ダイアローグ

Vol.1 テキストアーカイブ(前編)

2022年4月8日に開催したオンラインのトークセッション『みかんダイアローグvol.1』
のテキストアーカイブ前編となります。

※動画のアーカイブはコチラ

タイトル:『農業 × アートコレクティブ 糸島芸農の事例から学ぶ 』
日 時: 2022年4月8日(金)19:00〜20:30
会 場:オンライン(ZOOM)
参加費:無料
ゲストスピーカー:松崎 宏史氏(「糸島芸農」実行委員長)
江上 賢一郎氏(アート・アクティビズム研究)
聞き手:藪本 雄登(「紀南アートウィーク」実行委員)
:下田 学(「紀南アートウィーク」事務局長)

【ゲストスピーカー 松崎 宏史】
1979年福岡県糸島市生まれ。広島市立大学芸術学部油絵科卒業。
ドイツのハノーバー専科大学に交換留学に行き、ベルリンなどヨーロッパをはじめ、世界各地のアート・イン・イレデンスに参加し展示を行う。「糸島から世界へ文化発信」を事業目的とする「Studio Kura」を2009年に設立。福岡県の糸島で2年に1度行われている国際芸術祭「糸島芸農」の実行委員長を務めている。絵画教室や造形教室、電子工作などのワークショップも行っている。幼稚園・保育園などの幼児教育のプログラムもあり、糸島市全体を芸術村のようにしたいと考えている。コロナでアーティストが来れなくなったのを機にファブラボ(三次元プリンターや三次元スキャナー、切断や旋盤などの各種工作機械を備えた、誰でも利用できる工房 参考:デジタル大辞泉)も始める。

【ゲストスピーカー 江上 賢一郎】
1980年福岡県生まれ。ロンドン大学ゴールドスミス校 文化人類学修士課程修了。
2010年代におけるアジアのアート・アクティビズム、自主管理空間を中心にリサーチを行っている。執筆・ドローイング・写真制作のほか、福岡市内のアートスペース「art space tetra」運営メンバーとして各種の文化企画を手掛けている。現在、東京藝術大学グローバルサポートセンター特任助教。

【みかんダイアローグ Vol.1】

農業 × アートコレクティブ 糸島芸農の事例から学ぶ

出典:糸島芸農「ホームページ

下田
皆さん、こんばんは。紀南アートウィークの下田と申します。

お時間となりましたので、みかんダイアローグを始めさせていただきたいと思います。

紀南アートウィークでは事務局長として裏方の仕事をしております。「紀南アートウィーク」というのは、和歌山県の紀南地方で開催されているアートプロジェクトです。

去年の2021年に初めて「紀南アートウィーク2021」という国際芸術祭を開催させていただきました。次回の2024年の開催を目指して、2022年、2023年は1つのテーマに絞ったアートプロジェクトを進めていこうと考えております。今年は、「みかん」をテーマにした「みかんコレクティブ」を実施して進めていこうと動き出しているところです。

みかんの味がおいしいとかそういった観点ではなくて、例えば「どうして人間はみかんを食べるのでしょうか」とか「みかんの魂ってどこにあるんだろう」というような、そんな話を農家の方を始めいろいろな方と対話しながら、みかんを改めて違った視点でとらえなおそうと、そういったことを試みております。このプロジェクトは、今年の秋ごろには作品の発表をしようと取り組んでおり、VRメタバース(*)の空間での発表など、さまざまな形で皆さんにお届けしたいと思っています。

(*)メタバース・・・インターネット上に構築される仮想の三次元空間。利用者はアバターと呼ばれる分身を操作して空間内を移動し、他の参加者と交流する。

参考:コトバンク

そういった形で進めているこの「みかんコレクティブ」を、皆さんと一緒により深めていくためのトークセッションとして、今日は第1回目となります「みかんダイアローグ」を開催いたします。

