コラム

対談企画 #12 『人生参加型工務店はアート!』


◆紀南アートウィーク対談企画 #12

〈今回のゲスト〉

株式会社 高垣工務店 代表取締役社長
石山 登啓(のぶひろ)さん
和歌山県田辺市で昭和27年に創業された高垣工務店の代表取締役。平成30年就任。
介護事業(半日型デイサービス「きたえるーむ」)・教育事業(発達障害スクール「ハッピーテラス」)にも携わっている。
https://takagaki.net/

〈聞き手〉

薮本 雄登
紀南アートウィーク実行委員長

<編集>
紀南編集部 by TETAU
https://good.tetau.jp/

人生参加型工務店はアート!

< 目次 >

1.石山さんの紹介
2.大工とは「お客様の人生を請け負う」
3.ピンチをチャンスに
4.人生参加型工務店
5.地域における工務店の役割とは?
6.工務店はアート!?

1.石山さんの紹介

藪本:
本日はお時間をいただきありがとうございます。
紀南の方のお話をお伺いすると、世界遺産や農業遺産というワードでお話をしていただくことが多いのですが、今回は「遺産」というよりこれからのビジョンをメインにお伺いしたいと思っています。まず、石山さんの自己紹介をお伺いできますでしょうか。

石山さん:
生まれは白浜町の白良浜、湯崎の近くです。田辺市の高校を卒業後、静岡県富士宮市にある大工の学校「日本建築専門学校」という棟梁を育成する学校へ行きました。そこを卒業後、22歳で地元に帰って来ました。
そして高垣工務店の当時の棟梁である川口さんに弟子入り。川口さんは同級生のお父さんだったんです。その川口さんが高垣工務店からの仕事を請け負っていたことがご縁で、高垣工務店に入社することが出来ました。今から25年くらい前の話です。

藪本:
徒弟制度ですね。弁護士業界もそんな感じです、一子相伝のような。

石山さん:
親方は全然口を聞いてくれなかったです。怒られるか無視されるか(笑)
あんなに自己肯定感が低下する期間は無かったです。でも今では、そういう修行の期間も良かったと思っています。

2.大工は「お客様の人生を請け負う」

出典:写真AC

藪本:
なぜ大工になろうと思ったのですか?

石山さん:
当時は本当に何も考えていなかったんです(笑)
母から勧められて入ったのが先ほどの建築の専門学校です。
いざ入ってみるとその学校は、日本中の大工の息子が来ていて面白かったですね。寮生活の中で学生同士で色々な話をしたり、モノを作ったりしました。地方の腕のいい大工の息子が来ていたので、彼らの実家である日本全国の棟梁のところに行ってさまざまな工法を勉強させてもらいました。

実は「日本」建築専門学校と思っていたら、日本建築の専門学校だったんです(笑)
なので学校では宮大工から文化財の修理や茶室の勉強などもさせてもらいました。

藪本:
そのスキルは帰ってきても活かせなかったのですよね。

石山さん:

本当は宮大工になりたかったんです。宮大工のカリスマで法隆寺の修理などを手がけた西岡常一さんの著書「木にまなべ」を読んで宮大工を目指しました。でも地元に彼女が出来たから帰って来ました(笑)

藪本:
大工とは何か?一番聞きたかった質問です。

石山さん:
大工とは「大きい工」と書く。出会ってきた棟梁が素敵なんです。その集落の人格者です。
「お前にはまだ早い、お前は奥さんを大事にしないと」など相談を受けたりして。そして「お前にはこういう家がいい」と、その人の生き方や家族構成、性格も知って作ってくれるんです。あの人に家を建ててもらうということは、あの人に人生を作ってもらう。そういう存在です。
我々の仕事は「請負」と書きます。一式を請け負って職人に報酬を払って。つぶれる工務店はお客様からの出し渋りとか、、、本当に苦労されている工務店さんもたくさんあります。工務店の仕組みが簡略化されて、職人を育てる風土が失われつつあります。

藪本:
契約社会では、依頼をしていないのになぜ追加を払わなければならないのか、契約上は書かれてない、という話が出て来ます。「一括で請け負っているので適切にしただけ」なのに、契約書に書かれていないので仕方ないです、という議論になってくる。

石山さん:
日本ではまだ情の部分が大きいですね。今は契約書や重要事項説明書などを作るようにしていますが、大工さんの絶大なる信頼でやっているところも残っています。
家は人生で一番高い買い物です。「お客様の人生を請け負う」のが大工です。我々もお客様の人生に入っていかないと出来ない。スタッフの就業時間を守ってお客さんと係わるならば、合理的に契約書でやったほうがいい。でも、本当に心からの契約にはなっていないと思います。

