コラム

対談企画 #7 『400年の循環が作り出したもの』

◆紀南アートウィーク対談企画 #7

<今回のゲスト>

まちキャンパスプロジェクト プロジェクトリーダー
上野 章さん

目指すところは、生まれ育った環境に誇りを持てること。地域の良さや世界農業遺産について、子どもたちが学べる環境づくりに尽力されています。
https://www.facebook.com/104066254296724/

<聞き手>

薮本 雄登
紀南アートウィーク実行委員長

<編集>
紀南編集部 by TETAU
https://good.tetau.jp/

400年の循環が作り出したもの

<目次>
1.上野さんの紹介
2.“まちキャンパス” とは?
3.上野さんの継承論
4.ミツバチの存在
5.一次産業の総体
6.根幹と枝葉

1.上野さんの紹介

藪本:
本日は貴重なお時間をありがとうございます。
“まちキャンパス”や“みなべ・田辺の梅システム”についてのお話を聞かせていただければと思っています。よろしくお願いします。

まずは、上野さんの自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか。

上野さん:
生まれも育ちも、和歌山県みなべ町です。現在は、株式会社「上野農園」の農場長で、苗作り全般を担当しています。兄が社長、社員が10名程の会社です。
滋賀の園芸専門学校や千葉の育種農場で苗作りを学びました。春から初夏にかけては果菜苗やサツマイモの苗、冬になると、葉菜の苗や玉ねぎ苗など、地域の農家さんに購入していただく苗を作って販売しています。販売するなら苗が育っていく過程も知らなければと思い、野菜も作り始めました。

藪本:
野菜の苗を販売されていたところ、実際に育てることになったのですね。

上野さん:
野菜を作り始めると、自分のことろで食べ切れない量が採れるようになってきたので、直売所で販売もするようになりました。梅農家をしつつ、苗屋もしつつ、野菜も出荷するということで、いろいろやっています。
SNSでの情報発信も昔からしていて、梅の生育の様子などをアップしているうちに仲間ができました。梅の知識をアップデートするコミュニティ『みんなでつくろう‼︎うめペディア(umepedia)』というグループを作るなど、、宣伝すること、立ち上げることはとても楽しいですね。

そんな中、世界農業遺産についてのワークショップに参加し、みんなのやりたいことを話し合いました。カフェや植樹などの意見が出された中に、“まちキャンパス”がありました。

藪本:
“まちキャンパス”はそこからなのですね。

上野さん:
はい。知らない間に、リーダーをすることになりました。笑

2. “まちキャンパス”とは?

上野さん:
紀中・紀南地方に、大学を作りたいと考えました。大学を作るのに必要なのは、箱ものを作ることではなく、交通の便が良いということでもなく、大学が「この町に来たい!」という環境作りだと思いました。

藪本:
そもそもですが、なぜ大学が必要なのでしょうか?

上野さん:
地元に大学がないということで、進学を諦める子どももいます。近くに大学があると進学意欲にも繋がりますよね。わざわざ外に学びに行かなくてもよい環境ができますし、行く人、地域に留まる人、地域外から来る人という人の流れもできます。

藪本:
まさに京都などはそうですよね。京都に、縁ゆかりある人がたくさん生まれています。

上野さん:
そうなんです。息子が、設立されたばかり農学部に進学したのをきっかけに、紀中・紀南は農業が盛んな町だから、農業大学が作れたらいいなという発想に結びつきました。

藪本:
果樹王国、和歌山ですからね。

上野さん:
“まちキャンパス”をどうやっていこうかと考えて、梅や炭焼き、養蜂にスポットを当てて、座学と実学のスタイルができあがってきています。地元の人間が当たり前だと思っていることも、外から見たらすごい資産や宝物ということもありますよね。
和歌山大学の観光課の学生に来てもらい、みなべ町の一次産業を実際に見てもらうことになりました。

