リサーチ & コラム

【アーティストインタビュー Vol.1】前田耕平

紀南アートウィーク アーティストインタビュー

紀南アートウィークの出展アーティストをご紹介するシリーズ「アーティストインタビュー Vol. 1」をお届けします。第一回目は、地元出身の現代アーティスト 前田耕平氏です。

〈今回のゲスト〉

現代アーティスト
前田 耕平(まえだ こうへい)さん
1991年生まれ、和歌山県田辺市出身。人や自然、物事との関係や距離に興味を向けて、自身の体験を手がかりに、映像やパフォーマンスなど様々なアプローチによる探求の旅を続けている。最近の活動には、南方熊楠の哲学思想に迫った「まんだらぼ」プロジェクトや、タイにナマズを探しに行く「パンガシアノドン ギガス」などがある。現在は、大阪の元造船所施設のシェアスタジオ「SSK(Super Studio Kitakagaya)」を拠点に活動している。

KOHEI MAEDA portfolio site

〈聞き手〉

藪本 雄登
紀南アートウィーク実行委員長

目次

1.紀南地域のイメージ
2.展示のコンセプト
3.制作時の課題
4.紀南地域に期待すること

1.紀南地域のイメージ

藪本:
本日はお時間を頂きまして、ありがとうございます。
今回の紀南アートウィークでは、田辺市・高山寺に展示する作品の制作を前田さんにお願いしております。本日は、展示のコンセプトや紀南地域の未来について、詳しくお話を伺いたいと思います。

まずは、前田さんが思う紀南地域のイメージについて、お話しいただいてもよろしいでしょうか?

前田さん:
僕は18歳まで田辺に住んでいましたので、学生時代を振り返りながらお話しします。

高校時代、僕はカヌー部に所属して田辺の海で練習していました。カヌー競技は、海や湖などで行われることが多く、僕はこれまで様々な水辺の景色に出会ってきました。カヌーを続ける中で、僕は次第に自然の中に身を投じる感覚を記録したいと思うようになったんです。

大学で美術の世界に足を踏み入れ、大学院進学後は、地元の偉人でもある南方熊楠の思想について考えながら制作をはじめました※。かつて熊楠が研究していた那智には原生林が今も多く残っていますが、そのような意味でも、紀南地域は豊かな自然に囲まれているイメージが強いです。

*参考 まんだらぼ ー モノ(2016.02.21、Kohei MAEDA portfolio site)

*参考 まんだらぼ ー ココロ(2016.06.16、Kohei MAEDA portfolio site)

*参考 まんだらぼ ー コト(2016.11.11、Kohei MAEDA portfolio site)

また、串本から田辺まで続く、海岸沿いの地形もすごく面白いと思います。僕は、山登りやダイビングの体験を通して映像作品を制作することもありますが、その中でも崖は魅力的なんですよ。現在、僕は田辺市にある「ひき岩群」に興味を持っていますが、崖は、海と山を繋ぐ存在なのではないかと考えています。

*出典:ひき岩群(和歌山県田辺市 田辺観光協会)

前田さん:
実際に海と山は繋がっているとは思いますが、それなのに、どこか切り離されているような感覚があるんです。どこからが海で、どこからが山なのかという「海と山の境界線」についても、自分の作品を通して考えていきたいと思っています。

2.展示のコンセプト

藪本:
今回の展示のコンセプトについて、ご紹介をお願いします。

前田さん:
紀南地域の海や山に足を運び、実際に自分が体験したことを映像作品にして、インスタレーション*1として展開する予定です。

*1 展示空間を含めて全体を作品とし、見ている観客がその「場」にいて体験できる芸術作品のこと。仕事百科:インスタレーションって何?(はたらくビビビット)

作品制作の背景にあるのは「高山寺貝塚」と「高山寺式土器」という縄文土器の存在です※。縄文時代は今から1万年前ほどになりますが、このように時代を遡ることにはすごく面白味があるように思います。今回、作品を展示する場所は高山寺のお堂の地下にあたる場所ですので、地下に潜って歴史ごと遡るような感覚になれる空間を作りたいと思っています。

*参考 和歌山県田辺市 高山寺(2016年2月20日、ジャパンジオグラフィック一般社団法人)

*参考 高山寺貝塚(ぐるりん関西)

「高山寺貝塚史跡と高山寺式土器」*高山寺貝塚(ぐるりん関西)

前田さん:
展示の際には、高山寺式土器をモチーフにしたスクリーンを用意する予定にしています。高山寺式土器は「尖底(せんてい)土器」という、底の部分が尖っている土器です。大学院生のときに、南方熊楠をテーマにした「TIP OF NOSE*」という個展を、学内のギャラリーで実験的に開催したことがあります。これは、熊楠を「天狗」と仮定して、熊楠が森の中で動植物に出会う瞬間に、熊楠がどのような場所に位置していたのかということを考えた展覧会です。

*参考 TIP OF NOSE(京都芸大 学内展覧会情報)

タイトルの「鼻の先」という意味の通り、壁や苔の中など色々な場所から、尖った鼻が飛び出している様子を表現しました。先の尖ったものが何かから突出している様子に「境界線を越えた姿」を見出しました。今回の展示でも、先の尖った高山寺式土器をきっかけに、紀南地域における「内と外の繋がり」を考えていきます。先ほどお話しした「海と山の境界線」と関連させながら、「内と外」という概念を、今回制作する映像作品の中で表現してみたいと思っています。展示会場の高山寺で作品を鑑賞している人にも、「自分が今どのような場所に存在しているのか?」と、狭間で浮遊しながら考えるような空間を作りたいですね。

3.制作時の課題

藪本:
現在、作品を制作するうえで苦労している点などがあれば教えてください。

前田さん:
自然相手なので、撮影するときにはどうしても天候に左右されてしまうという問題があります。海での撮影の場合は、裸で潜っていますのでクラゲに刺されたり自分の浮力を調整するのが難しいという悩みもあります。海底までボンベで潜り、途中でボンベを離すという潜り方をしていますが、結局、息が続かなくなり、すぐに浮上してしまいます。ダイバーの方にアドバイスを頂いたこともあって少しずつ慣れてきましたが、やはり、海での撮影は体力的な負担が大きいです。

4.紀南地域に期待すること

藪本:
最後に、紀南地域に期待することがあれば、ぜひ一言お願いします。

前田さん:
紀南地域にはお祭りごとが好きな人が多い気がします。地元の人の熱のようなものが外に伝われば、紀南を訪れる人も増えるような気がしますし、紀南地域内外の人々が集まって混ざり合う様子を、もっと見てみたいと思っています。紀南アートウィークのような「文化が育っていくような場」を、若い人が中心になって作り上げていければいいですね。

藪本:
若者たち、例えば、小学生や中学生に向けてのメッセージはありますか?

前田さん:
今は少し難しいかもしれませんが、とにかくいろんな人に会ってください(笑)。紀南アートウィークには様々なアーティストが出展しますので、地元の人はもちろん、他の地域の人々にも作品を見ていただきたいと思っています。このようなイベントやお祭りが開催されると地域内外から人がやってきますから、きっと多種多様な人に出会えるはずです。

反対に、イベントに参加する機会がなかったとしても、自分から積極的に外に出て人と交流してみてほしいと思います。将来、藪本さんのように、グローバルに活躍する人がもっと増えてくれれば嬉しいです。

藪本:
本日はお時間を頂きまして、ありがとうございました。

前田さん:
ありがとうございました。