藪本:
私の問題意識もそこにあります。

石山さん:
時間をある程度かけて対話してお互いの相違を埋めていく。これが上手くいくんです。時間を重ねるのが大事です。時代遅れかもしれないが、そういう工務店でありたい。

藪本:
100枚の契約書を作る弁護士が儲かって当事者同士が全然信頼していない西洋的な世界観より、石山さんが話されたような東洋的な考え方の方が価値ある。そういう時代が望ましい気がします。

石山さん:
私もそう思います!
弁護士と工務店はもっとかけ離れた世界だと思っていましたが、共通点も多いですね。

3.ピンチをチャンスに

藪本:
どのような経緯で社長に就任されたのですか?

石山さん:
高垣工務店には大工で入社したのですが、社長に「将来独立したい」と言ったら大工だけじゃなく現場監督や営業などいろいろ経験させてもらいましたね。
30歳頃に一度会社を辞めたのですが、契約社員として在籍はしていました。その後父親を手伝ってましたが4年くらいして高垣工務店の社長に「この会社が大好きなのでまた入れてください」と頼んで入れていただきました。契約社員だったので「社員にしてください」とお願いしたら「ダメ、お前は社員になったら安心する。会社の業績が下がる。今のまま出来高で働いたほうがやる気が出て会社も盛り上がる。チャレンジして頑張りを見たらちゃんと社員にしてやる」と言われたのですが、、、その3か月後に社長が倒れました。今も入院されています。
「あの会社はもうすぐつぶれる」という噂が広がった時期もありました。社長が倒れた会社は信用してくれないし、どんなにキレイなカラー広告を作ってもダメでした。仲間とどうすれば売れるか話し合った結果、情に訴えかけることにしました。社長が倒れたけど社員で健気に頑張っている、という広報活動をすることにしたのです。名付けて「同情チラシ」作戦。この広報活動で社長が倒れた時から3年で売り上げが3倍になりました。

藪本:
ピンチはチャンスですね!

石山さん:
同情マーケティングという新たなジャンルで(笑)
それを聞いて全国の工務店が視察に来るようになりました。家の話を一切せず、いかに健気に見せるかという説明をすると皆さん首を傾げて帰ります。
そんな形でチームを作ってきて40歳まで契約社員です。社長が倒れているから石山を社員に、という話が出て来なかったんです。
40歳の時に社員と取締役をさせていただけることになりました。

藪本:
取締役に就任されたらもはや社員でもないですね(笑)
なぜ石山さんに?チームのリーダーだったのですか?

石山さん:
社長の奥様も社長になられたが看病をされていたので、会社に来ることが出来ませんでした。頑張りを認めてくださり、株を譲渡していただきました。
「高垣のれん会」という持ち株会社を作って皆で株を持っています。スタッフで株を継承出来る仕組みを作りました。今年で創業70年です。あと30年で老舗になります。今私が47歳なので、30年後の77歳で継承できる流れを作りたい。

4.人生参加型工務店

藪本:
社員も増えてビジネスは順調そうですね。どういうビジョンで経営されているのですか?

石山さん:
順調そうに見せるのが上手いんです(笑)
契約社員の私の話は誰も聞かないのですが、その時に社長の理念を説明すると皆が話を聞いてくれる。理念が大事なのだと思いました。
社長には「これに答えが全部ある」と常々言われていました。今考えると倒れた社長と理念を通して対話していた気がします。
社長の理念は「より良い建物づくり通じてお客様と私達の幸せを実現する」。
この中で「お客様と私達の幸せ」というところがとても響きましたね。それまで職人をやっていて、自分たちの犠牲がお客様が幸せという印象だったので。この理念を聞いて、自分も幸せになっていいんや!とスイッチが入りました。
一方でそのうちにこの理念が小さく思えてきました。「より良い建物づくり」と書いているから、建物の範囲を越えてはいけないという理解をしてしまいまして。
介護事業部(半日型デイサービス「きたえるーむ」)や教育事業部(発達障害スクール「ハッピーテラス」)をしているので、もっと範囲を広げたいと思いました。ただ、社長が作ったものを大事にしたいという思いもあり、そういう思いをぶつけ合いながら新しく高垣の理念を作り変えてきました。

藪本:
泣いて笑って人生トゥゲザーですね!

石山さん:
ありがとうございます!これはブランドメッセージです。
高垣工務店とその企業グループは「高い品質の住まいと共に住む人の人生をより豊かにしてくれる繋がりや楽しさを提供していく」ということを謳っています。
私達はみな住む人の人生を思いやり、よりそい、思いやり、共に生きていくために毎日あらゆる努力を惜しまない。それは住む人と私達が、共に参加することで生まれる人生のコミュニティーである。これを毎日唱和しています。

藪本:
人生というワードが出てきますね。人生とはどういう定義をされているのですか?