さまざまな専門家の方や実践者の方をお呼びして進めていく「みかんダイアローグ」ですが、今日のテーマは「農業とアートコレクティブ」です。

福岡県で開催されている「糸島芸農」という芸術祭の事例から学ぶ、ということで2人のゲストに登場していただきます。それでは、さっそくお2人をお呼びしたいと思います。まず糸島芸農の実行委員長、松崎宏史(まつざき ひろふみ)さんです。

松崎さん
こんにちは。よろしくお願いします。

下田:
それともうお一方、アート・アクティビズム研究家の江上賢一郎(えがみ けんいちろう)さんです。

江上さん
こんばんは、初めまして。よろしくお願いします。

下田
それでは最初に簡単な自己紹介からお願いできますか。松崎さんからお願いします。

松崎さん
はい。糸島芸農の実行委員長をしております、松崎と申します。福岡県の糸島出身です。2012年から芸術祭を2年に1度やっています。よろしくお願いします。

下田
ありがとうございます。よろしくお願いします。それでは江上さん、お願いします。

江上さん
はい。江上賢一郎です。私も福岡出身で、現在も福岡在住です。アートと社会運動というのに関心があり、福岡市内で「art space tetra」を共同で運営しています。どうぞよろしくお願いします。

下田
お2人はすでに面識があって、とても仲良しという風にうかがっております(笑)。知り合われたきっかけというのは、何だったんですか。

江上さん
きっかけは、私が松崎さんの「Studio Kura」に遊びに行ったことですね。海外からアーティストが来た時も、「Studio Kura」を紹介しています。松崎さんが続けられている糸島芸農にも何度か呼んでいただいていて、お付き合いを続けさせていただいております。

下田
江上さんはアーティストとしても、糸島芸農に参加されているんですね。そのあたりのお話しも含めて、松崎さんに「糸島芸農」のことをおうかがいしたいと思います。

1.松崎さんのご紹介

松崎さん
はい。糸島芸農は僕の活動とかぶっている部分があるので、僕自身のアーティスト活動をまず紹介させてください。

僕は福岡県糸島市に生まれて、広島市立大学で油絵科を卒業しました。広島市とドイツのハノーバーが姉妹都市だったので、交換留学生としてハノーバーの大学で1年間勉強しました。それから、ベルリンの街に「Kunst haus Tacheles」(クンストハウスタシェレス)という、世界中のアーティストがスクワット(廃墟を占拠した住処)してできた芸術村があって、そこで製作をしていました。

「Kunst haus Tacheles」というのは、ベルリンの街のど真ん中にあるビルなんですけど、それが全部芸術家のスタジオやギャラリーになっている美術の複合施設みたいなところで、「いつかこういうのを自分の住んでいる街でもやりたいなあ」と思っていました。

2009年に糸島に帰ってきて、「Studio Kura」という会社を始めました。おもな事業は「アーティスト・イン・レジデンス」(*)と美術教室の開催です。2012年から2年に1回「糸島芸農」という国際芸術祭をやってきました。これまで5回開催しています。

(*)アーティスト・イン・レジデンス・・・アーティストが一定期間ある土地に滞在し、常時とは異なる文化環境で作品制作やリサーチ活動を行うこと。またはアーティストの滞在制作を支援する事業のこと。

参考:美術手帖

自分はアーティストとして世界各地のアーティスト・イン・レジデンスに参加してきましたが、世界中のアーティストに会ったときにいつも「おれたちも日本で製作してみたい」「日本にもアーティスト・イン・レジデンスはあるの?」って聞かれました。

それが2005年くらいですね。ネットで調べても日本では見つけられなかったので、「自分の実家には米蔵があるし、アーティスト・イン・レジデンスを自分でやってみよう」と思って「アーティスト・イン・レジデンス Studio Kura」っていうウェブサイトを作ってみたんです。そしたら本当に申し込んでくる人がいたので、2007年からアーティスト・イン・レジデンスを実際に始めました。

始めた時は、アーティストが来るときに合わせて1年に1回くらいベルリンから帰ってきていました。ただ、3年目くらいから5,6人くらい来るようになってきて、毎回行ったり来たりするのはもう無理だな、と思って日本に帰ってきました。

