コラム

    対談#32 IoTが創造する未来

    ◆紀南アートウィーク対談企画 #32

    〈今回のゲスト〉

    株式会社ウフル CRO(主任研究員)
    ARTSNET 創業者
    古城 篤(こじょう あつし)さん
    大分県別府市出身。2003年、CMS開発会社「ARTSNET」を創業(現在はアーティスト支援団体として活動中)。2009年、IoT事業を幅広く展開する株式会社ウフルに入社。2016年から5年間、CTO(最高技術責任者)を務めた後、今年1月からは社内に新設されたCRO(主任研究員)として、先端技術を用いた研究・事業開発に携わっている。「先端技術が世の中にどのような影響を与えるのか?」ということに興味があり、その探求心が自身の原動力になっている。
    株式会社ウフル
    ARTSNET

    〈聞き手〉

    藪本 雄登
    紀南アートウィーク実行委員長

    <編集>
    紀南編集部 by TETAU
    https://good.tetau.jp/

    IoTが創造する未来

    目次

    1.古城さんのご紹介
    2.エンジニアとしての働き方
    3.法律とプログラミングの共通点
    4.人々の生活を彩る要素
    5.「継続すること」の意味

    1.古城さんのご紹介

    藪本:
    お時間を頂きましてありがとうございます。

    本日は、古城さんが普段実践されていることや、「IoT*1を活用してどのような未来を描いていくのか?」ということについて、お話を伺えればと思っております。まずは、古城さんから自己紹介をお願いします。

    *1 「Internet of Things」の略。あらゆるものがインターネットを通じて繋がることによって実現する新たなサービス、ビジネスモデル、またはそれを可能とする要素技術の総称。
    IoTとは(コトバンク)

    古城さん:
    古城篤と申します。大分県別府市の出身です。2年前に和歌山県白浜町に移住し、現在は、株式会社ウフルのサテライトオフィスで勤務しています*。

    *参考 「ウフル、和歌山県との協定を土台に、白浜町で新事業・研究開発を開始」(2019年4月1日、株式会社ウフル)

    高校時代は大分の情報科学高校で、プログラミングなどの情報技術を学びました。当時、Windows95が発売され、インターネットが普及し始めた頃だったと思います。卒業後は、高校の同級生とバンドを組み、東京で音楽活動をしていました。

    その後、新卒で入社した会社で経理の仕事をすることになったのですが、自分には合わない仕事だったんです。それでも、自分が関わった仕事は無駄にしたくないという思いがありましたので、「どうすれば仕事で成果を出せるか?」と考えながら働いていました。結局、経理の仕事は辞めてしまいましたが、すごく良い経験ができたと思っています。

    藪本:
    てっきり、最初からエンジニアの仕事をされていたのだと思っていました。

    古城さん:
    実は、経理以外にも、不動産営業の仕事もしていたこともあります。今だから言えますが、最初からエンジニアではなく、先に他の仕事をやっていてよかったと思いますね(笑)

    藪本:
    エンジニアとして働き始めたのは、いつ頃でしょうか?

    古城さん:
    25歳の頃ですね。2003年に、CMS*2の開発会社「ARTSNET」を創業しました。現在、この会社は、アーティスト支援団体として活動を続けています。

    *2 「コンテンツ・マネジメント・システム(Contents Management System)」の略。Webサイトのコンテンツを構成するテキストや画像、デザイン・レイアウト情報(テンプレート)などを一元的に保存・管理するシステムのこと。
    CMSとは?初心者でもわかるCMSの基礎知識とメリット、導入事例(日立製作所)

    出典:ARTSNET

    古城さん:
    その後、2009年に株式会社ウフルに入社し、研究開発を通して、エンジニアとしての経験を積みました。色々な部分で会社に貢献できたおかげか、社内の執行役員にも任命いただきました。2016年から昨年までは、CTO(Chief Technology Officer)*3を務めていましたが、今年1月からはCRO(Chief Research Officer)*4として、研究開発に専念しています。

    *3 最高技術責任者。技術開発部門や研究開発部門の責任者であり、技術主導型業種である製造業や情報関連業種などに属する企業に多く導入されている。
    CTOとは(コトバンク)

    *4 技術部門の更なる強化ならびに新技術の創出に向けて、今後必要とされる先端技術の研究開発をリードするための役職。
    「1. Chief Research Officer(CRO)の新設」(人事異動に関するお知らせ、2021年1月5日)

    2.エンジニアとしての働き方

    出典:CULTURE(株式会社ウフル 採用情報)

    藪本:
    古城さんは、株式会社ウフルの業務の中でも、非常にコアな部分に携わっていらっしゃるのですね。CTOとCROには、具体的にどのような違いがあるのでしょうか?