石山さん:
自分たちのことを「人生参加型工務店」と言っています。
スタッフがお客さまの人生に参加した瞬間に喜びを感じている、ということが分かるんです。家を建てた時、介護をさせていただた時など、全部人生に参加させていただいた瞬間なのです。お給料をもらうからやるのではなく、自己責任を感じた瞬間に喜びが出てくるのです。同じ時間を過ごすなら見るだけでなく、参加したほうがいい。阿波踊りの「同じあほうなら踊らにゃ損」と一緒だと思います。

藪本:
主体になる、ということですね。主体になれば関係性が生じます。まさに現代アートの世界!
世界の現代アートの先端ではソーシャルエンゲージドアート のように、鑑賞者が参加者になった方がアートとしておもしろい、という流れです。そこで感動すればアートです。やってらっしゃることはがアートですね。

※:アーティストが対話や討論、コミュニティへの参加や協同といった実践を行なうことで社会的価値観の変革をうながす活動(引用:現代美術用語辞典vor.2)

石山さん:
人生参加型工務店がアートと言える!これは響きましたね!

藪本:
価格競争にならないですよね。一緒に働きたいから価格はいいよ、みたいな。そんな感じなんじゃないかな。

石山さん:
私の中で世界とは紀南エリアだけなんです。なぜなら紀南エリアでしか責任が持てないから。繋がりや楽しさを提供すると言った限りは、例えば台風が来た時に助けてあげられる距離なんです。およそ1時間圏内、それ以上先は私には世界ではなくなっています。

藪本:
「泣いて笑って人生トゥゲザー」これは全世界で通用するコンセプトです。
例えば徒弟制度のようなコンセプトだけを輸出すればいいと思います。世界へ行かなくてもオンラインで世界に発信すれば繋がるのではないでしょうか。

石山さん:
なるほど!この時間で色々なことを感じられますね。

5.地域における工務店の役割とは?

藪本:
地域に係わるようになったきっかけは何だったのでしょう。

石山さん:
田辺市長が塾長をしている「未来創造塾」 の2期生として参加し、初めて地域の問題を勉強しました。それまでは社長が倒れて会社をどうするかを一生懸命考えてきました。例えば人口減少問題など、地域課題が自分たちの仕事にこんなに係わってくると知った時は衝撃でしたよ。20年後には自分も年配者になっています。どうしたらいいのか、今からやらなければならないものは何なのかを考えるようになりました。工務店でありながらお客様の要望で介護事業やハッピーテラスを始めるようになりましたが、未来を考えたら不安になって、いてもたってもいられなくなってきたのです。

※:参考たなべ未来創造塾

藪本:
50年、100年後の未来のことを考えておられるのですね。

石山さん:
最近中学校で授業をさせていただく機会が増えました。地域の良さ、魅力を中学生に伝えなきゃと思います。でもその時に自分たちが楽しんで生きていないと魅力になりません。「この地域はパッとしないけど後は頼む」と言われても「面白いと思わないものをなぜ私達に託す?」と思われるでしょう。

藪本:
そういう時アートという手段は便利ですよね。広くて深いと思う。なんでもアート。感動したらアート、自由さがアート。現代の若い人たちも合わせられます。
昔の人も本質的にはい良いことを言っているのに若い人は引いてしまうこともあります。もう少し別の伝え方があると思います。
高垣工務店さんは見せ方が上手ですよね。ホームページも、しっかりした思想が優しくてカジュアルです。

石山さん:
うれしい!そういう評価はうれしいです。そういえば今若いスタッフが増えています。
スタッフに「なんでうちの会社に入ったの?」と聞いたら「楽しそう」と返ってくる。しかし「楽しい」を勘違いされると困ります。同じ漢字ですが、ラクではなく大変だけど楽しいという意味。成長することに魅力と面白さを感じてほしい。だからどんどん失敗してほしい。

藪本:
未来創造塾やシリコンバー などは工務店のワクを越えています。ある意味何でもOKという感じですよね。

※:高垣工務店のコミュニティースペース

石山さん:
そうなんです。人生に参加するんだったら何でもOKと思っています。ただ、自分たちの世界を紀南というエリアに限定したのはある意味良かったと思っています。どんどん広げていくのではなく隣のお客様の役に立つ仕事をやっていこう、そのために変化していうという方が生き残れるではと思います。

