コラム

『紀南ケミストリー・セッション vol.2』 テキストアーカイブ(前編)

2021年5月28日(金)に開催したオンラインのトークセッション『紀南ケミストリー・セッション vol.2』を文字起こしした、テキストアーカイブの前編となります。

※動画のアーカイブはコチラ
https://kinan-art.jp/info/789/

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タイトル:『籠もるとひらく – 知の巨人・南方熊楠と現代アート –』
日  時:2021年5月28日(金) 19:00~20:30
会  場:オンライン(ZOOMウェビナー)
参加費 :無料
登壇者 :唐澤 太輔氏(秋田公立美術大学 准教授 哲学 / 文化人類学)
     前田 耕平氏(現代アーティスト)
モデレーター:宮津 大輔(紀南アートウィーク アーティスティック・ディレクター)
総合司会:森重 良太(地域活性化プロデューサー)

『籠もるとひらく – 知の巨人・南方熊楠と現代アート –』(前編)

森重:
皆さん、こんばんは。
第2回 紀南ケミストリー・セッションを始めさせていただきたいと思います。司会は私、南紀白浜エアポートの森重が務めさせていただきます。本日は、南紀白浜空港から配信しております。

紀南ケミストリー・セッションは、紀南アートウィーク2021の開催に向けて様々なゲストを迎え、紀南の文化、歴史、風土について縦横無尽に語り合う、オンライントークセッションです。
第2回のテーマは『籠もるとひらく – 知の巨人・南方熊楠と現代アート – 』です。ゲストには、哲学 / 文化人類学者の唐澤太輔先生と、新進気鋭のアーティストである前田耕平さんをお迎えしております。モデレーターは、紀南アートウィーク、アーティスティック・ディレクターの宮津大輔先生です。

初めに、今回ご登壇いただくお二人のプロフィールを簡単にご紹介いたします。

まずは、唐澤太輔先生。1978年生まれ、兵庫県神戸市のご出身です。慶應義塾大学文学部を卒業後、早稲田大学大学院社会科学研究科で博士課程を修了され、現在は、秋田公立美術大学美術学部アーツ&ルーツ専攻ならびに、大学院複合芸術研究科の准教授でいらっしゃいます。ご専門は哲学 / 文化人類学で、民俗、宗教、文化の根源的な「在り方」の探求と、知の巨人・南方熊楠の思想に通じて行っていらっしゃいます※。また、南方熊楠についての著書や論文も多く執筆されており、難解とも言える南方熊楠を、分かりやすい切り口で語られています。
 ※参考 唐澤太輔 准教授(教員紹介、秋田公立美術大学ホームページ)
 ※参考 唐澤太輔(researchmap)
 ※参考 唐澤太輔 @tisk_krsw(Twitter)

唐澤:
こんばんは、唐澤です。よろしくお願いします。

森重:
続いては、アーティストの前田耕平さん。1991年生まれ、和歌山県田辺市のご出身です。人や自然、物事との関係や距離に興味を向けて、自身の体験を手がかりに、映像やパフォーマンスなど様々なアプローチによる探求の旅を続けていらっしゃいます。最近のご活動では、南方熊楠の哲学思想に迫った「まんだらぼ」や、タイにナマズを探しに行く「パンガシアノドン ギガス」などがあり※、いずれもとても興味深いプロジェクトです。現在は、大阪の元造船所施設のシェアスタジオ「SSK(Super Studio Kitakagaya)※」を拠点とされ、活動されています。
 ※参考 works(前田耕平 Kohei MAEDA portfolio site)
 ※参考 Super Studio Kitakagaya | 大阪 北加賀屋のアーティストスペース

前田:
よろしくお願いします。

森重:
このお二人を引き合わせたのがまさに南方熊楠なのですが、お二人の出会いや関係については、これから始まるトークセッションでじっくりお伺いできればと思います。

それでは、モデレーターの宮津先生、よろしくお願いいたします。

宮津:
皆さん、こんばんは。宮津大輔です。
紀南ケミストリー・セッションを含みまして、紀南アートウィークには、アドベンチャーワールド様、そして紀南銀行様より協賛を頂いております。誠にありがとうございます。