「Studio Kura」の事業目的は「糸島から世界へ文化発信」となっています。すごい目的になっていますが、そんなたいしたことじゃないんですよ(笑)。自分も糸島人としてローカルな文化を発信出来たら、世界の人たちにも面白いと思ってもらえるんじゃないかと思ったんです。

糸島市というのは、福岡市から電車で40分くらい離れたすごい田舎です。一貴山駅という駅の周辺に、事務所とアーティストが滞在するレジデンスハウスが3つあります。そのすぐ近くに糸島芸農のメイン会場になっているお稲荷さんがあります。

アーティスト・イン・レジデンスは2007年に始まって、300名以上のアーティストが滞在してきました。コロナがはじまる前までは毎月10名くらいの海外アーティストを受け入れてきて、1カ月〜3カ月くらい滞在して制作をしていたんです。糸島市が芸術村のような雰囲気を出せるようにしたい、と妄想ばかりが膨らんでいます(笑)。

 

滞在中のアーティスト達がそれぞれ交流をして、技術を教えあったりしていましたね。町の人たちからは、外国の人がいるだけで最初は驚かれていたんですけど、10年くらいやっていると気づけば街に英語表記の看板ができたりして、地域でも変化が出てきました。アーティストが来るたびにご飯をご馳走してくれる地元の方がいらっしゃったり、アーティストと交流するために英語の勉強をしたりしている方もいます。一緒に勉強した子どもたちも英語を話せるようになってきて、これからが楽しみです。

下田
ありがとうございます。それでは糸島芸農の方のご説明もお願いします。

2.糸島芸農のご紹介

松崎さん
はい。アーティスト・イン・レジデンスを続けていると、アートが好きな人が展覧会を見に来てくれたりとか、江上君みたいな方が遊びに来てくれるようになったりして、熱量がたまってきたというか、祭りをやってしまいたい気持ちが高まってきたんです。そんなときに、田んぼの中でお米に向かって音楽を聞かせたいというオランダ人のアーティストがいたんです。

どこの誰の田んぼでしたらいいのかを調べたり、田んぼを借りにいく話をしに行ったりする中で、農家の人たちとだんだん知り合いになってきました。場所を借りるのも大変だったので、それならもうこのまま芸術祭にしてしまったらいいんじゃないか、って思いました。それで、地元に有名な芸術家の藤 浩志さん(*)という方が住んでいらっしゃったんですけど、その方に企画書を作って持って行って「こんなのがやりたいんです。」って言いに行ったのが2010年ころです。それで、2012年から糸島芸農が始まりました。

(*)藤 浩志氏・・・株式会社 藤スタジオ 代表 藤 浩志。1960年鹿児島生まれ。全国各地でワークショップとデモンストレーションを重ね、地域に活動の発生を促している。

参考:fujistudio co. Art Works & Demonstration

「芸農」とついているので、何か農業とコラボレーションをしているのかとよく聞かれるんですけど、農業とのコラボレーションというよりは、「糸島の自然が豊かな土壌を作り農業を育んできたように、この芸術祭が文化・芸術を育む土壌でありたい」という思いからスタートしています。

運営なんかも「市に頼まれたんでしょう」とか「スポンサーがついているんでしょう」とか言われるんですけど、大きな助成金に頼らずに福岡の芸術家や糸島市民、ボランティアとともに作り上げてきました。これはずっと変わりません。だからすごい低予算なんです(笑)。

【テーマは毎回実行委員会が話し合って決める】

大きな芸術祭ってプロデューサーがいて、そういった人が祭りの方向性を決めたりするんだと思うんですけど、糸島芸農にはそういう「偉い人」はいないんです。実行委員会が1年から1年半前くらいに集まって「今年のテーマは何にしよう」みたいな感じで話し合って芸術祭を作っていきます。これがある意味アートコレクティブみたいな形なのかもしれませんね。

