みかんコレクティヴ
KINAN ART WEEK 2022「みかんマンダラ」 を振り返る
植物や微生物たちと人類のむすびつきを探る展覧会からアートプロジェクトへ
私たちは和歌山県紀南地方の地域資源である柑橘をテーマとしたアートプロジェクト「みかんコレクティヴ」を実施しています。これは、蜜柑について考え、協働する機会を、農家、アーティスト、デザイナー、キュレーター、研究者たちとつくる活動です。
その活動が母体となり、2022年は10月6日(木)〜10月16日(日)の11日間にわたり、和歌山県田辺市内の複数箇所で「みかんマンダラ」展の作品展示及び関連イベントが開催されました。
それぞれの会場や作品は、「みかんコレクティヴ」の話し合いやリサーチによって、蜜柑の栽培、及びその生態と周辺環境について考えてきたことを、南方熊楠が熊野の生き物に見出した宇宙的広がりを重ね合わせてみる試みになりました。また、その展示をきっかけに地域と関わる長期的なプロジェクトに着手しています。ぜひ、今後の展開にもご注目ください。
参考:
「みかんコレクティヴ:内なるみかん ひらくオレンジ」https://kinan-art.jp/info/5785/
「みかんマンダラ」展開催のお知らせ https://kinan-art.jp/info/9005/
4つの会場に展示された作品と、会期中に行われたイベントについては以下でご覧いただけます。
さらに、その下をスクロールしていただくと、実行委員長からの報告と各レビュー寄稿文を読むことができます。植物の生態に実践と感覚によって接近し、「みかん」を切り口にアーティストや研究者たちが見つけ出したコスモロジーにぜひ触れてみてください。
■展示テーマ「実り / 果実を巡る旅」
アーティスト:廣瀬智央
展示場所:秋津野ゆい倉庫
地域の農家の共同出資により作られた農業法人「株式会社 秋津野ゆい」の倉庫を展示会場とし、蜜柑の生産や流通に関わる場所で、廣瀬智央による長期アートプロジェクトの提案と、みかんコレクティヴの活動とそれに関連する作品展示を行いおこないました。
■「菌と共生 / 菌根ネットワーク」
アーティスト:ビー・タケム・パッタノパス、ピヤラット・ピヤポンウィワット、トゥアン・マミ、クイン・ドン、狩野哲郎、廣瀬智央、あわ屋
展示場所:SOUZOU(旧岩橋邸)
南方熊楠が目を向けた菌や植物の生態、また自然と人の共生のあり方に目を向けた作品を展示しました。
■ 「土と根 / 見えない根を探る」
アーティスト:bacilli(バシライ)、廣瀬智央、クワイ・サムナン
展示場所:愛和荘
芹沢銈介など文化人に愛された旅館を新たな文化交流を誘発すべく、熊野の自然に想像力を喚起された廣瀬の作品と、土を多角的に捉える活動を行うアートユニット・バシライによるワークショップの実施と展示を行いました。
■ 「みかん神話」 VRアーティスト:VR蕎麦屋タナベ
展示場所:オンライン(VRchat上) 、展覧会期中は tanabe en+ にてVR体験可
みかんと神話、根の世界と果実の世界を反転、などをキーワードにVR空間上に体感型のアート作品を制作。2022年6月に川久ミュージアムで行われた展覧会にて公開したβ版を発展させた新たなVR空間の体験。
開催イヴェント
■10/6 (木) 19:00 〜 「みかんマンダラ展 オープニングトーク」
スピーカー:藪本雄登(紀南アートウィーク実行委員長)、廣瀬智央、クワイ・サムナン、あわ屋
場所: tanabe en+
アーカイブ映像はこちらから閲覧可能です。(https://www.youtube.com/watch?v=UDi_fvbF3Uk)
■10/7 (金) 18:00 〜 特別トークセッション 「土と根の記憶 カンボジアと紀南/熊野から」
スピーカー:クワイ・サムナン(現代アーティスト)、石倉敏明 (秋田公立美術大学美術学部 准教授、芸術人類学者)
場所:愛和荘
芸術人類学者・石倉敏明氏をお招きし、クワイ・サムナン氏とのトークセッションを開催しました。石倉氏は、インドや日本中を旅しながら、日本の伝説、民俗や神話を調査し、多くの研究発表を行っています。両者の対話を通じて、カンボジアと紀南の隠された記憶、物語や神話の共通性や相違をあぶり出していきました。
