コラム
紀南と林業から~木の収穫とは?~
<ゲスト>
迫平 隆志
株式会社 山長商店 経営企画室 取締役 企画部長
和歌山大学卒業後、住宅専門商社へ入社。千葉県柏市で勤務し、2007年に和歌山県田辺市の林業・製材業の老舗企業、山長商店へ転職。製材工場、検査検品ライン、営業等を経て、2018年1月から現職。「木育」の活動を通して、子どもたちからその親世代にまで、木に親しんでもらうよう尽力している。
https://yamacho-net.co.jp/
〈聞き手〉
藪本 雄登 /紀南アートウィーク実行委員長
〈参加者〉
杉 眞里子/ 紀南アートウィーク副実行委員長
下田 学/ 紀南アートウィーク事務局長
紀南と林業から~木の収穫とは?~
目次
1.山長の歴史とその歩み
2.日本の林業の課題
3.和歌山県の林業の課題
4.これからの未来に向けて
1.山長の歴史とその歩み
藪本:
本日はお時間いただきありがとうございます。山長商店さんのお話をお伺いするのを楽しみにしていました。まさに実家の白浜から田辺高校へ向かう通り道に、山長さんの事務所、工場、木材置き場があったので、今でもその独特の香りを思い出します。
迫平:
はい。こちらこそよろしくお願いします。
下田:
迫平さんは林業だけではなくて、いろいろな活動をされてる印象があります。ご出身はどちらですか。
迫平:
大阪です。和歌山との縁は和歌山大学で4年間、和歌山市内に住んでいたところからスタートします。就職先は千葉県の柏市で、7年くらいそこで勤務しました。山長商店の次期社長になる跡取り息子が、たまたまその会社の同期入社だったんです。彼の誘いに乗って田辺に来たんですが、4年前にその彼は病気で亡くなってしまいました。
藪本:
そうだったんですね。それは衝撃的です。ある意味、同級生の方の代わりに、山長さんを支えられているということですね。
ところで、山長さんは創業が江戸時代中期の歴史由緒ある企業と理解しておりますので、そこからお話を伺いたいと思っております。
迫平さん:
もともと山長は紀州備長炭の炭問屋だったんですよ。今の会長*が10代目になります。11代目が亡くなってしまったので事業承継には何かしら工夫が必要でしょうね。
*株式会社 山長商店 代表取締役会長 榎本 長治氏
藪本:
創業家で無い方が跡を継ぐ可能性があるということですか?
迫平:
それはわかりませんが、何かしら中継ぎが必要なのは間違いないかと思います。
藪本:
創業者の方ってどのような方だったのでしょうか?
迫平:
江戸時代の頃の話は文献でしか残っていませんが、山田屋という屋号で備長炭の炭問屋をしており、炭問屋としては大手だったようです。
藪本:
創業者の意思や考えとかは残ってるんですか。
迫平:
そうですね。
「私たちは、山林の恵みを通して人々に幸せと豊かさの実現に寄与します」
これが現会長が社長就任時に考え、現在浸透している経営理念ですが、自然の恵みを生かしたものづくりをしていくということや自分たちがプロの社員集団として行動していくとか、そういう理念です。
素材がいいと言っても、調理する人の腕がわるいとだめですからね。加工する技術だったり、ダメな木材は出荷しないといった会社のイズムが昔からの流れであるようです。
藪本:
Facebookの「木のマガジン」*を活発にやられていますね。それを企画部長として実行されているのが迫平さんなのでしょうか。
迫平:
そうですね。もともと木材業界って外にPRを発信することがあまりできない、奥手な業界なんです(笑)。
藪本:
ホームページに載っていますが、BtoC*でオンラインストアがありますよね。八咫烏(やたがらす)のシリーズ*がいいですね。
迫平:
BtoCは少しずつやっていっていますね。ただ、もちろん、メインの商材はBtoB*です。
家を建てる時や、公共建築物などで使う木材を提供しています。全国でも珍しいのですが、林業から製材、最終の加工までやっています。農業なら当たり前でやっている、産直の仕組みを山長は林業でやっています。
藪本:
日本でその仕組みは珍しいのでしょうね。中間業者がたくさん入って、細かな間接コストが積み上がっていくイメージです。中間業者がマージン取りすぎてるみたいな(笑)。
迫平:
林業は時間軸の問題で、どうしても時間がかかるので、そういう業態になってしまいがちです。植えて収穫するまでに半世紀かかります。植えたものを実際に使うのは、孫の世代になるというのが林業なんです。だから林業は連続性に困難が伴います。どのように維持させていくのかを考えるのが、重要です。
藪本:
データや参考事例を見ると山長さんの木で建てている家は関東が多いですね。(*)
*美しい紀州材の家 事例Index
出典:株式会社山長商店 ホームページ https://yamacho-net.co.jp/category/gal/
迫平:
山長商店は地元の老舗ですから、一定の経済基盤は和歌山にあるんですけど、実際の商売の基盤は県外になりますね。和歌山で生産している60%以上は県外消費*です。
*グループ一貫生産・販売体制により、多段階で中間マージンの発生する複雑な流通の流れを解消し、紀州から直接首都圏までの販売ルートを確立した。現在、首都圏で7割、和歌山で2割の割合で販売し、工務店などの建築事業者を対象に木材や建築についての勉強会を開催し、啓蒙を図る
出典:国産材利用に関すること – 木を活かす建築推進協議会 事例② 株式会社山長商店
http://www.kiwoikasu.or.jp/upImages/uploader_examiner/pdf20131213152759.pdf
今回の紀南アートウィークのテーマに「籠りの文化」がありますよね。おそらく紀南の一次産業って、ほとんど「籠りの文化」ではないかと思うんです。今でこそ道の整備がされて、大阪に出ていくのも苦ではなくなりましたが、昔の紀南は海運文化でした。紀南アートウィークのもう一つのテーマである「港の文化」ですね。まさに籠もって、いきなり港から一気に流れ出ていくというのは、紀南のイメージととても親和的です。
藪本:
木材は、過去田辺港、富田港から出ていったんですよね。
迫平:
そうです。昔はここで製材した木を、黒潮海流に乗せて船*で運んでいたんですよ。その流れがいまだに根付いていると思います。
藪本:
実は私、浮世絵コレクターでして、地道に紀州の浮世絵を集めています。最近やっと菱垣廻船(ひがきかいせん)の作品見つけたんです。田辺港から江戸に出る船なんですけど、運んでいるのは木材でした。
迫平:
今でも関東への出荷が多いのは明らかにその時代からの流れが根深く残っています。
*菱垣廻船・・・江戸ー大坂間を往来した廻船。船体に菱組みの格子を組んだ装飾をつけたことから、「菱垣」廻船と呼ばれ、最盛期には160隻ほどが就航していました。大坂から江戸へ木綿や醤油・油・酒・酢・紙などの日用品を運びました。
参照:物流博物館 菱垣廻船 http://www.lmuse.or.jp/collection/gallery/edo/06.html
*樽廻船(たるかいせん)・・・樽詰の酒をおもな積荷とするようになって樽廻船と呼ばれた。低運賃と迅速さで次第に菱垣廻船を凌駕した。
参照:ジャパンサーチ https://jpsearch.go.jp/gallery/ndl-pE1m3p8lllcEYP
迫平:
和歌山県は県人口が100万人未満でこれからも人口減少が見込まれるため、県内消費だけを考えると、発展は見込めない。もともと基盤にあった首都圏と、どう結び付けていくかっていうのが山長の商売の形です。
藪本:
ただ、田辺も木材の町の名残が残っている程度になりましたね。
迫平:
田辺は昔は木材産業の町だったので、いろんな材木屋さんがあったんですが、今は「そういえば町中に木があったね」というレベルです。地元出身の方でも40歳くらいから下の人は「田辺=木材産業の町」という認識は全くなくなってしまっています。
藪本:
たしかに。通学路で看板は見るけれど、当時は、何の会社だろうっていうのがありましたね(笑)。
迫平:
昔は山長だけじゃなくて、30~40社の会社があって、ここは木材産業の町だという認識があったはずなんです。それが、徐々に木材に携わる関係人口が減ってきて、田辺が木材の町ではなくなってきた。今は「山長商店ってなんの会社やろう」と思われています。歴史書を見れば田辺湾全部、木が浮かんでいたんですけどね。
藪本:
日本にはインドネシアをはじめ、東南アジアなどから木材が入って来ていますよね。どういう方が山長さんの木を購入されているんですか。