<今までの糸島芸農のテーマ>
2012 耕し芸す
2014 学び作る
2016 発酵する地平
2018 マレビトの通り道
2021 身体尺度

出典:糸島芸農「Facebook」

藤さんが企画をブラッシュアップしてくれて、藤さんがいたからこういう活動ができたと思っています。藤さんは芸術祭を始めた2012年にはすでに秋田に引っ越ししていたんですけど、地域の芸術祭のことを何も知らなかった僕にいろいろなことを教えてくれました。ポスターはこの人に頼みな、とか他にこんなアートフェスティバルがあるよ、とか教えてもらって、今の糸島芸農の基礎はだいたいその時にできています。

出典:糸島芸農「ホームページ

メイン会場は「Studio Kura」の近くのお稲荷さんです。お参りに来る人がいなくなって廃墟になっていたんですけど、1回目に参加してくれたアーティストの方がきれいにして立派な社にしてくれました。それで、次の参加者の方が社で作品を作って発表してくれて、だんだん稲荷の山がアートによって復活してきました。いつか芸術の神社になればいいなと思っています。

出典:糸島芸農「ホームページ

【芸農オークション】

「糸島芸農では、地域のアーティストの主体性と自発性を重視した、手作りの芸術祭とするため行政からの補助を受けず、実行委員も無償ボランティアで開催して参りました。今後もこうした活動を持続可能にするため、また、この活動の経済な側面を多くの方々とともに支えあう楽しい機会を設けるために、オークションを開催することにしました。」

芸術祭の貴重な資金源になっているのが、「芸農オークション」です。毎回参加アーティストの作品や私物を売ったりしています。

スポンサーもほとんどいない本当に小さな芸術祭なんです。ただ、毎回一人だけは呼びたい作家さんと、トークイベントで話を聞いてみたい方をお金を出してでも呼ぼうということに決めています。「発酵する地平」というテーマで2016年に開催したときは、ドミニク・チェンさんという方をお招きして、「発酵のアート」というテーマでお話してもらいました。このようにテーマに沿ったお話をしてくれる方を毎回呼んでいます。

(*)糸島芸農「ホームページ」ドミニク・チェン氏スペシャルトークセッション

「発酵から学ぶコモンズ(共有財)ーこれからの生の価値とアート」

福岡の地元の九州産業大学ともコラボしていて、先生も芸術祭に参加してくださって、学生と一緒にプロジェクトをやってもらったりしています。

出典:糸島芸農「Facebook」

鑑賞者が糸島芸農の感想を書くことができる更新可能な案内板

参考:2021年参加アーティストスタッフブログ 九州産業大学 諫見泰彦研究室

下田
ありがとうございます。なんだかすごく楽しそうですね。ステキな感じがすごく伝わってきました。糸島芸農は2年ごとに開催しているんですね。

松崎さん
コロナで1年ずれたんで、今度は2023年になります。またよろしければぜひお越しください。

下田
そうですね。皆さんもぜひ行ってみてください。

今回糸島芸農さんにお声がけさせていただいたのは、紀南アートウィークと共通項があるかな、と感じたからです。我々の方も公的な助成金なんかは頼らずにやってみようと開催しました。あと地方都市で芸術祭をされているというのもそうですよね。

「糸島から文化発信」っていうのもいいですよね。地方の文化について深掘りしてみたらいろいろおもしろいことが見つかるじゃないですか。そういうのを発信するのもすごく楽しいし、価値があることじゃないかと思って取り組んでいます。

松崎さん
そうですよね、知れば知るほど面白い歴史があったり、面白い人が住んでいたりしていますよね。

下田
江上さんは活動を間近で見ていてどうですか。

江上さん
そうですね。行政とか大きなところからお金をもらわずに、自分たちでやっているっていうのが、僕は好感が持てています。器用にやろうと思っても松崎さんが逆にあまりできない(笑)。そんなところが人として信頼できますね。

そこってけっこう大事で、地元の人たちと一緒にするとか、自分たちが無理なくやれるっていうのを続ける方が、持続可能性という意味では大切なんじゃないかと思って見ています。