サムナン氏の作品を起点にしながら、カンボジアと熊野の神話、西洋のダンスと東洋の舞踏、植物と動物等の表現の差異と類似について触れつつ、カンボジアと紀南の根や土について語り合いました。サムナンの言葉、詩やダンスから、植物と動物、精神と物質などを切り分けず、矛盾律を越えた神話思考が彼の基礎にあり、その表現が構築されているという直感を得られたことが、重要な収穫であったように思います。トーク中に行われたサムナン氏の即興の詩やダンスは、言葉や言語を超えて、熊野の地と繋がる「何か」を感じさせてくれました。
トークの書き起こしは、こちらから閲覧可能です。(https://kinan-art.jp/info/11027/)
■10/8 (土) 10:00 〜 オープニングセレモニー「苗木の旅」(苗贈与式) & トークセッション
スピーカー:廣瀬智央(アーティスト)、原拓生(紀州原農園 園主)
場所:秋津野ゆい倉庫前
■10/9 (日) 10:00~11:30 絵画ワークショップ 「みなかたる」
アーティスト:杵村直子
場所:SOUZOU(旧岩橋邸)
アーティストの杵村直子氏による、絵画ワークショップ 「みなかたる」を開催いたしました。地域の子ども達を中心に、南方熊楠が残した細密な標本画を手本に、SOUZOUの庭で採取した植物の描写に加えて、(時には架空の)説明文や注釈などの言葉をまぜこぜにする絵画体験を提供しました。柑橘の汁で濡らし炙った紙を使うことで、時の移ろいも超えたような独自の熊楠的世界を描き出し、生成変化する植物の全体像を捉え直そうとしました。
■10/9 (日) 15:00~17:00 トークショー「みかん神話 -紀南の神を知ろう-」
スピーカー: 山本哲士(文化科学高等研究院ジェネラル・ディレクター) 、坂本このみ(熊野ログ管理人)、原拓生(紀州原農園 園主)
場所: tanabe en+ & オンライン
アーカイブ映像はこちらから閲覧可能です。(https://kinan-art.jp/info/10383/)
トークの書き起こしは、こちらから閲覧可能です。(https://kinan-art.jp/info/10383/)
■10/9 (日) 12:00~14:00 紀南アートウィーク VR Live Show
場所:Online (VRchat)
出演アーティスト: Ambientflow ku、やまみー、「カソウ」舞踏団、ジビエーズ(ドコカノうさぎ&沙影)、おきゅたんbot/宝来すみれ
みかんマンダラ展の本会場とVR展示が繋がるイベント。VRアーティスト5組によるVR内でのリアルタイムLIVEと、HMDを使ってLIVE中のVR空間に入る体験ができました。
■ 10/13(木)- 16(日) 旅先で感性を形に残すアートワーケーション
場所:田辺市、白浜町各所
関西圏で活躍する日本人アーティストが滞在し、実行委員長の藪本と一緒に「みかんマンダラ」展をめぐりました。そこで得たインスピレーションを基礎に、滞在制作を実施しました。参加者からは「予想以上に学び深かった」というようなコメントをいただき、有意義な滞在となったことでしょう。
■ 10/14(金)、10/15(土) 湯治とアートの夕べ ~紀南アートウィーク2021で知り合ったエネルギーあふれる方々のトーク~
スピーカー:熊野幸代(旅館しらさぎ)、尾崎寿貴(美容室Shinju)、石山登啓(高垣工務店)
場所:南紀白浜椿温泉宿 旅館しらさぎ & オンライン
「日本一たくさん女将のいる宿」企画等、新しい試みに次々と挑戦し、その癒しのお人柄にも多くのファンがいる、白浜、椿温泉旅館しらさぎの女将 熊野幸代さんをホストに、2名のゲストをお呼びしました。
1日目のゲスト、美容室Shinjuオーナー&美容師 尾崎寿貴さんは、2022年3月3日、このビルの一部を美容室「SHINJU」としてオープンし、美容室だけではなく、白浜駅前の場所としての価値を再創造するため奮闘。順調なスタートをはじめたばかりの2022年6月、ビルが突然の火災に。最悪に困難な状況からも、夢をあきらめず前進する尾崎さんの力強いお話を伺いました。紀南アートウィーク2021では、ご実家がある白浜駅前のビルを本部や展示会場としてお借りしました。
