コラム

対談企画 #18 『商業高校のあり方とは?』

紀南アートウィーク対談企画#18

〈今回のゲスト〉

和歌山県立神島高等学校 経営科学科 教諭
那須 正樹先生
神島高校 経営科学科の教諭
神島高校での勤続21年目を迎えており、「神島屋」の発起人として、商品開発やイベントの企画・参加を通して、地域との連携活動を続けている。
https://www.tanabe-ch.wakayama-c.ed.jp/

〈聞き手〉

藪本 雄登
紀南アートウィーク実行委員長

編集
紀南編集部 by TETAU
https://good.tetau.jp/

商業高校のあり方とは?

目次

1.那須先生のご紹介
2.経営科学科とは?
3.神島屋の取り組み
4.お弁当で梅を食べようキャンペーン
5.ツリープロジェクト
6.梅の魅力を伝えたい理由
7.神島高校の役割
8.商業高校の意義

1.那須先生のご紹介

出典:紀菜柑でのイベント販売(2021年6月12日、神島高校商品開発プロジェクト「神島屋」 @kashimaya_sp、Twitter)

藪本:
お時間を頂きまして、ありがとうございます。本日は、神島高校において実践されていることについて、さらに、紀南地域の商業高校とその未来についてのお考えを伺いたいと思います。
早速ですが、那須先生の自己紹介をお願いいたします。

那須先生:
那須正樹と申します。神島高校の経営科学科の教員をしています。神島高校に勤めて、今年で21年目になります。前職は、大阪にある広告代理店で求人広告の営業の仕事をしていました。
僕の父親は、土木建築関係の仕事と農業に従事していました。子供の頃から、父親の作業着姿ばかり見てきたのですが、中学生のときは、スーツを着ている大人がかっこいいと思い、スーツを着る仕事に憧れていました。

高校時代、僕は少しやんちゃな生徒でした。当時、先生に面倒を見てもらったことに恩義を感じており、自分も教師になりたいと思い、大学で商業の教員免許を取得しました。ただ、和歌山県の教員採用枠がなかったため、民間企業で働くことになりました。
広告代理店で勤務していたときに、父親が山で転倒して脊髄損傷になり、それがきっかけで地元に戻ることになりました。父親が1年半ほど入院することになったため、僕は、実家に戻ってからしばらくの間、畑と工事現場を行き来していました。
畑と工事現場での仕事を続けていると、当時の神島高校の教頭先生から「講師の枠があるから、神島高校で働かないか?」とお誘いを受けました。僕の高校時代の部活の恩師だった方が、当時の神島高校の教頭先生でした。最初は講師として赴任しましたが、それからずっと、経営科学科で教員を続けています。

藪本:
ありがとうございます。20年以上も、同じ場所で教壇に立っているのはすごいですね。

那須先生:
和歌山の地域性も関係していると思います。和歌山県は5つのブロックに分かれているのですが、ある程度年齢を重ねて、住む場所が固定されるようになると、基本的に、ブロックを越えた異動はありません。僕が勤務している区域は「第4ブロック 」と呼ばれており、このブロックの中にある商業高校は、神島高校だけなんですよ。
神島高校には商業専門の教員が10人ほどいますが、他の学校では少ないです。だから、基本的には異動先があまりありません。ただ、ここ10年ぐらいは地域の連携活動をさせていただいているので、そのおかげで、神島高校での勤務が続けられているのだと思います。

※参考 概要(和歌山県高等学校PTA連合会 ホームページ)

2.経営科学科とは?

出典:和歌山県立神島高等学校 ホームページ

藪本:
経営科学科とは、どのような学科なのでしょうか?

