コラム

【アーティストインタビュー Vol.2】河野愛

紀南アートウィーク アーティストインタビュー

紀南アートウィークの出展アーティストをご紹介するシリーズ「アーティストインタビュー Vol. 2」をお届けします。第二回目は、地元出身の美術作家 河野愛氏です。

〈今回のゲスト〉

美術作家
河野 愛(かわの あい)さん
1980年生まれ、滋賀県大津市出身。京都市立芸術大学大学院 美術研究科修了。2007年から10年間、広告代理店でアートディレクターとして勤務。現在は、京都芸術大学美術工芸科 染織テキスタイルコースの専任講師を務めている。近年開催の展覧会には、「滋賀県立美術館リニューアル記念展 Soft Territory かかわりのあわい」(滋賀県立美術館、2021年)、「Story teller 物語を紡ぐ」(アキバタマビ21、2019年)などがある。
Ai Kawano

〈聞き手〉

藪本 雄登
紀南アートウィーク実行委員長

目次

1.紀南地域のイメージ
2.展示のコンセプト
3.制作時の課題
4.紀南地域に期待すること

1.紀南地域のイメージ

藪本:
本日はお時間を頂きまして、ありがとうございます。今回の紀南アートウィークでは、河野さんには白浜町内での作品の展示をお願いしております。本日は、展示のコンセプトや紀南地域の未来について、詳しくお話を伺いたいと思います。

まずは、紀南地域、特に白浜町のイメージについてお聞かせください。

出典:mihomiho7「南紀白浜の朝」(写真AC)

河野さん:
一言でいえば、白浜は力強くておおらかな町だと思います。歴史的な場所でありながらも、屈託のない土地というような印象が強いです。古くから、白浜は地元の人と外から来た人が入り混じる場所だったということで、独特のおおらかな文化を形作ってきたのだと思います。そのような意味では、白浜という土地は、南の国に行くときのように「自由な気持ち」を持てる場所でもあるのかもしれません。

私の祖父母が白浜で暮らしており、私が0歳の頃からよく会いに行っていました。子供の頃から特に印象的だったのは、白浜の「自然の光の強さ」です。朝、カーテンを開けたときに差し込んでくる陽の光は、私が生まれ育った場所とは全く違う、力強い輝きを放っていました。また、祖父母の家からは海も見え、この景色を臨んで1日が始まるというのが、子供の頃の楽しみでもありました。このように、陽の光や海などの自然を身近に感じることができるというのも、白浜の魅力だと思います。

2.展示のコンセプト

藪本:
今回の展示のコンセプトについて、ご紹介をお願いします。

河野さん:
今回は、2018年に発表した作品*を再構成したものを展示する予定です。当時制作したインスタレーション*1は、白浜町の古賀浦にあった祖父母の建てたホテルと、ホテルの目の前にあった入江がモチーフになっています。入江は、内と外が入り混じる境界であるのにもかかわらず、すごく穏やかな環境をしています。

*1 展示空間を含めて全体を作品とし、見ている観客がその「場」にいて体験できる芸術作品のこと 仕事百科:インスタレーションって何?(はたらくビビビット)

出典:個展 in the nursery 逸話ではないもの インスタレーションビュー  2018@ギャラリー 崇仁(Ai Kawano、写真:大河原光)
昔のホテル周辺写真
ホテル古賀の井 建設後
ホテル古賀の井 上空写真
ホテル古賀の井
ホテル古賀の井 前の入江(古賀浦)1
ホテル古賀の井 前の入江(古賀浦)2

河野さん:
祖父母が建てたホテルは現在閉館しているのですが、ここは祖父母の家でもあり、幼い頃の私の記憶が詰まった「プライベートな空間」でもありました。それと同時に、ホテルという場所柄、外から来た人々が一定期間留まって行き交う「パブリックな空間」でもあったんです。このようにプライベートとパブリックが交差する空間は、まさに、今回の紀南アートウィークのテーマでもある「内と外」という構造そのものでもあり、入江のような場所であると考えています。ホームページにも掲載されている「ここにありながら、どこか他の場所にもつながっている*」という言葉もまた、今回の作品の本質を表しているような気がしています。

*参考 KINAN ART WEEK 2021

今回のインスタレーションで用いる予定にしているのは、レモン色のネオン管です。このネオン管は、ホテルが閉館する前に、何十年ぶりかに屋上から取り外されたネオン看板の一部になります。このオリジナルのネオン管1本と、再制作した5本を、古賀浦、臨海、桟橋、白良浜など、白浜の各所に設置する予定です。

出典:上空から見た臨海浜(臨海浜の景色、白浜海底観光船)
出典:桟橋マップ
出典:白良浜(南紀白浜観光協会)

河野さん:
また、そのネオン管はアルファベットの「I」の形をしています。このネオン管には、海の道しるべとしての灯台、墓石、そして「私」という意味の英語の「I」などを想起させます。人々の記憶が交錯していく感じや、白浜で新しい物語が続くようなイメージを、作品を見てくださった方々に託すことができればと思っています。

3.制作時の課題

藪本:
作品制作時の課題や、苦労している点はありますか?

河野さん:
現時点では、設置場所の実現可能性が気になっています。ギャラリーや美術館での展示とは異なり、今回は、屋外の自然の中での展示になりますので、すごく緊張感があります。行き交う白浜の人々や海を背景に、ささやかな1本のネオン管がどのように佇むのか、私自身すごく楽しみにしています。

藪本:
河野さんの作品をご覧になった方、特に、地元の人がどのようなリアクションをするのか、とても楽しみですね。

4.紀南地域に期待すること

藪本:
最後に、紀南地域に期待することがあれば、ぜひ一言お願いします。

河野さん:
今回、作品のモチーフにした祖父母のホテルでも、昭和初期の創業当時、都市部から若い画家を招き、制作環境を提供していたと聞いたことがあります。これは今でいう「アーティスト・イン・レジデンス(Artist In Residence)*」ですね。現在も、若い画家たちの作品がホテルの中に多く残っているということからも、紀南地域には、芸術を通した「人々の交わり」が古くからあったのではないかと感じています。

*2 アーティストが一定期間ある土地に滞在し、常時とは異なる文化環境で作品制作やリサーチ活動を行うこと。またはアーティストの滞在制作を支援する事業のこと。

*中島水緒「アーティスト・イン・レジデンス(Artist In Residence)」(美術手帖)

昔から様々な地域の人々が混ざり合っていたというのは面白いですし、芸術を通して、今まで以上にミックスされていけばいいなと思います。そして、今回、藪本さんが立ち上げてくださった紀南アートウィークが、今後も長く続いていくことを願っています。

藪本:
ありがとうございます。頑張ります! 本日はお時間を頂きまして、ありがとうございました。

河野さん:
ありがとうございました。