藪本:
工務店を再定義することですね。

石山さん:
工務店、介護、教育、不動産をやっていて、住宅業界だけでは見えないさまざまな視点が集まることに感動します。介護事業のきたえるーむでは言い方も変えました。施設を「マッサージ付きジム&カフェ」利用者を「ゲスト」と呼び、利用者の自尊心を大事にしています。フィットネスクラブに通っている感覚でお友達を紹介していただけます。田辺市でフランチャイズで運営していますが、ゲストとの係わり方を大事にすることにより、全国1位の稼働率です。

藪本:
新しい価値を生み出していますね。フランチャイズ契約のような西洋的な仕組みではなく、紀南でできた仕組みを全世界に輸出したいですね。

石山さん:
紀南の風土で作ったルールが世界に羽ばたけば素晴らしいです!

6.工務店はアート!?

写真:シリコンバーにて

石山さん:
例えば和歌山の世界農業遺産「みなべ・田辺の梅システム」 ※1 のように、代々継承してきた無形のものに価値を見いだせますよね。ネーミングにもこだわっていて、会社の代表会議を「王子たちの宴」と呼んでいます。「王子」は熊野古道の王子 ※2 でもともと神々という意味です。神々が戯れている会議って盛り上がるじゃないですか。

※1参考:和歌山の世界農業遺産「みなべ・田辺の梅システム」
※2:本来、熊野古道の近隣住民が在地の神を祀っていた諸社を「王子」と認定し、熊野詣の途中で儀礼を行う場所としました。(引用:熊野本宮大社公式サイト

藪本:
それぞれの王子には役割分担もありましたね。

石山さん:
得意分野があって個性で戦っている。日本神話の神々はとても親しみやすいです。
アマテラスの天岩戸の神話 が好きです。
引きこもったアマテラスの前でパーティーをする。踊る神、戸を開ける神など役割を分担してます。特に踊る神、コロナ禍でこういう人材が欲しいですね。
人生参加型工務店と一緒で、宴のような雰囲気で対話するとアイデアも出るし、皆でがんばろうと思えます。得意なところで表現すると他の人も触発される。ぬか床のように発酵によって皆の味が自分の味になる。うちの会社がアートだとしたら、ぬか床感がアートだと思います。

※参考:神社本庁サイト

藪本:
神話の話を皆さんでしているだけでアートですよ!動画を撮りましょう。現代に置き換えて工務店が神話を発表するという。

石山さん:
現代神話・工務店バージョン、面白いですね!

藪本:
シリコンバーで高垣アートコレクティブとして作品を発表してもいいと思います。

石山さん:
シリコンバーに色々な方が来て、そこで生まれる空間はアート?その風景を撮るだけでもアートになるのでしょうか?

藪本:
もちろん!紀南におけるソーシャルエンゲージアートだと思います。言葉に置き換える必要がないので世界に発信できますね。

石山さん:
確かに、事業発表の時にもスタッフが触発されて勝手にテンションが上がって話していきます。言葉の音色が変わっているのが分かります。

藪本:
アート集団です。

石山さん:
私ではなく高垣工務店自体がアートだと言われたことが嬉しいです。感情が揺さぶられることがアートだと。
事業はルールや言語で理解してもらわないといけません。これが難しい。「アートとして心を動かす」をスタートとして仕組みを作った方が早いかも知れません。

藪本:
アートは言語で説明しなくてもいいので便利なんです。宗教美術もそう、言葉で伝わらないからアートになっていきました。

石山さん:
恰好を付けすぎず、真面目にふざけたい。

藪本:
アートやエンタメでやるならカチっとさせずとも良いのではないでしょうか。

石山さん:
宮大工の世界では敢えて完成させないんです。完成させると後は衰退するだけ、という考え方で、棟梁にしかわからい未完の部分を残すのです。カチっとさせるとそこから衰退に向かう気がする、ということだと思います。
子どもの時はあんなに自由で楽しかったのに、周りの目を気にするようになってアートから遠ざかった気がしますね。

藪本:
ぜひアーティスト集団で!

石山さん:
表現する時には紀南の気候風土や自然や人に影響されます。それを表現できるのが嬉しい。紀南に魅力を感じる人がいるだけで、テンションが上がります。
アートウィークの「こもる、ひらく」というテーマは、我々が駆けつけられる1時間圏内をしっかり守ることで世界にひらく、という気がします。守ることがひらく、表裏一体なんだという気付きを得られました。

藪本:
アートウィークに期待することはありますか?

石山さん:
色々な触発や肯定や気付きをいただけました。そして発信したいという思いが出てきました。地元から出たからこそ良さに気付いたので、自信を持って発信出来ます。

藪本:
本日はありがとうございました。

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