    古城さん:
    CROは、今後の先端技術の研究開発に向けて新設された、当社オリジナルの役職です。CTOとCRO、どちらも研究開発の場をまとめる立場ではあるのですが、CROの方がより実践的な役職だと思います。私は昔から、「先端技術が社会にどのような影響を与えるのか?」ということに興味がありましたので、ある意味、この仕事は天職なのかもしれません。

    私は、CROとしてエンジニアたちを先導していますが、エンジニアには様々なタイプがいるんですよ。プログラミングを基礎から学んできた人や、自分がやりたいことのために必要なスキルを身につけてきた人。各々、エンジニアとしての成り立ちが違いますので、時には、技術に関する認識が異なっていたり、意見がぶつかり合ったりすることがあります。

    ただ、これは、現場にいる人間だけではなく、彼らを取りまとめる管理職、経営者たちにも言えることです。経営者の中には、エンジニアがやっている仕事をあまり分かっていない人もいますので、しっかりと理解を深めることが必要だと思います。

    藪本:
    研究開発だけに限らず、現場の状況を理解していない経営者は色々な業界にいますよね。中には、説明しても話が通じないということもあります。

    古城さん:
    会社の中で軋轢が生じる可能性もありますが、エンジニアたちには「後悔しない働き方」をしてほしいと思っています。私自身、自分がやりたいことを割と自由に実践してきましたので(笑)。特に大切なのは、上からの指示にただ従うのではなく、自ら考え、決断することだと思います。最終的には、自分がやってきたことが「楽しかった」と思えるような働き方ができればいいですね。

    3.法律とプログラミングの共通点

    藪本:
    個人的な意見なのですが、法律はプログラミングと少し近いような気がするんですよ。法律の場合、まずは条文を解釈し、実際の案件に対して価値判断*4を行います。そのような意味で、プログラミングにも、法律と似た部分があるのではないかと思っているのですが。

    *4 人間の行為、性格、広義の対象に、積極的、消極的評価を与える評価判断のこと。(中略)特に行為に対する評価には、行為自体や行為の動機、目的などへの個別的評価に応じて、さらに区別と相互の連関が問題にされる。
    価値判断とは(コトバンク)

    古城さん:
    エンジニアが作成するプログラムは、ある一定のルールに従って作られたものです。まずは、各プログラミング言語の仕組みを理解し、作りたいプログラムに適した言語を選ぶ。そして、プログラムの中で問題が発生すれば、原因を精査してルールを基に修正する、という流れになります。このように考えてみると、確かに、法律とプログラミングは似ているかもしれませんね。

    実は、私は、ただ単にプログラムを作ることよりも、「プログラムに対して世の中がどう動くのか?」ということの方が面白いと思っているんですよ。例えば、昨年、道路交通法に「あおり運転*」の罰則が創設されましたよね。ニュースで大きく取り上げられたこともあり、ドライバーたちは、より注意深く運転するようになりました。この例のように、法律やプログラムが世の中に与える影響は、非常に興味深いものだと思っています。

    *参考 道路交通法の改正のポイント:1 妨害運転(「あおり運転」)に対する罰則の創設等(一般財団法人 全日本交通安全協会)

    藪本:
    なるほど。古城さんは、そのような「探求心」を持って研究開発をされているのですね。そのような意味では、まさに、古城さんご自身が理想とする「生きたい世界」を生きているような気がします。

    古城さん:
    最終的には、自分のウェルビーイング(幸福)に行き着けばいいかと考えています。少し仕事の話から外れてしまうのですが、将来、自分の身の回りを全部DIYしたいと思っているんですよ(笑)。例えば、海が見える高台に家と広大な庭があったとしたら、この中で絶対に音楽を流したい。こんな風に、自分の理想の設計図を描いています。

    4.人々の生活を彩る要素

    藪本:
    人々が豊かな生活を送るためには、どのようなことが必要だと思いますか?