迫平:
何かしらこだわりがある人ですね。家作りする時に「住めれば何でもいい」という方は、我々のお客さんにはなってもらえにくいです。
藪本:
ホームページでも、歴史、特色やこだわり等が、しっかり説明されていますよね。「木の家に住むということ」とはどのようなことか、というページがありますね。非常に勉強になりました。
迫平:
山長のターゲットは「自然素材」というキーワードに興味があり、家づくりを楽しみ、こだわっているという方です。
藪本:
お客さんは工務店になるんでしょうか。
迫平:
そうです。工務店や設計事務所で家を建てる時に、山長の木材を選択肢の一つとして加えてもらっている方々です。
最終製品は家ですからね。工務店の先にはカスタマーがいるわけです。理想を言えば、その方たちから逆指名をもらえるようになりたいですね。「和歌山の山長商店の木を使いたい」と言ってもらいたくて、ホームページやFacebookで情報を発信しています。
2. 日本の林業の課題
藪本:
今、日本の林業には、どのような課題があるのでしょうか。日本全体の内需が徐々に萎んでいる状態かと思います。
迫平:
半年くらい前まではそういう問題でしたが、今の問題はウッドショック*で製材の輸入価格が上昇していることです。今回のウッドショックはコロナの問題が根底にあります。世界中で移動制限、受注制限、生産制限をしていた中で、アメリカや中国がいち早く経済活動を復活させて木材が不足してしまったというのが原因です。
もともと国産材の自給率が38%です。言い換えると、6割以上は外国からの木材を輸入に頼っているような状態です。そんな状態を改善して国産材をもっと使ってもらおうという活動をしていたんですけど、今年の春くらいから外国からの木材の輸入が滞ってしまい、木材が思い通りに入ってこなくなりました。今、国内の住宅会社は混乱の極みなんです。
日本は資源がないと言われている中、木はたくさんあるんだから、その木を使えばいいと言われるんですが、使える木材を生産するにはそれなりの設備が必要です。でも今の日本の設備では、6割の輸入材を補えることができないんです。
いざ国産材を使ってもらうチャンスが来ても、思うように生産できていない状況です。
*ウッドショック・・・アメリカの住宅建設需要増等に影響され、世界的に木材の需給が逼迫していることが原因で、世界的にも木材の価格が上昇しています。 それにより、国内でも2021年に入ってからは、住宅建築などに使用される丸太や製材の輸入価格は、上昇しており、この動きに引っ張られ、国内の丸太や製材価格も上昇しています。
参照:新型コロナがもたらす供給制約 ウッドショックの影響
https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikaisetsu/hitokoto_kako/20210719hitokoto.html
藪本:
生産の問題もあるようですが、価格の問題もあるのではないですか。
迫平:
輸入材が使われるようになったのはここ数十年の話です。わざわざ外国から輸入した木材の方が安いという価格の問題もありますが、品質の問題もあるんです、
日本全国をみると木材の品質にばらつきがありますが、和歌山の紀州材はばらつきが少なくいい木が多いです。強度が弱かったりとか、乾燥がきちんとできていなかったりとか。うちの木材でもそういうのがありますが、山長はメーカーの責任でそういった木材は使いません。ただ、全体で見れば、未熟な木材製品が出回ってしまっています。
藪本:
いい木材とはどのようなものなのでしょうか。
迫平:
色艶が良くて、強い木材です。年輪がつまっているほうがいいですね。森林の中で適切に除伐や間伐などの手入れがされていると、最終的に製品になった時に節が少なくてきれいなものができるんです。
藪本:
住宅用に密度の高い木材を作るために、植林管理をされているわけですね。しかも製品になるまで半世紀かかる。
迫平:
そうです。半世紀かかるのに、台風がくると一瞬で終わります。
紀州材というのは日本有数の木材の産地です。でも、良い木は他にもあって、例えば近隣である奈良県の吉野の丸太は日本一と言われています。紀州材よりも目をつまらせた育て方をしている地域は他にもあるんです。ただ最終的にそれを加工して届ける、ということに関しては素材から調理まで一貫して生産する当社に軍配が上がると思っています。