藪本:
今まで農家さんと話をさせてもらう中で、全体的なことを見ながら最適化するということをお聞きしました。アカデミックな世界ではそのような分野は少ないと思いますので、その意義は大きいと思います。

上野さん:
「世界農業遺産を子どもにガイドさせたい」ということが、“まちキャンパス”の最終的な一つのポイントです。なぜ「子どもガイド」なのかは、2つの実体験からきています。

私は子どもの頃から少林寺拳法をやっていました。級が上がるごとに、自分より下の子どもを教えていました。教えるということは、正確に理解していないとできないので、1番の学びになります。伝えようとするとスイッチが切り替わるので、子どもたち自身が「世界農業遺産の根幹をしっかり学ぼう」というところに落とし込めると考えました。

もう1つは、祭りを司る青年団での経験です。青年団と言えども、30〜50代が中心だったので、若い人を増やそうと20〜30代の人を勧誘したのですが、なかなか入ってくれない。いっそのこと、小学生や中学生等の子どもに、獅子舞、太鼓、笛を教えてしまおうと考えたのです。そうすると「お菓子もジュースもあるで!」と、子どもが子ども達を誘い始めるようになりました。10年後、本当の意味での青年団ができました。20代の若者が祭りに参加するようになり、他府県に出ている人も祭りには帰ってきて、獅子舞を回すようになったのです。

“まちキャンパス”は「子どもが伝える側」になることで、担い手として残ってくれる、何かある時には地元に帰って来てくれる、そのような英才教育(笑)をやりたいのです!

藪本:
具体的には、どのような活動にしようとされているのですか?

上野さん:
私たちの世代では、当たり前のようにしていたことでも、今の世代では全く通じないという、いわゆる、ジェネレーションギャップがあります。そこで「大学生だ!」とひらめきました。私が直接子どもたちに教えるのではなく、大学生から高校生に、高校生から中学生や小学生に教えていく。
最終的には、小学生が自分の地域や一次産業のことを学び、「世界農業遺産子どもガイド」として活躍してもらえればと思っています。町中どこに行っても、誰に聞いても、「梅とは」「薪炭林とは」と話すことができ、この町は、知識を持った人ばかりになる。
それが本当の意味での“まちキャンパス”で、もしかしたら、大学が「紀南に来たい!」となるかもしれないですよね。笑

藪本:
取り組みが面白いです!既に実践的な教員がたくさんいるということですね。アーティストと農家はとても近い存在だと思っていて、まさにその取り組み自体がアーティストを養成しているようなものだと思います!

上野さん:
結局のところは「根幹」です。アートも根幹がなければ、単なる落書きだったり、雑音だったりするわけですよね。だから私は、子どもの頃から根幹を意識できる働きかけをしたいと思っています。梅、薪炭林、ミツバチの共存等は、年月をかけ、トライアンドエラーでやってきて、さらにブラッシュアップされた根幹です。世界農業遺産において重要なことは、根幹の継承とその循環だと思っています。

3. 上野さんの継承論

上野さん:
1人の人が教える継承が100だとしたら、50%は根幹で、50%は枝葉です。まず、根幹の50%は確実に学び、そして、枝葉となる70%を自分で生み出す。そうなると全体が120%になります。付加された70%の10%は、また根幹になっていく。親子3代続くと、確実に根幹も太くなっていくと思うのです。伝承というのは大事ですが、100%の伝承は衰退だと思っています。私は、進化していって初めて継承だと思っています。

藪本:
その50%の根幹には、どんな哲学や思想があるのでしょうか?
本当に残すべきものや通底しているものは何でしょうか?
そこに、集約されているのではと思うのです。

上野さん:
残すものは、全てですね。根幹は目には見えないですが、1番大切なところです。そして、大前提であり、全ての人に共通しているのは、「生活できる」ということだと思いますね。