    古城さん:
    特に必要なのは、「目に見えないもの」の価値を可視化することだと思います。具体的に言えば、人と人の繋がりや文化といった「社会資本」を明確化することですね。この考えは、経済学者のハーマン・デイリー(Herman Daly)が示した、「経済成長と幸福度の関係性」というところから来ています*。彼の説によれば、自然資源や労働環境、人間関係などが整うことで、人はより幸福な状態に近づくのだそうです。

    *参考 ハーマン・デイリーのピラミッド(Change Agent)

    藪本:
    「目に見えないもの」の価値を可視化するために、会社の中で何か実践されていることはありますか?古城さんは研究開発をされていますので、やはり、IoTを活用した事業になるのでしょうか?

    古城さん:
    現在、ウフルでは、IoTとブロックチェーンを用いた事業開発にも取り組んでいます*。ブロックチェーンは、仮想通貨の取引データを管理するための技術です。ブロックチェーンはもちろん、様々なデジタル技術を用いて、世の中に眠っている価値あるものを更に可視化していきたいと考えています。

    *参考 「国連CEFACTフォーラムにて、 IoT社会の国際標準技術の白書化に向けた提言を実施」(2019年4月5日、株式会社ウフル)

    *参考 「ウフルとLayerXがIoT・ブロックチェーンで協業」(2020年8月3日、株式会社ウフル)

    出典:「平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利⽤したサービスに関する国内外動向調査)報告書概要資料」(2016年4月28日、経済産業省)

    藪本:
    古城さんなら、すぐにやり遂げてしまいそうな気がしますね(笑)

    古城さん:
    ありがとうございます(笑)。

    また、人々の生活を豊かにするためには、「価値観の変動」も必要なことだと思います。私は歴史が好きなのですが、日本の歴史の中でも、戦争や明治維新というタイミングで価値観の変動が起きているんですよ。時代の流れとともに、新たな文化や価値観に出会い、世の中が少しずつ変わっていったのだと思います。

    昔であれば、何十年、何百年と時間をかけて変容した価値観が、現代では、情報技術の発展により一瞬で変化を遂げています。ただ、その分、新しいものに目移りして、古くから存在する「価値あるもの」を見落としている、といった弊害もあるような気もしますが……。

    藪本:
    そのような意味では、教育そのもの、特に、歴史や文化の学び方を見直すべきなのかもしれませんね。私は「土着のものに目を向けて深堀りすること」が重要だと考えており、現在、「日本各地の神話を収集して整理する」という取り組みを行っているんですよ。まさに、この実践が、世の中に眠っている「価値あるもの」に目を向けることに繋がるような気がします。

    5.「継続すること」の意味

    藪本:
    我々は、紀南アートウィークを10年続く企画にしたいと考えています。今回の対談企画やアート作品の展示は、まさにこの「10ヶ年計画」の第一歩とも言えるんですよ。10年間も活動を続けるのは難しいことかもしれないのですが、続けるためのコツは何かありますか?

    古城さん:
    まずは、「最低限、5年間続ける」ということを目標にするといいかもしれません。私の経験上、何年も活動を続けているうちに、必ず何かしらの成果が生まれるんですよ。この考えを基に、私が創業したARTSNETでは、アーティストが5年間創作活動を続けられるような環境づくりを目指しています。

    出典:ARTSNET

    藪本:
    なるほど。「まずは5年間続けてみる」といった、中間目標を設けるのはいいかもしれませんね。

    古城さん:
    ただ、仮に、5年間継続できないような計画でスタートして、途中で辞めてしまっても、それは失敗でも何でもないと思います。また改めて目標を設定し、成功を目指して挑戦を続けることが重要なんです。

    藪本:
    そう言っていただけるとすごくありがたいです(笑)。5年、10年と継続できるよう、我々も企画を進めていきたいと思います。

    最後に、紀南アートウィークへの期待や、紀南の課題を踏まえてのご意見があれば、ぜひお願いします。

    古城さん:
    紀南という地域は、非常に多くの歴史と文化がある場所だと思っています。ただ、これは、私が紀南出身ではないからこそ、感じることなのかもしれません。地元の方からすれば、自分が慣れ親しんだ場所を客観的に見るのは難しいんですよ。歴史や文化など、価値あるものがたくさん存在しているのに、和歌山の人は「これが普通だ」と思いながら育ってきたのではないかと思います。だから、改めて、地元の価値あるものに目を向けてほしいと思いますし、今回の紀南アートウィークがそのきっかけになればいいですね。

    藪本:
    本日はお時間を頂きまして、ありがとうございました。

    古城さん:
    ありがとうございました。

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