那須先生:
一言で言えば、商業科専門教育を行う学科のことですね。かつて、商業の授業で教えていたのは、読み書きそろばんのような内容です。電卓やワープロの技能を磨き、検定試験合格を目指して勉強し続けるという、反復的な要素が強いものでした。現在は、文部科学省が提示する「学習指導要領」が実践的な内容になっています 。電子商取引や商品開発、マーケティングなど、専門的な科目が設定されているんですよ。

※参考 「【商業編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説」(2018年7月、高等学校学習指導要領解説、文部科学省 ホームページ)

藪本:
田辺高校 の普通科とは全然違いますね。

※藪本の出身校である和歌山県立田辺高等学校 https://www.tanabe-h.wakayama-c.ed.jp/high.htm

那須先生:
ただ、商業の専門的な授業が増える代わりに、英語や数学を学ぶ時間が少ないので、一般入試には対応しづらくなっています。しかしながら、その分、商業高校ならではの特別な取り組みが実施できるんですよ。例えば、広告の授業に、プロのデザイナーさんに特別講師としてご登壇いただいたり、商品開発の授業に、地域の梅加工会社さんや梅農家さんをお呼びしたりしています。

藪本:
私の高校時代は、「大学合格を目指す」「名門大学に進学」するということが至上命題になっていたので、「商人を育成する」という観点では、まさに、英才教育ですね。
実は、我々が紀南に設立した「Artport株式会社」という会社で、今後、大学新卒者よりも高校新卒者を採用したいと考えているんですよ。準備が出来次第にはなりますが、地元の高校生の採用を主眼に進めています。神島高校を卒業した生徒の進路は、どのようになっているのでしょうか?

那須先生:
本校には、普通科と経営科学科の2学科があります。まず、普通科の生徒のほとんどは進学し、就職する生徒はクラスで数えるほどしかいません。進学者の4割は、4年制大学に入学しており、美容師や看護師の専門学校に行く生徒も多いです。また、女子生徒の中には、短期大学を志望する生徒もいます。
一方で、経営科学科では、4年制大学に行く生徒は少ないです。3クラス120名のうち、4年制大学に行く生徒は10~15人です。また、主に男子生徒が専門学校を志望しています。
就職する生徒のほとんどは地元の企業を選びますが、中には、県外に出る生徒もいます。今年から、高校生の就職活動のルールが変わり、「1人1社制」から「複数応募制」になります 。今までは1社しか選ぶことができなかったので、どちらかと言えば、地元の会社への就職を志望する生徒が多くいました。

※参考 「『1人1社制』見直し 高校生の就活を複数応募制に」(2021年4月21日、紀伊民報AGARA)

3.神島屋の取り組み

藪本:
神島高校では実践的な取り組みを多くされていますが、中でも特に「神島屋 」の取り組みは非常に素晴らしいと思っています。「神島屋」では、実際にどのような活動をされているのでしょうか?

※参考 神島屋(その他の活動、和歌山県立神島高等学校 ホームページ)

※参考 商品開発プロジェクト「神島屋」 @kashimaya2020(Facebook)

※参考 商品開発プロジェクト「神島屋」 @kashimaya2021(Instagram)

※参考 神島高校商品開発プロジェクト「神島屋」  @kashimaya_sp(Twitter)

那須先生:
ありがとうございます。スライドを使って、説明させていただきます。
2012年度(平成24年度)に、課題研究「商品開発」という授業を作り、地域の特産品の「紀州南高梅」を用いた商品開発を始めました。課題研究とは、週3時間程度、自分でテーマを決めて自学自習する時間のことで、商業や工業などの専門学科に設けられています。
以前から、経営科学科ではイベントでの販売実習を行っていましたが、ただ単に販売の体験させるだけというのは、生徒にとって可哀想なのではないかと思っていました。そこで、自分たちの学校のオリジナル商品で、自分たちが自信を持って地域の方におすすめできる商品の開発をしようということで、この授業を作ることにしました。

出典:商品開発(4ページ目、神島屋の取り組みオリエンテーション PDF)

那須先生:
スライドの左下に映っている「梅あられ」が、生徒たちが一番最初に作った商品です 。近隣の産直市場などで委託販売し、今でも1日30袋程度売れるほど人気があります。また、「梅やきとりのたれ」も神島屋で開発しました。たれの中には、梅干しの製造工程でできる梅酢が入っています。

※参考 「高校生ビジネスプラン・グランプリ 2013-2017:事例2 和歌山県立神島高等学校の事例」(高校生ビジネスプラン・グランプリ)

出典:梅をPRするレシピ開発(5ページ目、神島屋の取り組みオリエンテーション PDF)