藪本:
生きることと農業が密接に関わり合っているからこそ、400年かけて循環する仕組みを作り上げてきたということですね。

上野さん:
昔の人が苦労して積み上げてきたものは、間違いなく根幹で、そこは伝統と同じくこれからも守っていくところです。“まちキャンパス”で子どもたちに教えたいのは、この地域に生まれてきた誇り。地域で暮らしていく中で継承されてきたものを、学び、伝えていくというのは、人間としての誇りですよね。

藪本:
400年かけて持続可能なモデルを作ってきたことが、まさに誇りに直結すると思いますし、私達の重要視していることの一つでもあります。
ちなみに、400年より以前はどうだったのでしょうか?。

上野さん:
そうですね。この辺はもともと泥岩でできています。水はけはとてもいいですが、その分、とてももろい。土地が痩せているんですよね。

藪本:
土地が痩せているということをよく聞きます。もしかすると、弱みを強みに変えた地域性というものがあるかもしれません。

上野さん:
この地域は特に痩せ地なので、藪梅くらいしか育たなかった。泥岩がベースなので、脆く崩れるから、山もそれほど高くならず、ウバメガシぐらいしか育たなかったのです。

藪本:
まさに逆境の民。そこで、コンプレックスを活かして、選択と集中に特化し、突き詰めていき、循環させながら展開することができたということですよね。まさにアートとの接点があるのではと思います。

4. ミツバチの存在

上野さん:
研磨されて出来上がったのが、世界農業遺産の“梅システム”なのだと思います。

世界農業遺産 みなべ・田辺の梅システム https://www.youtube.com/watch?v=6niuR6FNWOY
みなべ・田辺の梅システムとは https://www.giahs-minabetanabe.jp/ume-system/
みなべ町HP  http://www.town.minabe.lg.jp/docs/2015121400019/
田辺市HP  http://www.city.tanabe.lg.jp/ume/umesystemgiahs.html

藪本:
”梅システム”にミツバチが入っているところが独自ですね。ミツバチと梅と人間との関係に興味があります。

上野さん:
南高梅は、自家和合成(じかわごうせい)※1 が非常に低いです。自分の花だけでは実を着けられない品種です。だから、交配樹と呼ばれる別の品種の梅の木を植えます。植えているだけでは実らないので、交配してもらうポリネーター※2 的存在が必要になります。“梅システム”の中にミツバチが入っているのは、そういう理由です。

※1 自家和合性:雌雄同株の植物で、自家受粉でも正常に受精し結実する性質のこと。
※2 ポリネーター:蜂のように体に花粉をつけて運ぶ動物。送粉者、花粉媒介者。

藪本:
とてもおもしろいですね!どのように共存共栄していているのでしょうか?

上野さん:
薪炭林が残っているのは、山をつぶさないため、水源のためではありますが、それと共に、ミツバチが住むテリトリーとして必要なのです。1月後半から3月で、梅の花は終わります。その後、4〜5月はウバメガシの花、5〜6月にかけては栗の花。薪炭林にはそれらの木が植っていますし、下草の花もあります。さらに、ミツバチの住処は、岩や木のほこらです。ミツバチのためにも薪炭林は重要なのです。
余談ですが、梅の花から蜜はほとんど採れないらしいですよ。笑

藪本:
そうなんですか!?では、なぜミツバチは梅の交配を担っているのでしょうか?

上野さん:
そのシーズンに咲いているのは梅の花くらいですから、ごく僅かな蜜を吸うため、そして、花粉を集めるためだと思います。

藪本:
ミツバチは信仰の対象ではないのですか?ミツバチがいないと成り立たないわけですよね。ミツバチの存在はとても関心が湧きます。

上野さん:
以前は、梅は梅、ミツバチはミツバチということで、単体のものでした。世界農業遺産を考えていくうちに、梅、薪炭林、ミツバチ、が統合的に大切だという思考がまとまり始めました。

藪本:
世界農業遺産に選ばれたのは、どのような観点からだと思われますか?

