お知らせ

紀南アートウィーク2021 クロージングパーティー 御挨拶

藪本:
紀南アートウィーク総合プロデューサーの藪本です。

まずは、紀南アートウィーク2021を無事開催できたことを嬉しく思います。本当に濃密な2週間だったのではないかと感じています。11月には故郷・紀南に戻り、開催に向けて準備を進めてきました。特に、この開催までの1ヶ月はあまりにも忙しく、食べても食べても体重が減っていくという日々でありました。

1.感謝/世界の平和に向けて

まず、最初にお伝えしたいのは、やはり皆様への感謝の気持ちです。まずは、ご協賛、ご寄付いただいた皆様、設営の皆様、ボランティアを含め運営に携わってくださった皆様に、心より御礼申し上げます。また、真珠ビルでの本部・会場設営に際し、同級生の尾崎さんには多大なるご支援を頂きました。そして、今回、驚くべきことに、誰からも反対されることなく、むしろ手厚いご理解、ご支援を頂きながら運営することができ、本当に、地元の方々の温かさに感動しました。

また今回、アーティスティック・ディレクターを務めて頂きました宮津さんには特にお力添えいただき、この紀南という場所で、国内外で活躍するアーティストの作品展示を実現することができました。約2年前、宮津さんと初めてカンボジアでお会いしたときには、まさかこのような機会が訪れるとは思ってもみませんでした。改めて感謝申し上げます。

元来、私は引き籠もって研究するのが好きな人間です。今後の数年間は、「籠もり」ながら博士号の取得を目指して、藝術人類学の視点から熊野研究に励み、今後、「ひらく」場としての紀南アートウィークでの展示に活かしていきたいと思っています。熊野、紀南や牟婁という地域は本当に素晴らしい場所です。アジアを中心に様々な国や地域を訪れましたが、紀南地域は圧倒的に光り輝いています。そのような意味でも、私はこの場所の歴史や文化を深く深く根を張るように研究し、旗を掲げるように、この価値を世界に紹介していきたいと思っています。

紀南アートウィークを通じて、私が実現したいのは「世界平和」です。約10年以上に渡り、私はアジア地域で業務を行ってきました。その中で目にしたことは「近代社会が半ば強制的に国家や地域を外に開かせ、その地域の内需を奪い合う」という、戦争の縮図のような構図でした。この経験を通じ、この問題に対する一つのアプローチとして「紀南アートウィーク」を企画しました。その詳細は「コラム『なぜ紀南アートウィークを実施するのか*』」を是非読んでいただければ嬉しいです。簡単にいえば、実は全世界に価値を輸出しているアーティストの特徴は、「競争しない」「市場を取り合わない」「市場に合わせて作品を改変しない」等といったことになります。つまり、「世界80億人のうちの一部の価値の共感者とともにある」ということです。紀南アートウィークはそのような実践の場であり、そして、前述した「戦争の構図」からの離脱に向けた挑戦でもあります。

*参考 藪本雄登「コラム『なぜ紀南アートウィークを実施するのか』」(2021年2月20日、KINAN ART WEEK)

特に、この発想のベースには、創業の地であるカンボジアのアーティストの実践から影響を受けています。彼らは、国内で完全な表現の自由が認めらず、また、カンボジア国内にはマーケットがないといっても過言ではなく、ビザの問題もあり、カンボジア域外での活動についても限界があります。このような状況下で、彼らは自身のルーツを深掘りし、その地域の神話や民俗研究等を踏まえ、「現代アート」という形で全世界に輸出しています。まさに、カンボジアのアーティストたちは、紀南アートウィークのコンセプトである「籠もる、ひらく」という実践を日々行っています。私は彼らから学び、紀南でも同じ実践をしたいと考えています。そして、最終的には、私達の取り組みが「世界平和」に繋がるのではないかと信じています。

2.アートとは? 誰と一緒に紀南アートウィークを実践したいか?

「アートとは何か?」と考えたとき、私は「心を動かされたらアート」だと思っています。一般的に日本においては「ピカソの絵画のようなものがアートだ」と感じる方が多いかもしれません。私は「人類が悠久の歴史を編み込んできた中で、今、ここに人類が在ること。」に感動を覚えます。これ自体がアートではないかと考えています。そのような意味では、今回の出展アーティストである前田耕平さんの作品が、良い例なのではないでしょうか。彼は、紀南や高山寺の歴史について縄文の視点から深掘りし、現代に接合させることに成功したのではないでしょうか、そして、土着のものに対する愛情に感動を覚えた人も多かったのではないでしょうか。将来的には、前田さんのようなアーティストを媒介にしながら「紀南の旗を世界に向けて、大きく立てていく」作業を行っていきます。

また、次なる問いは「誰と一緒に紀南アートウィークを実践したいか?」ということです。

私は、アートは、別にお金持ちのためのものではないと考えています。では、誰のものでしょうか。私の結論は、「生命力のある市民の方々」のものではないかと考えています。

例として、挙げるのは大変恐縮なのですが、宮津さんは「サラリーマンコレクター」として、現代アートのコレクションを30年以上続けられています。決して、潤沢な資金があるわけではなかったと理解していますが、この宮津さんの溢れる「生命力」を感じて頂ければ、納得されるのではないかと思います。そして、これが前述した「世界平和のための80億人あるうちの共振者の一人」を理解するためのヒントになると思います。

さらにいえば、別にいわゆる「アート」的なものではなくとも、身近な例でいえば、良い服を着る、良い音楽を聞く、良い食事をするといったことを、日常生活の中で楽しまれている生命力に溢れる皆様と一緒に紀南アートウィークの歩みを進めていきたいと思っています。

3.さいごに

よく頂く質問に、「次はいつ?」という声を頂いております。今回、多くの方々からご支援いただきましたが、今回の財源は、自己資金で70%程度を賄っている状態となっています。そのため、今回と同等の規模で、紀南アートウィークを毎年実施することは不可能な状態です。ただ、私達はアーティストや地域の方々との対話を重ねて、小規模ながらも緻密に練り上げた持続可能性のあるプロジェクトを毎年進行させたいと考えています。来年以降もプロジェクトを数回実施した上で、2024年を目途に、その「集大成」のような形で「紀南アートウィーク2024」を開催できればと思っています。そのためにも、「生命力溢れる皆様」からのご支援を引き続き、お願いできればと思います。

最後に、両親に感謝の念を伝えさせてください。母にはボランティアクルーとしてほぼ毎日現場に出てもらい、父にはゲストのドライバーや照明器具の設置などで支援を頂きました。本当に有り難いことだと思っており、今一度、皆様から両親に拍手を頂ければ嬉しいです。

それでは、本日をもちまして、紀南アートウィーク2021は閉幕とさせていただきます。

来年以降も地道に慌てず頑張っていきたいと思っていますので、皆様、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。本当にありがとうございました。