那須先生:
お菓子や調味料だけでなく、梅をPRするためのレシピ開発も行っています。中でも、2013年度(平成25年度)に開発した「梅やきとり」は非常に人気があり、地域のイベントに出店した際には、1日に2000~3000本ぐらい販売されています。梅やきとりの調味液に使っているのが、先ほどの「梅やきとりのたれ」で、ご家庭でも梅やきとりを楽しんでいただければと思い、たれも商品化しました。
また、高校生の料理コンテストにエントリーすることも多いので、それに向けて、梅を使ったメニュー作りに励んでいます。コンテストのために考えたメニューを、地域のイベントでも販売しています。

※参考 和歌山県立神島高校「カレーなるトルティーヤ ~紀州梅どりと共に~」(高校生カレー甲子園2015)

※参考 「神島高が2度目の優勝 みなべのグルメ甲子園」(2020年2月10日、紀伊民報AGARA)

出典:各種イベントへの参加(7ページ目、神島屋の取り組みオリエンテーション PDF)

那須先生:
神島屋は、県外のイベントにも参加しております。右上の写真は、静岡県の「エコパスタジアム」でのイベントに参加したときのものです 。7人の生徒を連れて新幹線に乗りましたが、宿泊費を含めて、旅費が30万円ぐらいかかりました。当時、焼き鳥の売上金額を旅費に当てようと思い、「梅やきとりが何本売れたら、生徒から費用を集めなくて済むか」というようなことも考えていました。このように、活動の中で資金面の計画も立てており、これも商業の重要な要素だと思っています。

※参考 B級グルメスタジアム in エコパ 2015(2015年5月11日、神島高校商品開発プロジェクト「神島屋」 @kashimaya_sp、Twitter)

※参考 梅やきとり(エコパグルメスタジアム 出店グルメ、静岡県小笠山総合運動公園エコパ ホームページ)

出典:青梅宣伝隊(東京・横浜)(8ページ目、神島屋の取り組みオリエンテーション PDF)

那須先生:
今年は新型コロナの影響で実施できませんでしたが、毎年6月頃には、都市部のスーパーへ飛び出して「青梅宣伝隊」として、梅製品を試食販売するということもやっています。

出典:石神梅林をプロデュース(9ページ目、神島屋の取り組みオリエンテーション PDF)

那須先生:
他にも「紀州石神田辺梅林 」のプロデュース活動もさせていただいております。紀州石神田辺梅林は頂上からの景色が素晴らしいのですが、旧田辺市エリアの一番奥にあるということで、田辺市内の人でも、行ったことがないという人も多いです。そこで、農協観光さんにご協力いただき、高校生が田辺市内の案内をするというバスツアーを企画しました 。ツアーの昼食には、生徒たちお手製の、梅を使った丼を用意しました。

※参考 紀州石神田辺梅林(和歌山県 田辺観光協会 ホームページ)

※参考 「地元高校生が考案『観梅ツアー』催行」(2015年1月19日、観光Re:デザイン)

出典:UME-1 グルメ甲子園(10ページ目、神島屋の取り組みオリエンテーション PDF)

出典:UME-1 グルメ甲子園 イベントの様子(11ページ目、神島屋の取り組みオリエンテーション PDF)

那須先生:
神島屋のメンバーは、みなべ町で開催している「UME-1 グルメ甲子園 」というイベントの実行委員会にも所属しています。「生徒実行委員」として、神島高校と南部高校の生徒たちがイベントの企画・運営に関わっており、若い人たちが活躍するというイベントになっています。

また、紀南文化会館内のカフェをお借りして、高校生レストランを開いたこともありました。料理コンテストに出したメニューを、地元の方にも召し上がっていただければと思い、このイベントを開催しました。

※参考 グルメ甲子園入賞レシピ(UME-1フェスタ in 梅の里みなべ ホームページ)

※参考 UME-1 フェスタ in 梅の里みなべ 2020(和歌山県みなべ町 ホームページ)

※参考 「22日に高校生レストラン 神島高生がおもてなし」(2019年10月16日、紀伊民報AGARA)

4.お弁当で梅を食べようキャンペーン

出典:お弁当で梅を食べようキャンペーン(17ページ目、神島屋の取り組みオリエンテーション PDF)