【1】唐澤氏の来歴と、南方熊楠の思想

宮津:
それでは早速、ケミストリー・セッションを進めてまいりたいと思います。
本日のテーマは「知の巨人・南方熊楠と現代アート」です。一見、接点がなさそうな両者ですが、組み合わさることで化学反応が起こっています。このテーマについて、詳しくお話を伺いたいと思います。
先ほど、森重さんからご紹介いただきましたが、お二人からもう少し詳しく、南方熊楠との関わりも含めて、自己紹介をお願いできますでしょうか?
まずは、唐澤先生からよろしくお願いします。

唐澤:
唐澤太輔と申します。専門は哲学 / 文化人類学で、南方熊楠の思想を通じて、人類が築き上げてきた民俗や宗教、文化の根源を探っています。最近は、華厳思想の現代的可能性や、熊楠とアートの関係性を考察しています。また、熊楠が特に関心を持って研究していた「粘菌」についても、実際に採取して研究をしています。

「南方マンダラ」と五つの「不思議」

唐澤:
南方熊楠の思想の核と考えていいのが「南方マンダラ ※1」と呼ばれているものです。非常に奇妙な図ですが、この図の中には、熊楠の独自の世界観・宇宙観が表されています。熊楠は、この図の中で5種類の「不思議 ※2」を示しています。

1つ目は「物不思議」です。私たちが自己と区別して対象を捉えている、物の領域のことで、物理学や科学で捉えられる領域を指します。

2つ目の「心不思議」は心の領域のことで、いわゆる、心理学で研究されている領域のことですね。

3つ目の「事不思議」は、心と物が適度に交わる場のことです。心が物を支配するわけでもなく、物が心を支配するわけでもない、現実世界において適当な距離がある「場」です。

4つ目は「理不思議」です。これは、自己と他者、あるいは、根源的な場と現実世界を繋ぎつつ混ぜ合わせるような「インターフェース(接点)」になっている領域です。熊楠によると、どうやら予知や第六感で知ることができる事柄も含まれるようです。かろうじて、区別を持ちながらも混ざり合っているような、微妙で絶妙な領域のことですね。

最後の5つ目は「大不思議」です。ここは、人間による法則は立てられず、自己も他者も全て融合して統一している、根源的な場所です。内も外もなく、完全であるような場所ですね。

熊楠は「人間が大不思議を捉えることは不可能ですが、「理不思議」までは何とか考えることができるのではないか」と考えていました。理不思議という領域では、シンクロニシティ、つまり単なる偶然を超えた一致や「創発」と呼ばれているものが、当たり前のように起こります。熊楠は独自に、この現象を「やりあて ※3」と名付けています。

 ※1 南方熊楠が、友人の土宜法龍(どぎほうりゅう)に宛てた書簡の中に描いた図。
   唐澤太輔「〈研究論文 ワーキングペーパー 報告書〉『南方曼陀羅』と『華厳経』の接点」(『龍谷大学世界仏教文化センター2015年度研究活動報告書』、2016年3月31日、p.191-212、龍谷大学図書館)
 ※2 仏語。人間の理解・認識を越えていること。言葉では言い表せないこと。
   不思議とは(コトバンク)
  熊楠は、この「不思議」を、独自に「領域」あるいは「場」を意味する語として使用している。
 ※3 南方熊楠による造語。偶然の域を超えたような発見や発明、的中のこと
 唐澤太輔「ブリコルール熊楠 ―『やりあて』とブリコラージュをめぐって―」(『東洋大学「エコ・フィロソフィ」研究』、2018年3月、12巻、p.25-38、東洋大学学術情報リポジトリ)

唐澤:
「ここに一言す。不思議ということあり。事不思議あり。物不思議あり。心不思議あり。理不思議あり。大日如来の大不思議あり。」
この言葉は、、五つの「不思議」について説明したものですね。熊楠は、この言葉に続いて、先ほど説明したそれぞれの「不思議」について語っています。
あと、スライド内の「往復書簡」というのは、八坂書房から出版されている『南方熊楠 土宜法龍往復書簡』(1990年)のことです。