2日目のゲストは株式会社高垣工務店 代表取締役社長、石山登啓さん。和歌山県田辺市で昭和27年に創業された高垣工務店で「人生参加型工務店」をモットーに人々を幸せにすることへの追求と工務店の収益を見事に両立されている素晴らしい経営者です。独自の「ゴレンジャー理論」「ジャニーズ戦略」等、ユニークかつ本質をついた経営戦略は捧腹絶倒で、時間があっという間でした。
全体を通して80名程の方にご参加いただきました。1日目の参加者は女性が多く、懇親会後のお風呂でも盛り上がり続けるほどの大盛況でした。また、2日間を通してリアル参加いただいた方からは「前向きに生きることへ背中を押してもらった。参加してほんとによかった」と喜んでいただけました。笑い転げながら、紀南の魂に触れたような印象深い2日間を皆さんと共有することができました。
■ 10/14(金)18:00~21:00 ふたかわ超学校 × 紀南アートウィーク コラボ企画 『太陽の塔』上映会+唐澤太輔氏 特別トーク
場所: tanabe en+
日本に住んでいれば何らかの形で見たことがあるであろう岡本太郎の《太陽の塔》。圧倒的な異物感と存在感はいまだに人々の興味を引いて離さない芸術作品です。映画「太陽の塔」では、その制作の背景、思想などが数々の専門家やアーティスト等によって述べられます。太陽の象徴としての「みかん」がここ紀南にありますが、生命の樹、地底の太陽、マンダラ、神話、粘菌など、太陽の塔/岡本太郎の思想は、今回の「みかんマンダラ」展と響き合っていました。今回、映画「太陽の塔」の上映後、映画に登場する哲学者、南方熊楠研究者の唐澤太輔氏をお招きし、紀南在住のアーティストの福島氏、みかん農家の川崎氏、南方熊楠について造詣の深い倉谷氏をお招きして、紀南のみかんと太陽の塔との繋がりの発見を試みました。
トークの書き起こしは、こちらから閲覧可能です。(準備中)
■10/15 (土) 17:00~18:30 bacilli × Caravansarai ~薫る土壌~
場所:愛和荘
紀南地域在住のアーティストであるbacilliの南条嘉毅氏を中心に、田辺のフレンチレストラン「Caravansarai」の更井亮介シェフとの協働による「薫る土壌」と銘打った食事会を開催し、地域の人たちと、果実と土の境界を越えて、「食べることとは何か」、「農業とは何か」、「土とは何か」、「場所とは何か」ということを改めて考え直す場を生み出しました。
■10/15 (土) 19:00〜 サウンドアートユニット AWAYA ライブ「みかん神話」
場所:愛和荘
■10/16 (日) 13:00 〜 17:00 親子ワークショップ「みかん教室」ワカヤマスコラボ
場所:秋津野ガルテン
和歌山での探究型バイリンガル小・中学校設立を目指している「ワカヤマスコラボ」と協働し、秋津野ガルテンと柏木農園にて、親子ワークショップ「みかん教室」を開催しました。ワカヤマスコラボは、「探究学習」、「食の学び」、「自然・文化体験」、「グローバルとローカルの視野」などをキーワードに、和歌山の自然・郷土と風土を探究・実践・協働的に設計しています。「みかん教室」では、みかん農園のフィールドに訪問し、親子で共に学び、探究を深めるワークショップを実施しました。当日発表する探究の主題を基礎に、近隣のみかん畑でフィールドワークを行ったあと、大人と子どもに分かれてそれぞれのチームでマインドマップを活用したワークショップを実施しました。最後にお互いの研究結果を発表し合い、より深い学びを共有しようと試みました。
レビュー記事
1. ⼈間とみかんの関係を再構築する
「みかんと人間の芸術人類学 -「みかんマンダラ」展を終えて-」藪本雄登
中編:https://kinan-art.jp/info/10597/
後編:https://kinan-art.jp/info/10675/
2. 社会の変化とともにみかんを味わい直す
「ポスト成長期への準備のための『みかんマンダラ』展」太田和彦
3. 単線的/単層的な時空間を超えるマンダラの思想をめぐって
「異次元の果実の輝き」唐澤太輔
4. 地域に関与する芸術の時間と空間を拡張する
「コモンズ農園」の歴史的文脈を語る(メールによる往復書簡) 金井直×住友文彦