那須先生:
現在、コロナ禍の中で、観光業や飲食業の方々がテイクアウトでの販売などを通して、地域の経済を動かしていこうと工夫されています。神島屋も新型コロナの影響を受け、今まで開催していたイベントはほとんど実施できなくなりました。しかし、地域の方々の頑張りを見て心動かされ、今できる取り組みを考えることにしました。
そこで、昨年から実施しているのが「お弁当で梅を食べようキャンペーン」です。生徒自身がイベントで前に出て販売するというよりも、広告やプロモーションの観点で企画を立て、主に、3つのキャンペーンを実施しました。

出典:①ウメェ弁当テイクアウト用チラシ作成(18ページ目、神島屋の取り組みオリエンテーション PDF)

那須先生:
1つ目は「ウメェ弁当テイクアウト用チラシ作成 」です。スライドに映っているのは、昨年作成したチラシです。地域の飲食店の方にお声がけをして、お店オリジナルの「ウメェ弁当」として、梅を使ったお弁当を考えていただきました。その後、テイクアウトのチラシを生徒がデザインして、地域の色々なお店や行政機関にチラシを置いていただき、お店を紹介すると同時に、梅をPRするという取り組みを行いました。

※参考 ウメェ弁当テイクアウト用チラシ2021 第1弾(2021年6月5日、神島高校商品開発プロジェクト「神島屋」 @kashimaya_sp、Twitter)

※参考 ウメェ弁当テイクアウト用チラシ2021 第2弾(2021年6月7日、神島高校商品開発プロジェクト「神島屋」 @kashimaya_sp、Twitter)

出典:②ウメェ弁当イベント販売(20ページ目、神島屋の取り組みオリエンテーション PDF)

那須先生:
2つ目は「ウメェ弁当イベント販売」です。こちらも、昨年の資料です。お店の方に作っていただいた梅のお弁当を「神島屋」として買い取り、生徒が販売するというイベントを行いました。今年の6月12日にも同様のイベントを実施して、11店舗のお弁当、計385食が1時間で完売しました※。今年も、本当にたくさんの方に来ていただきました。

※参考 紀菜柑でのイベント販売(2021年6月12日、神島高校商品開発プロジェクト「神島屋」 @kashimaya_sp、Twitter)

※参考 「多彩な梅弁当に行列 神島高校、385食を完売」(2021年6月12日、紀伊民報AGARA)

出典:③私のウメェ弁当写真コンテスト(23ページ目、神島屋の取り組みオリエンテーション PDF)

那須先生:
3つ目が「私のウメェ弁当写真コンテスト」です。こちらも昨年の写真ではありますが、今年は6月19日から1ヶ月間、開催しています 。一般の方が作った梅のお弁当の写真を、Instagram上で共有するという企画です。昨年は150件ほどのエントリーがあり、東京の料理研究家の方や、静岡県の女子高生も参加してくださいました。また、この企画はJA紀南さんとの共同開催で、JAさんにはチラシの印刷や、コンテスト入賞者への賞品の提供をお願いしました。コンテスト終了後、最終的には生徒同士で意見をまとめ、入賞者を決定しています。

※参考 ウメェ梅弁当コンテスト2021(2021年6月16日、商品開発プロジェクト「神島屋」 @kashimaya2021、Instagram)

出典:④オリジナルウメェ弁当開発(26ページ目、神島屋の取り組みオリエンテーション PDF)
出典:サンプルの完成(29ページ目、神島屋の取り組みオリエンテーション PDF)

那須先生:
これまでご紹介した3つのキャンペーンに加え、今は新たな企画にも取り組んでいます。

4つ目のキャンペーンが「オリジナルウメェ弁当開発」です。以前は、飲食店の方にお弁当を考えていただきましたが、今度は、高校生が考えたメニューを飲食店の方に商品化していただきました。班ごとの試作も行い、最終的には、メニューをお店の方に提案し、お弁当のサンプルを制作しました。このお弁当をイベントなどで販売したところ、大人気でした。

出典:⑤飲食店をプロモーション(30ページ目、神島屋の取り組みオリエンテーション PDF)

出典:飲食店の写真(31ページ目、神島屋の取り組みオリエンテーション PDF)