では、「理不思議」に入り込んで、「大不思議」という根源的な場からの力を感じ取るにはどうすればよいでしょうか、熊楠の言葉を引用して説明します。

「事 物 心 一切至極のところを見んには、その至極のところへ直入(じきにゅう)するの外(ほか)なし。」

「直入」とは、「事」や「物」や「心」から成る「現実世界」より深いところ、つまり、根源的な「大不思議」に一番近い「理不思議」に行くことを意味しています。

唐澤:
直入という言葉を熊楠は使っていますが、それは、頭だけではなく「全身全霊で深層へ潜ること」を意味します。この行為はある意味で「内に籠っていく」とも考えられるのですが、そのずっと先には、大不思議という大いなる「外が開けている」です。まさに、このセッションのタイトルである『籠もるとひらく』ということに繋がるのではないかと思います。
「大不思議」に極めて近い「理不思議」に入ったとき、発せられる言葉は異様に美しくて、詩的になります。「事、物、心」といういわゆる「現実世界」の先に深く「直入」して、「大不思議」から感得したものを汲み上げていくと、そこには、大宇宙、生命そのもの、あるいは生命の息吹がまざまざと顕現します。そして、僕は、この「生命そのもの」を取り戻す術こそ、アートなのではないかと思っています。

唐澤:
これも熊楠の言葉です。

「何となれば、大日に帰して、無尽無究の大宇宙の大宇宙のまだ大宇宙を包蔵する大宇宙を、たとえば顕微鏡一台買うてだに一生見て楽しむところ尽きず、そのごとく楽しむところ尽きざればなり。」

熊楠は日夜、粘菌というミクロの生物を顕微鏡で覗いており、そこに大宇宙や生命そのものを見出していました。普通であれば望遠鏡で大宇宙を見るのですが、熊楠は顕微鏡で大宇宙を見ることができたというわけですね。顕微鏡による粘菌の観察は「内側へ籠もること」であるとも考えられるのですが、実は、その先には大宇宙が広がっていて「内側がそのまま外に繋がっている」ということを、この言葉は端的に表しています。まさに、詩のような言葉ですね。

不思議な生き物「粘菌」

唐澤:
「南方マンダラ」の右側に写っている黄色いものは「変形菌※」で、粘菌のことです。「南方マンダラ」の説明の中で熊楠が用いている言葉には、華厳思想の影響が見られます
僕は「南方マンダラ」と粘菌の形状が、極めてよく似ているということに着目しています。

実際、熊楠が「南方マンダラ」を描いたのは、1903年7月18日で、7月は一番、粘菌が活動する時期でもあります。だから、否が応でも、粘菌のヴィジョンがその時の熊楠の深層心理に刻まれていたということは、無視できないのではないのではないのでしょうか。
 ※参考 変形菌ミニ百科(変形菌の世界、国立科学博物館ホームページ)
 ※参考 唐澤太輔「南方熊楠と仏教 ― 華厳思想・真言密教の影響」(論、2017年11月1日、中外日報)
 ※参考 土宜法龍宛書簡(南方マンダラほか)(南方熊楠顕彰館)

唐澤:
このスライドに写っているのは、僕が採取して観察している粘菌です。様々な色や形のものがありますが、アメーバ状になっているのが「変形体」と呼ばれているもので、キノコ状になっているものが「子実体」と呼ばれているものです
粘菌は、調べれば調べるほど面白い生き物です。アメーバ状のものがキノコのようになり、そこから胞子を出して、その胞子が集まってまたアメーバ状になる。どこからが「生」で、どこからが「死」なのかという区別が付けづらい、非常に不思議な生き物なんです。
 ※参考 変形菌の生活史(変形菌の世界、国立科学博物館)

秋田公立美術大学 粘菌研究クラブの活動

唐澤:
僕は今、秋田公立美術大学で「粘菌研究クラブ※」を組織して、様々な活動を行っています。粘菌の生態を調べて哲学的なエレメントを抽出したり、月に1、2回、ミーティングや研究会を開催し、粘菌の基本的生態や、海外での粘菌とアートの展開について調べたりしています。そのアウトプットとして、ワークショップやプロジェクト、展覧会などを開催しています。
 ※参考 秋田公立美術大学 粘菌研究クラブ @nenkin.art(Facebook)