藪本:
職人さんもおられると思うんですが、どういう方が「職人」になるんでしょうか。
迫平さん:
木材を加工して、最終製品に仕上げる作業員はみんな職人だと思っています。
木材というのは自然素材ですから、まっすぐに見えてもまっすぐではありません。それを加工するのが職人技術です。曲がっている木材をいかに使えるようにするのか。あるいはこれはだめだな、使えないなという判断をどの段階でするのか。そこの技術の継承は山長の課題でもあります。
藪本:
木材の平均単価というのはどれくらいなのですか。
迫平:
木材業界では木1本当たりの単価を1立方メートル当たりの単価に置き換えます。
今の平均単価は杉の正角*が71400円/㎥*ですね。
*正角・・・横断面の一辺の長さが7.5センチ以上の正方形の角材のこと
参照:一般社団法人JBN・全国工務店協会
*農林水産統計 木材流通統計調査 木材価格(令和3年7月)
藪本:
その単価を10倍や100倍にあげるにはどうしたらいいでしょうか。
迫平:
山長は2013年にグッドデザイン賞を受賞しています。建築物のような目に見えるデザインではなくて、木材の産直をやり続けてきたという流通面の仕組みというソフト面でいただきました。
家を建てたいと思っている方たちや、われわれと一緒に仕事をやろうという方たちにとって、安心して信頼できる仕組みづくりを実現したいですね。予約販売のしくみを木材で実現し、指名買いの仕組みができれば単価を上げることができるのではないでしょうか。
藪本:
家を建てる時の木材は、山長さんの木を使ってほしいといった感じでしょうか。
迫平:
そうですね。
3. 和歌山県の林業の課題
藪本:
紀州材は、ブランディングによっていろいろな可能性がありそうですね。
日本では「木」自体が信仰の対象です。そこから再構築すれば指名制はもちろん実現可能だと思います。特に、縄文的な思考で熊野の森林を考え直してみてはどうでしょうか。ちなみに、伐採する時は何か儀式のようなことはするんですか。
迫平:
お清めは必ずやりますよ。自分たち以上に樹齢を重ねている木を切るわけですからね。
藪本:
そのような信仰の観点から、その「木」の「霊性」のようなものに着目してもよいかもしれません。それはまさにアートといえるかもしれませんし、実は私も「木」に関する映像作品を相当数集めています。「木」に対する信仰は、別に日本人のものだけではないと思いますし、全世界の人たちに通底するテーマだと思います。
迫平:
価値の高め方というのは、僕らも再提示しないといけないですね。
下田:
「この木は、この山のここの斜面の木です」という記録は残しているんですか。
迫平:
そこまではしてないですね。
下田:
農業では「この人がこの畑で作った」というのが付加価値になります。木も他と並んでしまうと違いがわからなくなりますよね。
「この木は他の木とは違うんですよ。この木にはこういうストーリーがあるんですよ」というお話ができれば価値が上がるのではないでしょうか。しかも、熊野の森の木ですよ、というのでさらに価値が付きそうです。
迫平:
熊野というのは世界的に見ても注目度が高い地域ですからね。そういう熊野の哲学的なところは海外の方が関心が高そうです。
藪本:
来てもらわなくてもその価値を輸出できると思いますよ。近代的な価値を超越する熊野のアニミズム的な発想と統合させると、すごく可能性があるのではないかと思います。
杉:
地元の方が身近すぎて価値を認識できていないものでも、世界に向けて発信することで、その価値を見出せるとわれわれは信じています。
SDGs*をいろんな企業がやっていますが、「育てていく」と「育っていく」という流れを考えると、木材が一番循環しているように感じます。コロナの前までは成長の流れの中で消費することが経済、という感覚がありましたが、その価値観は変化したのではないでしょうか。
そんな新しい価値観で、例えば、われわれと一緒に美術館を作ってみませんか(笑)。他にも何か一緒にコラボしたいです。
*SDGs・・・持続可能な開発目標(SDGs)、通称「グローバル・ゴールズ」は、貧困に終止符を打ち、地球を保護し、すべての人が平和と豊かさを享受できるようにすることを目指す普遍的な行動を呼びかけています。