那須先生:
そして5つ目が「飲食店をプロモーション」というキャンペーンです。この企画は実は、広告の授業の中で生徒が「こんなんやったら面白いんちゃう?」と言い出したので、企画として採用しました。企画の内容は、色々なお店の紹介動画を撮っていくというものです 。質問項目を決めてインタビュー形式で撮影し、3分程度の動画に収めました。企画は「インタビューしたお店の方に、次のお店を紹介してもらう」という数珠繋ぎ方式で進めています。次にどのお店に行くのか分からない、というところが面白いですね。

※参考 地域のお店を地域で応援!~神島高校生が考えるプロモーション~(和歌山県立神島高等学校 神島屋 ホームページ)

5.ツリープロジェクト

出典:紀州スギを使ったXmasツリー(33ページ目、神島屋の取り組みオリエンテーション PDF)
出典:プロジェクションマッピング(35ページ目、神島屋の取り組みオリエンテーション PDF)

那須先生:
地域の方々と連携した活動以外に、学校内で実施した企画があります。それが、昨年11月から1ヶ月間に渡って企画準備した「ツリープロジェクト 」です。昨年は学校行事が少なく、寂しがっていた生徒たちに何かしたいことがあるかを聞くと「学校の中にツリーを作りたい」という話が出ました。僕たちは授業の中で、紀州材を使った商品開発を通して「木育(もくいく)」に取り組んでいます。高校生が考える紀州材の活用方法の1つとして、授業に落とし込めるのではないかと思い、ツリープロジェクトに取り組みました。ツリーを制作するだけではなく、神島高校の校章を模したビッグアートを作ったり、校舎を利用したプロジェクションマッピングを実施したりもしました。準備は大変でしたが、生徒たちも、非常に貴重な経験ができたのではないかと思います。

非常に長くなってしまいましたが、神島屋の活動紹介は以上になります。

※参考 kashimaya「ツリープロジェクト~紀州スギを使ったXmas~【和歌山県立神島高等学校】」(2020年11月20日、FAAVO by CAMPFIRE)

藪本:
とても丁寧にご紹介いただき、ありがとうございました。
新型コロナの影響もあって、思うようにいかない部分もあったと思いますが、今までずっと続けてこられたというのがすごいですね。

那須先生:
ありがとうございます。今後も、神島屋での取り組みは継続していきたいです。今年も実施している「梅を食べようキャンペーン」を通して、地域と一緒にコロナ禍を乗り越えていきたいと思っています。実は今、梅を使ったスイーツの制作を色々なお店にお願いしており 、梅の洋菓子の制作がやや難航していましたが、無事に良い方向に進んでいます。
生徒たちも僕自身もそうですが、神島屋の取り組みでは「こんなことをやるとワクワクする!」というモチベーションを、すごく大事にしたいと思っていますね。

※参考 梅を使ったスイーツ特集(2021年6月19日、神島高校商品開発プロジェクト「神島屋」 @kashimaya_sp、Twitter)

藪本:
神島屋の活動は全国的にも有名ですが、商業高校ではこういう活動を行うのが普通なのでしょうか?例えばではありますが、食中毒が発生した場合は学校が責任を取ることになると思いますが、費用面だけでなく、こういう衛生面のリスクも大きいと思います。

那須先生:
普通ではないかもしれませんね(笑)。現在、行政主催のイベントを一部中止している中で、高校生が人を集めてお弁当を売るということには、リスクがあります。だから、企画実施することを認めていただける管理職の先生には、本当に感謝しております。今まで何年も活動を続けてきて、地域の方々にも評価をしていただけているので、ありがたいことだと思っていますね。

6.梅の魅力を伝えたい理由

出典:神島屋(その他の活動、和歌山県立神島高等学校 ホームページ)

藪本:
神島屋には「梅の魅力を伝えたい 」というキャッチコピーがありますが、どうして梅を題材にしようと考えたのでしょうか?

※参考 和歌山県立神島高等学校 神島屋 ホームページ

那須先生:
僕自身が梅農家であるということも関係していますね。僕が住んでいるみなべ町は、人口の約7割が梅産業に携わっている町で、神島高校には、みなべ町から通っている生徒も多いです。みなべ町や田辺地域の人々にとって、梅は身近な存在なのではないかと思い、まずは、梅を使ったメニューの制作から始めることにしました。

藪本:
梅の魅力を伝える活動を通して、生徒たちはどのように課題を発見し、解決していくのでしょうか?