唐澤:
スライドの左上に写っているのは、去年行った「粘菌を探そう!ワークショップ」の様子です。自然豊かで粘菌の多い秋田県内の公園に行き、粘菌を採集して観察しました。
また、消しゴムはんこを押した粘菌Tシャツを作ったり(左下)、人間が粘菌にどこまで近づけるのか挑戦した、映像作品「粘菌研究」を制作したりしました(中央2枚)。他にも、シンポジウム(右上)や展覧会(右下)も開催しています。
 ※参考 粘菌研究 | 大森山動物園×秋田公立美術大学(秋田公立美術大学 Akita University of Art、YouTube)

唐澤:
粘菌研究クラブでは、ミクロの粘菌を客観的に観察するだけではなく、その内側に入り込んで、粘菌の視点はどういうものなのかを考えています。活動を通して、「マクロコスモス(大宇宙)」、あるいは、世界の在り方、関係性を探求しています。
粘菌は「小即大、多即一的」な在り方をしています。粘菌は多核単細胞で、核がたくさんあるのに単細胞、つまり、多でありながら一なんですよ。また、熊楠が言うように、ミクロの世界に大宇宙が見えるという意味では「小即大」でもあります。僕は、粘菌のそのような生態から、哲学的なエッセンスを見出しています。
粘菌研究クラブのメンバーには、学部生や大学院生、助手、教員など、色々な方がいますが、複合的で粘菌的な組織として今後も活動する予定です。今年度は、粘菌の「歩調」に、人間はどうすれば合わせることができるのか、両者がシンクロしたときに何が起きるのかを探求していきたいと思っています。

「ルーツ」の意味とは?

宮津:
唐澤先生、ありがとうございました。
1つ質問なのですが、唐澤先生が准教授をされている秋田公立美術大学のアーツ&ルーツ専攻について、「ルーツ」とはどういう意味なのでしょうか?

唐澤:
秋田には多彩な民俗資源や文化資源があります。アーツ&ルーツ専攻では、そのような文化、民俗、宗教の根本的なところ、つまり「根源」をフィールドワークを通して探っています。それを各々が吸収して、どういう風に表現していくかということをやっています。だから、ここでいう「ルーツ」とは、「根源」という意味でもあります
 ※参考 秋田公立美術大学 美術学部美術学科 アート&ルーツ専攻(秋田公立美術大学ホームページ)

宮津:
なるほど、分かりました。ありがとうございました。
粘菌の研究もそうですが、熊楠の研究内容は学際的で、様々な分野を横断しているんですね。

唐澤:
そうですね。だから、熊楠を「何々学者」と呼ぶのはとても難しいんですよ。博物学者でもあり、哲学者でもあり、民俗学者でもある。僕は一度、熊楠の肩書きについて調べたのですが、60以上ありましたね(笑)。それぐらい、「何々学者」という枠や定義を超えているような人物であると言ってもいいかもしれません。

【2】前田氏とアートの関係性

宮津:
続いて、前田耕平さん。今日参加されている方は、特に、前田さんがどういう作品を作られているのかということに興味があると思いますので、自己紹介をよろしくお願いいたします。

カヌーから美術の世界へ

前田:
ご紹介いただきました、前田耕平です。
唐澤先生と一緒にトークをさせてもらえるということで、緊張しています(笑)。南方熊楠や唐澤先生との出会いについては、後ほどお話ししますが、まずは簡単な自己紹介をさせていただきます。