出典:国連開発計画
https://www.jp.undp.org/content/tokyo/ja/home/sustainable-development-goals.html
迫平:
それはぜひお願いします。遊びながら仕事するといいものができますよ。
下田:
そういえば、インスタも始められましたね。
迫平:
まだ戦略的にできてないので、専属の人間をつけないといけないな、と思ってるんですけどね。
下田:
発信のその先で何をするかということですね。海外に向けて英語で発信しても直接の営業は難しいですよね。でも間接的な効果はあるのではないでしょうか。海外の人たちに記事にしてもらうと、逆輸入で日本での価値があがる、というような事もあるのでは。そういう発信の仕方もあるでしょうね。例えば、浮世絵も海外で評価されて、日本で価値が上がったものですよね。
藪本:
そうなんです。だから、私は浮世絵に関心を持って、コレクションを継続しているんです。
4. これからの未来に向けて
迫平:
今、山長は木育という活動をしています。
和歌山の老舗企業である山長商店ですが、地元ではほとんど営業しないので、地元の人との交流があまりなかったんです。ずっとそれがもったいないと思っていました。それと同時に地元の人の山長商店に対する認知度が落ちてるな、とも感じました。
そういうのもあって、地元の人と一緒に、木に触れる機会を作りたいと思いました。
地域のハブ拠点になるような美術館や、図書館などに木育が体感できる場所なども作りたいですね。
藪本:
木育活動をされているということですが、どういう活動をされているんですか。
迫平さん:
木に慣れ親しんでもらう体験を提供しています。昔から和歌山の山の育て方って「良い」んですよ。それを子ども達にも知ってもらって、木を身近に感じてほしいです。
藪本:
「良い」とはどういうことですか。
迫平:
和歌山の山は林地開放を民間で行いました。そのため和歌山の山はほとんどが個人所有の山で、民有林率は95%なんです。国有林、県有林、市有林というのはわずか5%です。だから民間の競争原理が働いていて、隣の山よりいい山を作ろうという文化があったんです。
今収穫されている木材はその時代の名残でいい木材が多いんです。全国的に見ても稀なことです。
藪本:
なるほど。
迫平:
そんな土壌があって、和歌山の木材は素晴らしいという評価をもらえています。先人たちが紀州材をブランド化してくれた功績のおかげです。
藪本:
山長さんは、森や木をどういうふうにとらえているのでしょうか
迫平:
先祖代々受け継いできたものです。仕事柄、日本全国の山に入りましたが、育てられている山はきれいです。いい山になっています。
藪本:
きれいな山というのはどういうふうに育てるのでしょうか。
迫平さん:
外から見ると、どの山を見ても同じに見えると思うんですが、中に入って見ると、手入れされている山か、されていない山かっていうのは一目瞭然なんです。
手をかけられた山というのは、それだけで歴史を感じます。世界遺産に認定されている熊野古道でも言えますが、あの道は周辺の人たちの作業道として手入れがされたというだけなんです。日々の努力のたまものであって、きれいだとか神秘的というだけのものではないです。特に農業と林業には必ず人の手が入っています。それは現在の私たちではなくて、前世代の人たちの手が入った結晶が残っているわけです。
藪本:
山に手を入れるというのはどういうことなんですか
迫平:
安全に歩きやすくというだけではなくて、雨が降って荒れた道の整備や、生存競争で負けた木の間引きだったりとか、台風被害で倒れた木が他の木の成長の邪魔をしないように整備をするとかですね。
藪本:
農業でやる剪定作業とおなじですね。
迫平:
それを時間をかけてやっているのが林業です。半世紀かかりますけどね(笑)。私たちは「伐採」という言葉ではなくて、「収穫」というんです。
藪本:
その言い方いいですね。「収穫」と言われてしっくりきました。
迫平:
山は田んぼや畑と同じなんです。違うのは山は斜面で、時間軸が長いことくらいです。
藪本:
壮大な時間軸ですね。山と人間のあり方とは、どうあるべきだと考えますか。
