コラム
-
みかんコレクティヴの現座標 (後編)
-ヴェネチア・ビエンナーレとドクメンタを巡って-紀南アートウィーク 藪本 雄登前編、中編に続き、第59回ヴェネティア・ビエンナーレ(会期:2022年4月23日〜11月27日、以下「ビエンナーレ」)とドクメンタ15(会期:2022年6月18日〜9月25日、以下「ドクメンタ」)を実際に巡ったことを踏まえ、「みかんコレクティヴ」に活かすべきことについて述べる。ビエンナーレとドクメンタにおいては、特に植物と人間を題材にした作品が多く展示されていたことから、今回は、現代の動植物を巡る議
-
みかんコレクティヴの現座標 (中編)
-ヴェネチア・ビエンナーレとドクメンタを巡って-紀南アートウィーク 藪本 雄登1はじめに -ルアンルパとイリイチ-前編では、第59回ヴェネティア・ビエンナーレ(会期:2022年4月23日〜11月27日、以下「ビエンナーレ」)とドクメンタ15(会期:2022年6月18日〜9月25日、以下「ドクメンタ」)を実際に巡った上で、「脱人間中心主義」、「ダナ・ハラウェイの思想」、「再魔術化」等について述べたが、中編では、ドクメンタの内容を中心に、イヴァン・イリイチ(Ivan Illich
-
みかんコレクティヴの現座標 (前編)
-ヴェネチア・ビエンナーレとドクメンタを巡って-紀南アートウィーク 藪本 雄登1はじめに -再魔術化を超えて-ヴェネチア・ビエンナーレ、ドクメンタ、ミュンスター彫刻プロジェクトの「世界三大芸術祭」のうち、第59回ヴェネチア・ビエンナーレ(会期:2022年4月23日〜11月27日[1]、以下「ビエンナーレ」)が1年延期となり、ドクメンタ15(会期:2022年6月18日〜9月25日[2]、以下「ドクメンタ」)と同時期に開催されることとなった。この2つの世界最大級の芸術祭を実際に巡
-
「紀南の港」として
紀南アートウィーク対談企画 #40〈今回のゲスト〉株式会社南紀白浜エアポート誘客・地域活性化室室長森重 良太さん南紀白浜エアポートの経営コンセプトは「空港型地方創生」。空港を起点とした地域活性化まで行う空港会社として、地方創生の専門部署である誘客・地域活性化室でエアライン誘致、地域連携、着地型旅行事業(紀伊トラベル)を統括されています。紀南12市町村と広域連携する観光庁認定の観光地域づくり法人「紀伊半島地域連携DMO」の事務局長・最高マーケティング責任者としても紀南全域での地
-
みかん神話 -紀伊半島と橘の関係を思考する-
2022年5月8日紀南アートウィーク 藪本 雄登1はじめに -明るい闇の国・紀伊半島-―いまも私には、この紀伊半島そのものが “輝くほど明るい闇にある” という認識がある。ここは闇の国家である。日本国の裏に、名づけられていない闇の国として紀伊半島がある[1]―――中上健次『紀州 木の国・根の国物語』「紀州 木の国・根の国物語」は、紀南/熊野が生んだ偉大なるアーティスト・中上健次(1964-1992)が残した唯一の探訪記(ルポルタージュ)である。「根の国」である紀南や熊野地域は
-
熊野とゾミア -アピチャッポン・ウィーラセタクンの表現を起点に-
紀南アートウィーク 藪本 雄登1はじめに−アピチャッポンは、現代のシャーマンか−―わたしは、タイ東北部にあるコーンケンという町の出身ということもあって、タイのなかで自分自身が “少数民族” みたいな気持ちで生きてきました。それは現代になっても変わらないのです。タイでは統治機構も権力もみなバンコクに集中していて、また自分がゲイということもあり、自分が中央に対して“辺境に位置している人間”だという認識を持ってきました[1]―――アピチャッポン・ウィーラセタクン『アピチャッポン、全