僕は、1991年、和歌山県田辺市で生まれました。小学校から高校まで田辺市内の学校に通っており、約18年間、田辺市で育ってきました。
小学生の頃から、友達を集めてホームビデオで映画撮影をしたり、写真を撮りに行ったりしていました。もちろん、絵を描くことも好きでした。
神島高校に入学後、カヌー部に入部し、カヌー競技を3年間やっていました。カヌーを続ける中で、競技そのものよりも、川や湖など、練習や大会で訪れた場所や、活躍している選手を撮ることの方が楽しいと感じるようになりました。カヌーを漕ぎながら「こういうこと、したいかもしれんなあ」と思い、美術の道に進むことにしました。
高校卒業後は、兵庫県にある大手前大学芸術学部に入学しました。4回生ぐらいのタイミングでフランス留学の機会を得たのですが、これが現代美術との出会いでした。
その後、京都市立芸術大学の大学院に進み、本格的に現代美術を学び始めました。ちょうど「自分の表現って一体、どんなものなんだろう。僕は、どんなことに興味があるんだろう」ということを、深く知りたいと思っていた時期でした。

シェアスタジオ「SSK」での活動

前田:
現在、僕は、大阪の元造船所施設のシェアスタジオ「SSK」を拠点に活動しています。スタジオの中にはアーティストが十数組入っており、それぞれ、作品を制作しています。
スライドに写っているのは、僕が普段利用しているエリアです。天井の高さを活かして、大きな作品を制作することもできますし、映像作品の編集のような細かい作業もできます。
船のような作品が写っている奥の場所は、ギャラリースペースです。自分の作品の展示実験ができるので、作品の中に映像を投影したり、作品そのものを吊るしたりするなど、展示方法を試行錯誤することもできます。

前田:
スタジオの中は広くて、色々な人がいるんですよ。木を彫っている人や絵を描いている人、屋台を研究している人など、プロで活動している人ばかりです。大学に通っていたとは違う刺激をもらえるので、毎日楽しくやれています。

「自分自身」を作品に登場させる理由

前田:
世界各国には「アーティスト・イン・レジデンス ※」という、色々な場所に訪れたアーティストが、滞在して作品の制作ができるプログラムがあるのですが、僕も、このプログラムを利用して、タイのチェンマイで「パンガシアノドン ギガス」という映像作品を制作しました。これは、メコンオオナマズという魚について考える作品で、映像ではタイの人々の生活の様子も見ることができます。1分程度のダイジェスト映像を用意していますので、どうぞご覧ください。
 ※参考 AIR_J:日本全国のアーティスト・イン・レジデンス総合サイト
 ※参考 Res Artis – Worldwide Network of Arts Residencies

 ※参考 pangasianodongigas digest(Kohei Maeda、YouTube)

前田:
ご覧いただき、ありがとうございました。
今のダイジェスト映像のように、僕が作る映像作品の中には、自分自身が登場することが多いんです。自分の実体験を通して、ドキュメンタリー要素を持ち合わせたような映像作品を作ることが多いので、自分のパフォーマンスとしての身体表現や、映像作品としての表現を、今後も磨き続けていきたいと思っています。

空間と平面を活かした展示方法

前田:
僕は、空間を使った作品を発表することも多いのですが、空間との関係性を意識する中で、自分が考えていることを伝えるために、絵や写真などの「平面的な表現」をすることもあります。
この絵は8mほどの大きさなのですが、実は、絵の裏には、先ほど見ていただいたダイジェスト映像が投影されています。このように、空間の中の仕組みを考えるということもやっています。

前田:
時には、空間いっぱいに立体物を展示することもあります。これは、3mほどの土の張り子を展示していたときの写真ですね。

前田:
他にも、色々な部屋に映像や写真を展示することで、自分が考えていることを色々な形で伝えられるようにしたい、と考えています。

パブリックなスペースでの作品展示

前田:
最近では、芸術祭のようなパブリックなスペースを利用したり、屋外で立体物と一緒に自分の体を使ってパフォーマンスしたりしています。
この写真は「六甲ミーツアート」という芸術祭で神戸市長賞をいただいたときのもの※で、金網で作ったセミの抜け殻の中に入って、抜け殻の割れ目から顔を出して叫んでいるという、パフォーマンスです。
 ※参考 「公募大賞が決定いたしました!」(お知らせ、2019年9月11日、六甲ミーツ・アート 芸術散歩2019)
 ※参考 「【卒業生|前田耕平さん】『六甲ミーツ・アート芸術散歩2019』神戸市長賞を受賞」(最新情報、2019年10月6日、大手前大学)

前田:
他にも、1つのアプローチとして「実体がないものを、たくさんの人と一緒に協力して、何かを成し得る」ということもやっていて、その記録を撮影して映像作品にしています。作品の中には自分が写っていて、現象的なものを俯瞰的に捉えるということもしています。
「これを作ったら、次はこれをやりましょう!」という感じで、色々なアイデアが止まらない状況で、制作を続けています。

前田氏の「ルーツ」とは?