上野さん:
地域がコンパクトというところが強みだったようです。古代から、文化は川等の地理的要因で発展していますよね。みなべ町も同じで、清川から南部川に続く1つの川があり、文化圏が一緒なので一致団結できたところだと思います。

5. 一次産業の総体

上野さん:
作られるものが制限されている中で町を生かそうと思ったら、“梅システム”を守るのは必然ですよね。そこを突き詰めているから、梅で日本一になっていると思っています。そこが根幹かもしれないですね。

藪本:
梅とは、どういう存在なのでしょうか?

上野さん:
梅は、主食である米を生かすための存在ではないでしょうか。米と梅は、中国から同じ経路で「にこいち」で入ってきています。

藪本:
面白い視点ですね。「米と梅はにこいちで、文化の根幹。」
五代庵さんは、塩と梅は同じだとおっしゃってました。母なるもの。サンズイの海に対して、キヘンの梅。そのあたりのことが世界に発信できればと思います。

上野さん:
人の体には、ミネラルや塩分も重要です。梅干しには殺菌作用があるので、日の丸弁当にも使われます。主役を支える重要な役割を担っているのが、梅だと思います。

藪本:
“まちキャンパス”で伝えられているのは、技術的ところもあると思いますが、とてもナチュラルな状態で梅と薪炭林とミツバチが共存できているということ。そこが、普遍的で重要なのだと思います。

上野さん:
ワンチームのところですよね。何か1つのピースが欠けてしまっても、この地域は成り立たないのです。梅、薪炭林、ミツバチ、炭、川、住民、そして海も。みなべ町の海は、アカウミガメの産卵地として本州でも最大です。近海でとれる海産物は800種類以上もあります。科学的なことはわからないですが、薪炭林で清められた水が海までたどりつき、生態系が保たれていると思っています。
世界農業遺産の“梅システム”だからと3つの要素に絞らず、全体的な地域のことを子どもたちに教えたいと思っています。

藪本:
素晴らしいですね、海まで繋がる!一次産業の総体ですね。トータル的に伝えられていることが、とても価値のあることだと思います。

上野さん:
ありがとうございます。素直に嬉しいです。

6. 根幹と枝葉

藪本:
最後の質問になりますが、私達は、宮沢賢治の「農民芸術論」や山本鼎(かなえ)の「農民美術運動」等の歴史を踏まえて、アートの定義を広く捉えています。世界農業遺産に認められているところからも、おそらく、感動するもの、心を動かされるものがあるからだと思っています。みなべ・田辺地域自体がアートなのではないかと考えています。

上野さん:
梅システムや世界農業遺産は、ここにしかありません。紀南を出て、どこかの街に行ったとしても、こんな価値のある町で育ったんだということに自信と誇りを持ってもらいたい。それが“まちキャンパス”の最終到達点です。

藪本:
10年、30年、50年と続けてください。未来の400年先は、気候変動の問題等で「梅」ではないかもしれませんが、精神的な思想が受け継がれることが必要ですね。

上野さん:
400年継続してきたのだから、やり方は変わっても、400年先も残ると思うんですよね。枝葉というのは、根幹を作るための重要な要素です。枝葉からいろいろなことを吸収して根幹を太らせることができれば、町はずっと安泰なのかなと思っています。

藪本:
葉が落ちて、腐葉土となり、そしてまた根が伸びて、幹を強くする。まさに循環ですね。

上野さん:
梅は剪定をすることで枝葉を大きく広げます。根幹さへブレなければ、トライアンドエラーを繰り返し、新しいものもどんどん取り入れて、どんどん進化していけばいいと思っています。

藪本:
ちょうと安藤礼二先生の「熊楠-生命と霊性-」を読んでいたのですが、「進化する前には一度退化する。根源的なものに戻って、それから進化を始める。」といったことが書かれていたので、まさにそこが紀南的と言えるかもしれません。

上野さん:
そうなんですよね。やってみればいい。やってみたら何かしらわかってくるのかなと思います。

藪本:
本日は、貴重なお話をありがとうございました。

.

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