポイントがあるのを見かけたので、白浜駅を利用する人の流れは復活するかもしれませんし、もう少し白浜駅前の価値も高まってくるのではないかと思っています。

藪本:
なるほど。
今、私たちは第1次産業や第2次産業の土地を離れることのできない人たちの産品を全世界に輸出することで、地域の維持発展を図ることができると思っています。そういう意味で、白浜駅前も人と人とが出発し、離れ、交差する結節点として新たな形の港として再構築できないかと考えています。

尾崎:
全く確証はないですが、駅前に自分のお店ができて人の流れができれば、少しずつ周りの状況も変わってくるのかなと思っています。集まる理由さえあれば、集まることができる場所ですし、可能性が溢れる場所だとも感じています。

4.美容師はアーティスト

藪本:
美容師さんはヘアメイクアーティストとも言われていますが、美容室の価値は何だと思われますか?

尾崎:
お客様の髪型だけではなく、ライフスタイルや生活に寄り添うことが価値だと思っています。特に、七五三や成人式、結婚式等の人生の節目に出会うことができますし、仕事が変わったからイメージを変えたいとか、お客様の状況や心情の変化にも立ち会います。

僕らの仕事場では、「美容師は人生に立ち会える存在」だとよく言っていますね。
お客様を幸せにすることが自分の幸せにもなるし、働いていてポジティブな空間だと感じていますね。

藪本:
なるほど。コンサルテーションで答えがないわけですね。だとしたら、本ばかり読んでいる私はあまり良いお客さんとは言えないですね(笑)。

尾崎:
全くそんなことはないですよ!お任せで切らせて頂けるのはすごく助かりますし、お客様との距離感も雰囲気も、お店の考え方や系統によって全く違いますね。

藪本:
あとはカットする人によっても値段が違いますよね。それは何の差なのでしょうか?

尾崎:
技術者としてカットするまでに何年間も練習するので、価値は安売りしたくないなと思っています。時代としては高回転で安いカットを売りにしているお店もあるので、価格の高低差が生まれているのかもしれませんね。ある程度、技術力が高まればそれぞれの違いはお客様に伝わりづらいところもあるので、受け取り手の価値の感じ方に左右されると思います。

藪本:
価値を高めるために、何か考えられていることはありますか?

尾崎:
技術力はもちろんですが、居心地の良さ等の空間づくりやホスピタリティも価値のひとつだと思います。僕の作りたいお店で言えば、美容室以外のことを知るきっかけの場というのが価値に繋がるかなと考えています。

5.SHINJUが作りたい場とは

藪本:
新たな店舗であるSHINJUで取り扱うものは紀南や白浜町のことがメインなのですか?

尾崎:
そうですね。地元の人たちを中心に考えています。店づくりをしていく上でロゴの制作を頼んだ前田君も、普段は映像作品等がメインでロゴのデザインは受けていないそうなのですが、地元の人に作ってもらうということが僕の価値なので、お願いさせてもらった経緯がありますね。

藪本:
私たちも白浜の価値を再編集して、世界に輸出したいと考えているので、目指したい方向は近しいのかなと感じます。しかし、それを現代風に再構築しないといけない難しさもありますよね。
ちなみに、地元の方はどのような反応ですか?

尾崎:
やはり年上の方には「無理やろ。」と言われることもありますが、僕は可能性を感じているので、できると思っていますね。
これからは白浜町だけでなく、いろいろな町で過疎化が進んでいくと思います。人がいなくなっていく中で、その地で生き続ける人々が手を取り合って繋がり合う必要があると。だからこそ、今の内からみんなで繋がって、町の中にもうひとつ町を作るように、白浜駅前の店舗同士で町の縮小版が作れたらいいなと思っています。

新しいお店の名前も祖父の代から経営していた喫茶「真珠」から「SHINJU」と名付けました。今はクラウドファンディングで自分の考えを伝えて、賛同してくれる人と話をして繋がりを広げているところです。今は全く知らない人にも届くように、対外的にどう発信していけばいいのかを悩んでいますね。クラウドファンディングをしていること自体、地元の人の中には知らない人もいるので。

藪本:
よく考えると、「Shinju(真珠)」に関する本を読んだことを思い出しました。
「真珠の世界史 – 富と野望の五千年 (中公新書)」だったと思いますが 、この本によれば、”真珠は日本最古の輸出品のひとつで、最強のジャパンブランドだった”と書かれています。『魏志倭人伝』は邪馬台国の壱与が五千個の真珠を献上したことを語り、宋代の『冊府元亀』は日本の遣唐使が真珠を朝貢したことを記しています。戦後になると、養殖真珠は、焦土と化した日本に外貨をもたらす救世主となりました。真珠を供給できるのは世界で日本ただ一カ国。生産量の90パーセント以上が輸出に回され、全世界が日本の真珠にひれ伏したといわれており、古来、真珠は、コショウ同様、オリエントを代表する富のひとつだったようです。
 *参考:https://www.chuko.co.jp/shinsho/2013/08/102229.html
この内容は、紀南アートウィークが求める姿、そのままですね。白浜駅前「真珠アートプロジェクト」やりましょうよ!また、何とか達成できるよう、応援していますし、オープンまでの間に店舗を使わせて頂いて、いろいろご一緒にできれば嬉しいです。真珠と縁の深いアーティストさんの企画展や今まで調べてきた西牟婁郡史を図書館のように見て頂けるアーカイブゾーン等、いろいろ計画できそうです!ぜひ、また相談させてください。

尾崎:
オープン前に建物を利用してくれれば準備段階も発信できるので、いいですね!
親世代に聞くと、白浜駅は昔、白浜口駅と言われていたそうなので、もう一度活気を取り戻せるよう行動していきたいと思います。そして、この対談のように、話すことで新たに場が繋がっていくのが嬉しいです。

藪本:
ぜひ、紀南アートウィークの関連プロジェクトとして、真珠ビルを使わせて頂いて企画展をしましょう!白浜と真珠がまさに海のテーマで、港としての白浜と重なる部分があるので、これから深堀していきたいです。
お時間頂き、ありがとうございました。

<編集>
紀南編集部 by TETAU
https://good.tetau.jp/

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