前田:
こういう作品を作るようになったルーツは、大学院での研究テーマにあります。大学院では、1つのテーマに絞って研究をするのですが、研究室の先生と相談していたときに「和歌山とか、南方熊楠という人がいたな」という話が出て、すぐに「それでいこう!」と決まりました。
それからは、南方熊楠というテーマで2年間、研究を行いました。熊楠は亡くなってしまったので直接話すことはできないけれども、熊楠との対話や交信の結果を記録することで、新しい表現方法に繋がるかもしれないと思い、突っ走ってきました。

前田:
元々、地元では海がすぐ近くにあり、他にも、山や面白い地形の場所があったので、よく友達とそういう場所で遊んできました。
子供の頃は、自然を身近に感じていたのですが、大学入学のときに初めて、都会なるものを経験したことで変化が起こりました。自然に近かった自分と、人工的なものに近づいていく自分、そして、その狭間で揺れている自分がいることに気付いたんです。徐々に、自然との距離感を意識するようになり、最初の方はこのような絵を書いていました。

前田:
スライドに写っているのは、唐澤先生が書かれた『南方熊楠:日本人の可能性の極限』という本です。研究を続ける中で、唐澤先生の本にも出会いました。南方熊楠について調べていくうちに、自然との距離感を意識していた人は熊楠だったのではないか、自分が考えていることが熊楠と繋がっているのではないか、と思うようになりました。

前田:
それからはまず、たくさんの人の力を借りることにしました。先ほど、唐澤先生が仰っていた「事、物、心」のように、人間が誰しも生きている中で「そういえば、なんだろうなそれ?」と考えるようなこと、これを一緒に考える時間や場を作ったら面白いのではと思い、「動くまんだらぼ」というプロジェクトを立ち上げました。移動式の研究屋台を作って街に出かける、というフィールドワークの方法を、自分で編み出しました。

前田:
他にも、展開すると半円型になるという研究所のようなスペースも作り上げました。その場所に人が集まって、熊楠について一緒に考えたり、本を読んだり、話したりしていました。

前田:
活動を続けて人が集まってくるようになると、「一緒に何かを考えて、熊楠が考えたような、モヤモヤとしたものが立ち上がってくる」という状況が、大凧揚げをやっている姿に見えてきたんです。
この大凧に写っているのは、南方熊楠と僕の顔を混ぜ合わせた顔で、この世に存在しない顔です。この大凧を象徴的なものとして、そのときに関わってくださった方々と一緒に引っ張り揚げ、それを作品として記録しました
 ※参考 「Over to you」(works、前田耕平 Kohei MAEDA portfolio site)

前田:
大凧揚げは、京都と和歌山で行いました 。この大凧は、熊楠というものに近づくために一緒に考えてくださった方々がいる場所で、「一緒に揚げてくれませんか?」とお願いして作った作品なんです。

今のところ、紀南アートウィークに出展作家として参加させていただく予定です。もしかすると、このような作品をどこかで展示させていただくかもしれませんので、よろしくお願いいたします。
 ※参考 「Over to You」(COLLECTIONS、Aura Asia Contemporary Art Project)

宮津:
前田さん、ありがとうございました。
現在、紀南アートウィークで何をやるのかを発表をする時期に来ています。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行で状況が見えづらいため、リアルで紀南アートウィークができるのか、それとも別の形で紀南アートウィークをやらざるを得ないのかを、模索している最中です。まだ、参加アーティストは正式に発表していませんが、リアルで紀南アートウィークをすることになれば、是非、前田さんにご参加いただきたいと考えています。

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後編へ続く >>

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