-
つながる世界の物語 ~はしっこから見えること~
紀南アートウィーク対談企画 #38出典:和歌山県 企画部 地域振興局 移住定住推進課わかやまLIFE〈今回のゲスト〉芸術家田並劇場オーナー夫妻林憲昭(はやしのりあき)さん茎子(けいこ)さん和歌山県串本町の田並で、崩壊寸前の廃墟だった建物を、自分たちで4年間かけて再生し、2018年の夏に「田並劇場」として復活させたアーティストご夫妻。お2人は東京を拠点に世界各地で芸術活動をされていたが、子どもが生まれたことをきっかけに「土の上で子育てがしたい」と移住を決意。自然のなかに身を置く
-
「松煙墨」が彩る未来 – 墨業界の現状と課題 –
〈ゲスト〉墨工房紀州松煙代表堀池 雅夫(ほりいけ まさお)さん静岡県出身。日本で唯一、墨の原料となる「松煙」を作っている墨職人。35歳のときに紀南に移住して松煙づくりを始め、後に「松煙墨」の製造・販売を行う。現在は田辺市鮎川・大塔地域に工房を構え、たった1人で墨と向き合う日々を送っている。また、墨絵画家として自分の作品を制作しており、その墨絵をオンラインショップで販売中。現在、自身の後継者がいないこともあり、紀州松煙だけではなく墨業界の衰退を危惧している。墨工房紀州松煙墨工房
-
< I > – 流れていくもの –
河野愛 / 堀井ヒロツグ 展覧会 「< I > opportunity」について、紀南アートウィーク藪本雄登のコンセプト・ノートと解説を公開します。南紀白浜は、自然に恵まれ、魅力的な資源を多く有する観光地だ。白砂のビーチでは、熱帯魚と一緒に泳ぐことも可能で、沖合いに流れる黒潮の影響により、一年を通じ温暖な気候で知られている。また、万葉の時代から湯治場として知られており、多くの温泉宿や日帰り入浴施設が点在するヒトが集まる場所だ。南紀白浜の古賀浦(こがうら)と呼ばれる外海と内海を
-
みかん民主主義 -コレクティヴって何?-
1みかんは、コレクティヴか現代のアート実践では、美術史家クレア・ビショップが述べる「社会的転回(social turn)」が一定の影響力を保持し続けている。社会的転回とは、現代アートの実践において、「美的」価値から「社会的」価値への移行が進んでいる状態を意味する[1]。つまり、作品の態様や新規性より、社会や政治に対する現実的な貢献や影響を重視する潮流のことである。和歌山県紀南地域のコミュニティも、その他の地域同様、市町村合併、過疎化、インターネット社会の進展等の複合的な要因に
-
漁業の維持を目指して
◆紀南アートウィーク対談企画 #37〈今回のゲスト〉株式会社土佐丸取締役船団長田ノ岡 誉将(たのおか )さん田辺市江川地域に本拠地を構え、船団長として6隻の船団を率いる漁師。水中灯で魚を誘き寄せて網で取り囲む「巻き網漁業」に専従しており、主にアジ、サバ、イワシを水揚げしている。「見つけた魚は絶対に獲る」という強い意志を持つ。担い手不足や漁獲量の減少に苦しむ漁業の現状に警鐘を鳴らし、漁業を未来に残していくために尽力している。株式会社土佐丸田辺市役所企画部たなべ営業室室長熊野 雅
-
伝統を守り、未来へ繋ぐ – 林業と農業のあり方 –
◆紀南アートウィーク対談企画 #36〈今回のゲスト〉有限会社龍神自然食品センター代表取締役エムトゥーアール株式会社代表取締役寒川 善夫(そうがわ よしお)さん田辺市龍神地域にて林業と農業を営む、木こり兼農家。山林の管理から伐採した木々の製品化まで、自社で全て実践している。目標は「今ある山林を未来に残すこと」であり、その思いは家業を継いだ頃からずっと変わらない。また、梅やシソなどを自家栽培し、梅干しや梅酒などの梅製品を製造している。「本物の梅干しを作りたい」という信念があり、原