那須先生:
特に、これまで実施された活動との比較を行い、課題の発見と解決に結び付けていくことが多いです。例えば「前年には1時間半で売り切った商品を、もっと早く完売させられないか」など、年度間の比較をよく行っています。ただ、「自分たちが伝えたいものを、きちんと伝えられたか」という考察にまでは行き届いていないところもあるので、今後は、そのような本質的な部分もカバーしていきたいと思っています。

藪本:
「商品とは何なんですか?」と、対話の中で生徒たちに聞いてみたいですね(笑)

那須先生:
生徒たちは、緊張してしまうかもしれませんね(笑)。最近は活動の中で、対外的な評価よりも「自己満足の気持ち」を大事にしたいと思っています。活動を通して「みんなに喜んでもらえてよかった」と生徒たちに思ってもらえたら嬉しいです。

7.神島高校の役割

出典:和歌山県立神島高等学校 ホームページ

藪本:
今後、神島高校はどのような役割を担っていくべきなのか、那須先生のお考えをお聞かせください。

那須先生:
僕は「地域に必要とされる学校」を目指すべきだと思っています。神島高校には、高校を卒業してすぐ地元で就職する生徒もいれば、都会の大学や専門学校に進む生徒もいます。そのような状況の中で、高校時代に地域の連携活動を経験して、将来、大学進学や就職で都会に出ても、地域に戻ってくる。そのような人材を生み出す場所になっていければと思います。

藪本:
どうしても都会に出ることが前提になってしまいがちですが、私は、別に地元から出なくてもよいのではないかと考えています。紀南アートウィークのコンセプトは、地元から世界への輸出ですので。
地域の連携活動に参加して、地域の内需完結型のビジネスを見たときに、高校生は「ここだけで商売するのは厳しいだろうな」という感覚になるのではないかと思います。紀南から外需を稼ぐ人材がいきなり現れることはないかと思いますが、そういう可能性に懸けるというのもいいかもしれませんね。
「外需を稼ぐ人材を育てる」という観点から考えたときに、商業という科目とは、どのような役割を持つのでしょうか?

那須先生:
かつては、紀陽銀行に田辺商業高校(現:神島高校)から40人、行員として採用されたということもあったそうです。つまり、地域にとっての「人材の供給源」のような位置づけにあったと考えられます。今は、地域に役立つ人材をすぐに供給できるような機関ではなくなっているように思います。ただ、地域の課題を解決するために、授業の中で実践的な取り組みを行えるので、より実務的な人材を育てる役目を担っているように思います。

藪本:
なるほど。広義で言うと、商業とは、実務的なソリューションを思考する教育のことなのですね。
神島屋さんの活動は、資本主義の中において、商品を通じて縁を繋ぐようなことをされているような気がしています。前提としては、商品はいわゆる無縁のものだと考えられています。神島高校では、資本主義についてどのように教えられているのでしょうか?

那須先生:
資本主義について詳しく教えたことはないかもしれませんね。ただ、僕自身、地域の課題解決に向けた活動では、ビジネスの要素を取り入れることを意識しています。みんなで空いた時間を出し合って、助け合うという「ボランティア精神」も大事ですが、それだと継続するのは難しいです。ただ、ビジネスの要素と言いつつも、人と人を繋ぐ思いなどをクローズアップすることもあります。

藪本:
地域での活動は、資本主義の世界と、ある意味矛盾、または越えていくようなものになる可能性もありますね。日本の内需完結型の世界だと、このままいくと内需がしぼんで貧しくなる。このような観点に対する議論や、ソリューションを考えることは、もしかしたら神島高校の中では、これからを作る担い手としても重要なことのような気がしますね。

那須先生:
そのような状況下で活動を継続させていくためには、外からの誘客を惹きつける観光地や、外に向かって売る商品の開発も必要だと思っています。

藪本:
アートワールドと呼ばれるアートの世界には、資本主義とがっつり組んでいる部分もあれば、正面から批判している両側面があります。教育機関もそれと同じように、資本主義や地域における活動との関係性を模索するのも面白いかもしれませんね。今後、生徒をどう導くかが重要になると思いますが、那須先生はどのような機能を担っていらっしゃるのでしょうか?