それにお祭りが楽しいですよ。今は地方でもお祭りに参加するっていう経験が少なくなっている中で、お祭りを作っているという所がおもしろいな、と思います。

下田
次はいつするの?とか地元の人に聞かれたりしませんか。

松崎さん
楽しみにしているって言ってくれていますね。

下田
地元の変化っていうのも面白いですよね。英語表記の看板ができたとか。

松崎さん
そうですね。僕たちの目標は持続可能で無理せず、ずっとやっていこうと思っているんです。最初の1回だけはどういうふうにやればいいのか模索していたので、比較的大きな規模になったんですけど、無理なくできることをやればいいのではないかと思っています。

続けていればいろんな出会いもあります。芸術祭をおもしろがって引っ越してきてくれた人もいます。それがまた活動のおもしろさにつながっているんです。

下田
それは風通しのよさがあるからではないでしょうか。

今回は私たちも「コレクティブ」というのを企画する時に、「コレクティブ」って何だろうって、調べたんです。「自分たちの組織の中だけではなくて、周りのいろんな方と一緒に共同的に行う」という意味だと知って、そんなふうにやりたいなって思っていました。そしたら糸島芸農さんがそういうのをやられているって知ってすごいな、と感じましたよ。

この「コレクティブ」に関して、これまでいろいろ研究されてきた江上さんに、今度はお話をお聞きしましょう。

3.アートの社会的転回とコレクティブ

江上さん
今日は簡単にコレクティブや芸術の社会的転回という言葉の解説をした上で、今日の話の議論につなげたいと思います。コレクティブという言葉は近年アートの文脈でよく言及されていますが、実際には誰かと一緒に物事をつくるという経験を通じて生み出された実感や経験を、コレクティブという単語を用いて表現しているように思います。なので、コレクティブという言葉を私たちが本当に使うことが適当なのか、という点を含めてお話します。

美術史専門の人にとってはとても雑な議論で申し訳ありませんが、芸術の大きな流れを見ていくと、芸術を構成するカテゴリーや対象は時代とともに変化しているのがわかると思います。

【古典主義】

例えば、19世紀ヨーロッパの古典主義までは、主に絵画と彫刻というメディアを用いて、神話や宗教、歴史を対象とした芸術表現が展開されてきました。

【近代美術(モダニズム)】

近代美術とは、19世紀以降のモダニズムという近代社会の思考・価値観を反映した芸術表現(特に美術の領域)を指します。近代は産業構造の転換に伴い、これまでの伝統・宗教的価値観から切り離された個人が、理性を持って世界を捉え、変革し、歴史の主体となることを可能にしました。この時代における表現は、自分たちが今生きている社会への眼差し(リアリズム)、個人の視点からの自然の再構成(印象派)が代表的です。20世紀に入ると知覚の実験(キュビズムや抽象表現)や、機械への肯定(未来派)、近代的理念の否定(ダダ)、合理性では捉えられない無意識、夢への関心(シュルレアリズム)、革命的な社会変革のイメージ(ロシア構成主義)などさまざまな芸術運動が爆発的に生み出されていきます。

【現代美術】

さらに20世紀後半になると、芸術は対象の再現という頸木を超えて、言語や思考そのものへの関心(コンセプチュアリズム)、美術概念そのもの解体(反芸術)、さらには社会や歴史の問題、身体表現や新しいメディアなど、より幅広い領域へと広がっていきました。

近代美術から現代美術までのこのような流れについて、美術批評家のルーシー・リパードは「芸術の非‐物質化」という考えを提示しています。これは『素材に「かたち」を与える』ような表現だけではなくて、「概念」や「行為」といった非物質的なものに対する関心が芸術の分野のなかに生まれてきたことを示しています。

このような芸術の非物質化は、制作の対象がモノだけではなく、思考、関係性、さらには日々の社会的な活動までを含む可能性をもたらしました。また、これまで才能ある芸術家といえばこれまで多くの場合は男性(白人)であったのが、そこから排除されてきたさまざまな人々(女性や性的マイノリティの人々、白人以外の属性の人々)の存在が(再)注目されてくるようになりました。

後編へ続く >>