迫平:
山にもっと関心を向けないといけないですね。守るだけじゃなくて、利用するのが大事です。住まなくてもいいですから仕事のフィールドの場であったりとか、もう少し自然に関わるべきだと思います。
藪本:
梅システム*と同じで林業も人間が手を入れないとなりたたないわけですね。手を入れるということが山を維持するということなんでしょうか。
参照:紀南アートウィーク 対談企画 #5 『紀南における梅づくりの原点』
迫平:
そういうことでしょうね。
林業の問題点は他にもあります。林業は大きく分けると保育と収穫という2つの期間がありますが、保育の期間だけで50年かかるわけです。その間は収穫がないのでお金にならない。そこが連動していないのも林業の大きな課題です。
藪本:
キャッシュが生まれない期間が長いということですね。今収穫している木はいつの木ですか。
迫平:
50年位前に植えた杉、ヒノキが今収穫期です。
藪本:
その数が多く、それを受け入れる需要がないから値段が下がっていると聞いたことがあります。
迫平:
それもありますね。収穫期の木はあるのに、それを消費するだけの需要が国産材になかったんです。そんな中で、海外からの輸入材が入ってこない今こそ出荷できればいいのですが、設備が足りなくて出したくても出せないんです。設備を整えるのにも、単純に一年くらいの猶予期間がいりますね。
下田:
キャッシュのサイクルや設備投資のお話など、いろいろハードルが高そうですが、極端な話、すごく大きな企業やベンチャー企業がやってきて林業に新規参入します、ということは発生しずらいですか。
迫平:
しずらいと思いますよ。
下田:
農業みたいに、自分ひとりで始めてみるというわけには、いかないんでしょうね。
迫平:
木材の場合、最終製品を小さくするということはできても、その過程の材料は大きいままですからね。
やっぱり育てるところ、作るところ、使う所、そういうところが全部つながって、その上でみんなが木を使っていこうという意識を高めることができれば、別の一手が打てるかと思うんです。
藪本:
林業がなくなるとどうなるんでしょうか。
迫平:
農林漁業は衰退させると国力を衰退させることになりますよ。
日本には資源がないといわれますが、木は日本の誇れる資源だと思います。
その木も再生可能、持続可能な資源であるわけです。計画的に使って、使った後は植えて育てて、また使う。使い続けるサイクルを今のこのタイミングで再構築していくべきですね。
藪本:
そういう意味では「木育キャラバン」*とかすばらしいですよね。
*木育キャラバン・・・わかやま木育キャラバン実行委員会(事務局山長商店)が主催し、認定 NPO法人芸術と遊び創造協会、東京おもちゃ美術館などが協力、木のおもちゃ等を通じ子供達に木に触れる場を提供するものです。
参照:和歌山木材協同組合
http://wakayama-mokuzai.or.jp/topic/2019/2019-no2-mokuiku-inTanabe.pdf
迫平:
木育が一番有効なのは、お子さんたちが木に触れる体験です。「木っていいな」という感覚をずっと持っていてもらいたいです。
藪本:
和歌山は「きのくに(木の国)」*ですからね。すごく勉強になりました。実際に山に入っている方の話も聞いてみたいですね。
*木の国・・・木の神様が棲む国を意味する「木の国」が由来となり、古来和歌山県は紀伊国と呼ばれてきました。
参照:和歌山県観光振興課 紀の国の由来をたどる
http://wakayama-rekishi100.jp/story/005.html
迫平:
うちの山に見学に来てみてください。
藪本:
はい。会長の話も聞いてみたいですね。会長の目には山に何が見えているのか気になります。
迫平:
会長は現代アートも好きですよ。
藪本:
そうなんですか。それは、ぜひお話してみたいです。 ありがとうございました。
出典:和歌山県 農林水産部 森林・林業局 林業振興課
https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/070600/kisyuzai/history.html
<編集>
紀南編集部 by TETAU
https://good.tetau.jp/