那須先生:
よく言われるのは「プロデューサー」ですね。僕自身が色々なことを先走って決めるよりも、生徒が「やりたい!」と思えるような部分を作っていきたいと常々思っています。いざ活動を始めても、最後まで責任を持ってできずに終わってしまうと、何のためにやっているのか分からなくなってしまいますから。ありがたいことに、地域の方から一緒に活動したいとご相談いただくことが結構あります。その内容を、生徒が面白そうと思えばお受けしますし、反対に、生徒が興味を示さなければお断りすることもあります。

8.商業高校の意義

出典:和歌山県立神島高等学校 ホームページ

藪本:
そもそも、何故、この紀南地域に商業高校が建てられたのかということに興味があります。神島高校はいつからあったのでしょうか?

那須先生:
1916年(大正5年)に、神島高校の基になった田辺実業学校が創立されました。1956年(昭和31年)には田辺商業高校になり、2006年(平成18年)には神島高校になりました 。元々は実業学校なので、当時の実業であった読み書きそろばんを教えていたのではないかと思います。

※参考 学校長あいさつ(和歌山県立神島高等学校 ホームページ)

※参考 沿革(和歌山県立神島高等学校 ホームページ)

藪本:
当時は、人が生きるための実務的な手段を教育していたのですね。かつて、田辺高校はエリート養成校でしたが、今後は実務的な人材が社会のニーズになると考えて、そういう人たちを育成するために田辺実業高校が設立されたのかもしれませんね。神島高校では今でも、当時の考えを反映したビジョンを掲げているのでしょうか?

那須先生:
校訓には「理想」「知恵」「団結」という3つの言葉を掲げています※。神島高校と名前を変えた今でも、ビジョンはあまり変わっていないかもしれませんね。ただ、現在は、地域との連携活動を特に重視しているように思います。

※参考 教育方針(和歌山県立神島高等学校 ホームページ)

藪本:
なるほど。理想を語り合うことは「知恵を積極的に考えること」であり、その結果、団結が生まれるのかもしれませんね。

那須先生:
商業の授業や神島屋の活動が、理想を語り合う場になっているかもしれませんね。教員と生徒が語り合い、考えを共有していく中で、団結できればと考えています。和歌山県も人口減少が進む中で、学校側としては「学校の特色」が必要だと考えているようです。僕自身は、神島高校では「地域と連携すること」が特色になるのではないかと思っています。今後も、団結して、地域に貢献できるような活動を続けていきたいですね。そういう意味では、商業高校は「色々なことにチャレンジできる場所」なのではないかと思います。

藪本:
まさに、それこそが商業高校の意義ですね。普通高校よりも商業高校の方が自由度が高く、アートに繋がるものがあると思います。
商業高校として、今後はどのような役割を担っていきたいと思いますか?

那須先生:
この紀南地域にも、地域内の色々な生活体験ができていない子供が多くいます。今後は、家と学校以外のコミュニティー作りに力を入れ、子供たちが活躍できるような場所を作っていきたいと思っていますね。

藪本:
例えば、理想を語り合う場を、外部の我々が提供させていただくというようなお手伝いはできるかもしれません。自分の思いを表現したり、地域の課題を整理したりするために、アートが活用できるのではないかと思っています。
最後に、那須先生から我々に期待されることはありますか?

那須先生:
紀南アートウィークでの対談の取り組みは、すごく面白いと思っています。高校生の視界には、地域でいきいき働いている人は案外、映っていないんですよ。だから、この対談を通して、地域の方の想いや人となりみたいなものが高校生に上手く伝わればと思っています。今の中高生のステレオタイプだと「大阪に行かないと面白くない」と思っていることもあるので、田舎にも面白いことをしている人がいるということが、少しでも彼らの視界に入っていけばいいなと思いますね。

藪本:
とても勉強になりました。本日はありがとうございました。

那須先生:
こちらこそ、ありがとうございました。

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